「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
かくて=副詞、このようにして、こうして
二月=名詞
の=格助詞
十余日=名詞
に=格助詞
朱雀院=名詞
の=格助詞
姫君=名詞
六条院=名詞
へ=格助詞
渡り=ラ行四段動詞「渡る」の連用形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である朱雀院の姫宮(=女三の宮)を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
かくて、二月の十余日に、朱雀院の姫宮、六条院へ渡り給ふ。
こうして、二月の十日過ぎに、朱雀院の姫宮(=女三の宮)、六条院へお移りになる。
こ=代名詞
の=格助詞
院=名詞、上皇・法皇・女院。または左記の者達の御所。貴族等の邸宅
に=格助詞、用法は主格。格助詞「に」は主格として使われることはあまりないが、直前に「場所」と「人物」の両方の意味を持つ名詞が使われている時は「主格」の用法で使われることがあるので注意。訳:「~におかれても・~が・~は・~も」
上記の「院」の他には、「内裏(天皇・皇居)」・「宮(皇族・皇族の住居)」・「御前(貴人・貴人のおそば)」などがある。
も=係助詞
御心まうけ=名詞、ご準備、お心づもり
設け(まうけ)=名詞、準備、用意、備え。
世=名詞
の=格助詞
常=名詞
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
この院にも、御心まうけ世の常ならず。
この院(=光源氏)におかれても、ご準備は並ひととおりではない。
若菜=名詞
参り=ラ行四段動詞「参る(まいる)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
※「参る・奉る」は目的語に「衣(衣服)・食(食べ物、飲み物)・乗(乗り物)」が来るときは尊敬語となる。「衣(い)・食(しょく)・乗(じょう)」と覚えると良い。「衣:お召しになる、着なさる」、「食:召しあがる、お食べになる」、「乗:お乗りになる」
※「参る」は基本的に謙譲語。本動詞として「参上する、参る。差し上げる。」だったり、補助動詞として「~し申し上げる」となる。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
西=名詞
の=格助詞
放ち出で=名詞
に=格助詞
御帳=名詞
立て=タ行下二段動詞「立つ」の連用形
て=接続助詞
そなた=代名詞
の=格助詞
一=名詞
二=名詞
の=格助詞
対=名詞
渡殿=名詞
かけ=カ行下二段動詞「かく」の連用形
て=接続助詞
女房=名詞
の=格助詞
局々=名詞
まで=副助詞
こまかに=ナリ活用の形容動詞「こまかなり」の連用形
しつらひ=ハ行四段動詞「しつらふ」の連用形、飾り付ける、設備する
磨か=カ行四段動詞「磨く(みがく)」の未然形
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
若菜参りし西の放ち出でに御帳立てて、そなたの一、二の対、渡殿かけて、女房の局々まで、こまかにしつらひ磨かせ給へり。
(光源氏が)若菜を召し上がった西の放ち出でに御帳台を立てて、そちらの一、二の対、渡殿にかけて、女房の各部屋に至るまで、念入りに飾りつけて磨かせなさった。
※放ち出で=名詞、几帳や障子などで仕切って応接用にした部屋
内裏(うち)=名詞、天皇の住まい、宮中、皇居。天皇。
に=格助詞
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、謙譲語。動作の対象(参られた人)である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である朱雀院の姫宮(=女三の宮)を敬っている。作者からの敬意。
人=名詞
の=格助詞
作法=名詞
を=格助詞
まねび=バ行四段動詞「学ぶ(まねぶ)」の連用形、ならう、まねをする
て=接続助詞
か=代名詞
の=格助詞
彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する
院=名詞
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
も=係助詞
御調度=名詞、身の回りの道具・家具など
など=副助詞
運ば=バ行四段動詞「運ぶ」の未然形
る=受身の助動詞「る」の終止形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
内裏に参り給ふ人の作法をまねびて、かの院よりも御調度など運ばる。
宮中に入内なさる人(=女三の宮)の儀式にならって、あちらの院(=朱雀院)からも御調度などが運ばれる。
※調度=名詞、身の回りの道具、調度品
渡り=ラ行四段動詞「渡る」の連用形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である朱雀院の姫宮(=女三の宮)を敬っている。作者からの敬意。
儀式=名詞
言へ=ハ行四段動詞「言ふ」の已然形
ば=接続助詞
さらなり=ナリ活用の形容動詞「さらなり」の終止形、言うまでもない、もちろんだ。言うのもいまさらな感じだ。
渡り給ふ儀式、言へばさらなり。
お移りになる儀式(の盛大さ)は、今さら言うまでもない。
御送り=名詞
に=格助詞
上達部(かんだちめ・かんだちべ)=名詞、公卿、大臣などで三位以上の人
