「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
昔=名詞
袴田(はかまだれ)=名詞
とて=格助詞
いみじき=シク活用の形容詞「いみじ」の連体形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。
盗人=名詞
の=格助詞
大将軍=名詞
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
昔、袴垂とていみじき盗人の大将軍ありけり。
昔、袴垂といって並はずれた盗賊の頭がいた。
十月=名詞
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
に=格助詞
衣=名詞
の=格助詞
用=名詞
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
衣=名詞
少し=副詞
まうけ=カ行下二段動詞「設く・儲く(まうく)」の未然形、準備をする、用意をする。得をする、思いがけない利益を得る。
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
とて=格助詞
十月ばかりに衣の用なりければ、衣少しまうけんとて、
十月頃に、着物が必要であったので、着物を少し手に入れようと思って、
さる=連体詞、あるいはラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
所々=名詞
うかがひありき=カ行四段動詞「窺ひ歩く(うかがひありく)」の連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
に=接続助詞
夜中=名詞
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
に=格助詞
人=名詞
みな=名詞
静まり果て=タ行下二段動詞「静まり果つ」の連用形
て=接続助詞
のち=名詞
月=名詞
の=格助詞
朧なる=ナリ活用の形容動詞「朧なり(おぼろなり)」の連体形
に=格助詞
さるべき所々うかがひありきけるに、夜中ばかりに、人みな静まり果ててのち、月の朧なるに、
(盗むのに)適当な所をあちこち探して歩きまわったところ、夜中ごろに、人がみな寝静まりきった後、月がおぼろげに出ている時に、
衣=名詞
あまた(数多)=副詞、たくさん、大勢
着=カ行上一段動詞「着る」の連用形
たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
主=名詞
の=格助詞
指貫(さしぬき)=名詞、貴族の平服
の=格助詞
稜(そば)=名詞、袴の左右両脇の開きの縫止めの部分
挟み=マ行四段動詞「挟む(はさむ)」の連用形
て=接続助詞
絹=名詞
の=格助詞
狩衣めき=カ行四段動詞「狩衣めく」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
着=カ行上一段動詞「着る」の連用形
て=接続助詞
衣あまた着たりける主の、指貫の稜挟みて、絹の狩衣めきたる着て、
着物をたくさん着ている人が、指貫の稜を(腰の帯に)挟んで、絹の狩衣のようなものを着て、
ただ=副詞
一人=名詞
笛=名詞
吹き=カ行四段動詞「吹く」の連用形
て=接続助詞
行き=カ行四段動詞「行く」の連用形
も=係助詞
やら=補助動詞「やる」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
練り行け=カ行四段動詞「練り行く(ねりゆく)」の已然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
ただ一人、笛吹きて、行きもやらず、練り行けば、
たった一人で、笛を吹いて、急いで行くこともなく、ゆっくり歩いて行くので、
あはれ=感動詞、ああ、あれ
これ=代名詞
こそ=強調の係助詞
我=代名詞
に=格助詞
衣=名詞
得(え)=ア行下二段動詞「得(う)」の未然形。ア行下二段活用の動詞は「得(う)」・「心得(こころう)」・「所得(ところう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
させ=使役の助動詞「さす」の未然形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
とて=格助詞
出で=ダ行下二段動詞「出づ(いづ)」の連用形
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
人=名詞
な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記になったもの、「なる」→「なん(音便化)」→「な(無表記化)」
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
と=格助詞
思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
て=接続助詞
「あはれ、これこそ、我に衣得させんとて、出でたる人なめり。」と思ひて、
「ああ、この人こそ、自分に着物を得させようとして、出てきた人であるようだ。」と思って、
走りかかり=ラ行四段動詞「走りかかる」の連用形
て=接続助詞
衣=名詞
を=格助詞
剥が=ガ行四段動詞「剥ぐ(はぐ)」の未然形
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と=格助詞
思ふ=ハ行四段動詞「思ふ」の連体形
に=接続助詞
あやしく=シク活用の形容詞「怪し・奇し/賤し(あやし)」の連用形、不思議だ、変だ。/身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい
物=名詞
の=格助詞
おそろしく=シク活用の形容詞「恐ろし」の連用形
おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ/覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
添ひ=ハ行四段動詞「添ふ(そふ)」の連用形
て=接続助詞
ニ=名詞
三町=名詞
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
行け=カ行四段動詞「行く」の已然形
ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
走りかかりて衣を剥がんと思ふに、あやしく物のおそろしくおぼえければ、添ひて二、三町ばかり行けども、
走りかかって着物をはぎ取ろうと思うが、不思議になんとなく恐ろしく感じられたので、あとについて二三町ほど行くが、
我=代名詞
に=格助詞
人=名詞
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
つき=カ行四段動詞「付く」の連用形
たれ=存続の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
と=格助詞
思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
けしき(気色)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり。
なし=ク活用の形容詞「無し」の終止形
我に人こそつきたれと思ひたるけしきなし。
自分に人がついてきていると思っている様子もない。
いよいよ=副詞
笛=名詞
を=格助詞
吹き=カ行四段動詞「吹く」の連用形
て=接続助詞
行け=カ行四段動詞「行く」の已然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
試み=マ行上一段動詞「試む(こころむ)」の未然形
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と=格助詞
思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
て=接続助詞
足=名詞
を=格助詞
高く=ク活用の形容詞「高し」の連用形
し=サ変動詞「す」の連用形
て=接続助詞
走り寄り=ラ行四段動詞「走り寄る」の連用形
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
に=接続助詞
いよいよ笛を吹きて行けば、試みんと思ひて、足を高くして走り寄りたるに、
ますます笛を吹いて行くので、試してみようと思って、足音を高くして走り寄ったところ、
笛=名詞
を=格助詞
吹き=カ行四段動詞「吹く」の連用形
ながら=接続助詞
見返り=ラ行四段動詞「見返る」の連用形
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
けしき(気色)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり。
取りかかる=ラ行四段動詞「取りかかる」の終止形
べく=可能の助動詞「べし」の連用形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
も=係助詞
おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ/覚ゆ(おぼゆ)」の未然形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」
ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
走り退き=ラ行四段動詞「走り退く」の連用形
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
笛を吹きながら見返りたるけしき、取りかかるべくもおぼえざりければ、走り退きぬ。
笛を吹きながら振り返った様子は、襲いかかることができそうにも思えなかったので、走り退いてしまった。
続きはこちら宇治拾遺物語『保昌と袴垂』(2)品詞分解のみ