古文

源氏物語『葵』品詞分解のみ(1)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

【主な登場人物】

(たい)(しょう)殿(どの)=光源氏。  大殿(おおとの)(あおい)(うえ)。左大臣家の姫君。  ()(やす)(どころ)(ろく)(じょう)()(やす)(どころ)

 

 

大殿(おおとの)=名詞

=格助詞

=係助詞

御物の怪(おんもののけ)=名詞

いたう=ク活用の形容詞「甚し(いたし)」の連用形が音便化したもの、(良い意味でも悪い意味でも)程度がひどい

起こり=ラ行四段動詞「起こる」の連用形

=接続助詞

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

わづらひ=ハ行四段動詞「煩ふ(わづらふ)」の連用形、苦しむ、悩む。病気になる。

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

大殿(おおとの)には、(おん)(もの)()いたう起こりて、いみじうわづらひ給ふ

葵の上におかれては、御物の怪がひどく起こって、たいそうお苦しみになる。

 

 

=代名詞

=格助詞

御生霊(おんいきすだま)=名詞

故父大臣(こちちおとど)=名詞

=格助詞

御霊(ごりょう)=名詞

など=副助詞

言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形

もの=名詞

あり=ラ変動詞「あり」の終止形

=格助詞

聞き=カ行四段動詞「聞く」の連用形

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

=格助詞

つけ=カ行下二段動詞「つく」の連用形

=接続助詞

思しつづくれ=カ行下二段動詞「思し続く(おぼしつづく)」の已然形、「思ひ続く」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

「この(おん)(いきす)(だま)()(ちち)大臣(おとど)()(りょう)など言ふものあり。」と聞き給ふにつけて、思しつづくれば、

「ご自分の(いき)(りょう)や、亡き父大臣の死霊だなどと言う者がいる。」と、(六条の御息所が)お聞きになるにつけて、お考え続けになると、



 

身ひとつ=名詞

=格助詞

憂き=ク活用の形容詞「憂し(うし)」の連体形、つらい、心苦しい。いやだ。にくい、気に食わない。

嘆き=名詞

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

ほか=名詞

=格助詞

=名詞

=格助詞

悪しかれ=シク活用の形容詞「悪し(あし)」の命令形、悪い。不都合だ。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。

など=副助詞

思ふ=ハ行四段動詞「思ふ」の連体形

=名詞

=係助詞

なけれ=ク活用の形容詞「無し」の已然形

=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

身ひとつの憂き嘆きよりほかに、人を悪しかれなど思ふ心もなけれど、

我が身のつらさや嘆きより他に、人を不幸になってしまえなどと思う気持ちもないけれど、

 

 

もの思ひ=名詞

=格助詞

あくがる=ラ行下二段動詞「憧る(あくがる)」の終止形、さまよい出る、離れる。思いこがれる。うわの空になる。

なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「なり」には「伝聞・推定」の意味があるが近くに音声語が無い時は伝聞の意味になる可能性が高い。直前に終止形があるので、「断定・存在」の助動詞「なり(接続は体言・連体形)」ではない。「あくがる」の連体形は「あくがるる」。

=名詞

=係助詞

=副詞、そう、その通りに、そのように。

=係助詞

=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

もの思ひにあくがるなる魂は、さもやあらむ

物思いで悩んだあげくにさまよい出て行くとかいう魂は、そのようなこともあるのだろうか。

 

 

=格助詞

思し知ら=カ行下二段動詞「思し知る(おぼししる)」の未然形、「思ひ知る」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。

自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

こと=名詞

=係助詞

あり=ラ変動詞「あり」の終止形

 

と思し知らるることもあり。

と、身にしみてお気づきになることもある。

 

 

年ごろ=名詞、長年、長年の間

よろづに=副詞、あれこれに、さまざまに

(万)よろづ=名詞、すべてのこと、あらゆること。

思ひ残す=サ行四段動詞「思ひ残す」の連体形

こと=名詞

なく=ク活用の形容詞「無し」の連用形

過ぐし=サ行四段動詞「過ぐす」の連用形

つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形

=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

年ごろ、よろづに思ひ残すことなく過ぐしつれど、

長年、さまざまに物思いの限りを尽くして過ごしてきたけれど、



 

かう(斯う)=副詞、こう、このように。 「斯く(かく)」が音便化したもの。

しも=副助詞。強調。ここでは「かう」を強調して、「こんなに・これほどまで」などと訳すと良い。

砕け=カ行下二段動詞「砕く(くだく)」の未然形

=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

=接続助詞

はかなき=ク活用の形容詞「はかなし」の連体形、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした。

こと=名詞

=格助詞

(おり)=名詞、時、場合、機会、季節

=格助詞

 