など=副助詞
あまた(数多)=副詞、たくさん、大勢
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、謙譲語。動作の対象(参られた人)である女三の宮を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である上達部などを敬っている。作者からの敬意。
御送りに、上達部などあまた参り給ふ。
お見送りに、上達部などが大勢参上なさる。
か=代名詞
の=格助詞
彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する
家司=名詞
望み=マ行四段動詞「望む」の連用形
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である大納言を敬っている。作者からの敬意。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
大納言=名詞
も=係助詞
安から=ク活用の形容詞「安し」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
ながら=接続助詞
候ひ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連用形、謙譲語。お仕えする、(貴人の)お側にお仕えする。動作の対象である朱雀院の姫宮(=女三の宮)を敬っている。作者からの敬意。
※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である大納言を敬っている。作者からの敬意。
かの家司望み給ひし大納言も、安からず思ひながら候ひ給ふ。
あの家司をお望みになった大納言も、心中穏やかでなく思いながらも伺候なさる。
御車=名詞
寄せ=サ行下二段動詞「寄す」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
所=名詞
に=格助詞
院=名詞
渡り=ラ行四段動詞「渡る」の連用形
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。
て=接続助詞
おろし=サ行四段動詞「おろす」の連用形
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である女三の宮を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。
など=副助詞
も=係助詞
例=名詞、通例。いつもの事、普段。当たり前の事、普通。
に=格助詞
は=係助詞
違ひ=ハ行四段動詞「違ふ」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
ことども=名詞
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
御車寄せたる所に、院渡り給ひて、おろし奉り給ふなども、例には違ひたることどもなり。
お車を寄せている所に、院(=光源氏)がいらっしゃって、お降ろし申し上げなさることなども、通例とは違っていることなどである。
ただ人=名詞
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
おはすれ=サ変動詞「おはす」の已然形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
よろづ=名詞
の=格助詞
こと=名詞
限り=名詞
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
て=接続助詞
内裏参り=名詞
に=格助詞
も=係助詞
似=ナ行上一段動詞「似る」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
ただ人におはすれば、よろづのこと限りありて、内裏参りにも似ず、
(光源氏は)臣下でいらっしゃるので、あらゆることに制限があって、入内の儀式にも似ず、
婿=名詞
の=格助詞
大君=名詞
と=格助詞
いは=ハ行四段動詞「言ふ」の未然形
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現のこと。
訳:「いう(ような)こと」
に=格助詞
も=係助詞
こと=名詞
違ひ=ハ行四段動詞「違ふ」の連用形
て=接続助詞
めづらしき=シク活用の形容詞「めづらし」の連体形
御仲=名詞
の=格助詞
あはひども=名詞
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「ある」などが省略されていると考えられる。「訳:~である」
※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。
「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など
「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など
婿の大君といはむにもこと違ひて、めづらしき御仲のあはひどもになむ。
婿の大君というようなこととも事情が違って、珍しいご関係の間柄である。
続きはこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』品詞分解のみ(2) 「三日がほど、かの院よりも、~」