かうしも砕けぬを、はかなきことの折に、

こんなにも思い乱れないのに、ちょっとした事の機会に、

※はかなきことの折=禊の際に六条の御息所と葵の上との間で起こった車争いのことを指している。

くわしくはこちら源氏物語『車争ひ』現代語訳(3)(4)

 

 

=名詞

=格助詞

思ひ消ち=タ行四段動詞「思ひ消つ」の連用形

無き=ク活用の形容詞「無し」の連体形

もの=名詞

=格助詞

もてなす=サ行四段動詞「もてなす」の連体形、取り扱う、処置する。ふるまう。饗応する。

さま=名詞

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

御禊(みそぎ)=名詞、六条の御息所の娘のための禊(みそぎ)。禊とは水辺に出て、罪や穢れなどから身を清めること。

六条の御息所の娘は後に梅壺女御となり、秋好(あきこのむ)中宮と呼ばれるようになる。

=格助詞

=名詞

 

人の思ひ消ち、無きものにもてなすさまなりし御禊(みそぎ)の後、

あの人(=葵の上)が無視し、いないものとして扱った態度であった御禊の後、

 

 

ひとふし=名詞

=格助詞

思し浮かれ=ラ行下二段動詞「思し浮かる」の連用形

=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

=名詞

 

ひとふしに思し浮かれにし心、

その一件によって落ち着かなくなりなさった心が、

 

 

鎮まりがたう=ク活用の形容詞「鎮まり難し(しずまりがたし)」の連用形が音便化したもの

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。

自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

(故)=名詞、ため、せい、ゆえ

=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あら(ラ変・未然形)む(推量の助動詞・連体形)」などが省略されていると考えられる。

「にや(あらむ)」→「であろうか」

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など

 

鎮まりがたう思さるるけにや、

(しず)まりそうもなくお思いにならずにはいられないせいであろうか、

 

 

少し=副詞

うちまどろみ=マ行四段動詞「うちまどろむ」の連用形

微睡む(まどろむ)=マ行四段動詞、うとうとと眠る。 「うち」は接頭語で、「すこし、ちょっと・勢いよく」などといった意味がある。

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

=名詞

=格助詞

=係助詞

 

少しうちまどろみ給ふ夢には、

少しうとうととお眠りになる夢には、



 

=代名詞

=格助詞

彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する。

姫君=名詞

=格助詞

おぼしき=シク活用の形容詞「覚し・思し(おぼし)」の連体形、思われる。思っている。

=名詞

=格助詞

いと=副詞

清らに=ナリ活用の形容動詞「清らなり(きよらなり)」の連用形、美しい、きれいだ。

=接続助詞

ある=ラ変動詞「あり」の連体形

=名詞

=格助詞

行き=カ行四段動詞「行く」の連用形

=接続助詞

 

かの姫君とおぼしき人の、いと清らにてある所に行きて、

あの姫君(=葵の上)と思われる人の、たいそうきれいにしている所に行って、

 

 

とかく=副詞、あれやこれやと、何かと

引きまさぐり=ラ行四段動詞「引きまさぐる」の連用形

(うつつ)=名詞、現実、現世。生きている状態、目が覚めている状態。

=格助詞

=係助詞

=ナ行上一段動詞「似る」の未然形

=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

猛く(たけく)=ク活用の形容詞「猛し(たけし)」の連用形

厳き(いかき)=ク活用の形容詞「厳し(いかし)」の連体形

ひたぶる心=名詞、一途な心、ひたすらな心

出で来(いでき)=カ変動詞「出で来(いでく)」の連用形

=接続助詞

 

とかく引きまさぐり、(うつつ)にも似ず、(たけ)(いか)ひたぶる心出で来て、

あれやこれやと引きかきまわし、目の覚めている状態とは違って、猛々(たけだけ)しく激しい一途な心が出て来て、

 

 

うちかなぐる=ラ行四段動詞「うちかなぐる」の連体形

かなぐる=ラ行四段動詞。荒々しくつかんで引っ張る、荒々しく打つ。  「うち」は接頭語で、「すこし、ちょっと・勢いよく」などといった意味がある。

など=副助詞

見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形、見える、分かる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

こと=名詞

たび重なり=ラ行四段動詞「たび重なる」の連用形

=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

うちかなぐるなど見え給ふこと、たび(かさ)なりにけり。

荒々しくつかんで引っ張る様子などを御覧になることが、たび重なってしまった。

 

 

続きはこちら源氏物語『葵』品詞分解のみ(2)「あな、心憂や。げに、身を棄ててや、往にけむ。」と、~

 

源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

 

 

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