青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
鄭人ニ有二リ且レニ/ル買レハント履ヲ者一。
鄭人に且に履を買はんとする者有り。
※「且ニニ ~一(セ)ント」=再読文字、「且に ~(せ)んとす」、「いまにも ~しようとする/ ~するつもりだ」
鄭の国の人に今にも履物を買おうとする者がいた。
先ヅ自ラ度二リテ其ノ足一ヲ而置二ク之ヲ其ノ坐一ニ。
先づ自ら其の足を度りて之を其の坐に置く。
※而=置き字(順接・逆接)
まず自ら自分の足の寸法を測ってそれ(=寸法書き)を座席に置いた。
至レリテ之レクニ市ニ而忘レル操レルヲ之ヲ。
市に之くに至りて之を操るを忘る。
※而=置き字(順接・逆接)
市場に行く際にそれを持って行くのを忘れた。
已ニ得レテ履ヲ、乃チ曰ハク、「吾忘レルト持レツコトヲ度ヲ。」
已に履を得て、乃ち曰はく、「吾度を持つことを忘る。」と。
すでに履物を手にして、そこで言うことには、「私は寸法書きを持って来るのを忘れた。」と。
反リ帰リテ取レル之ヲ。及レビテ反ルニ市罷ム。遂ニ不レ得レ履ヲ。
反り帰りて之を取る。反るに及びて市罷む。遂に履を得ず。
引き返して家に帰りそれを手に取った。戻って来た時には市場は終わっていた。結局、履物を手に入れられなかった。
人曰ハク、「何ゾ不二ルト試レミルニ之ヲ以一レテセ足ヲ。」
人曰はく、「何ぞ之を試みるに足を以ってせざる。」と。
※「何ゾ ~(スル)」=疑問、「何ぞ ~(する)」「どうして ~か」
ある人が(この人に対して)言うことには、「どうして自分の足に合わせてみなかったのか。」と。
曰ハク、「寧ロ信レズルモ度ヲ無二シト自ラ信一ズル也。」
曰はく、「寧ろ度を信ずるも自ら信ずる無し。」と。
(この人が)言うことには、「寸法書きは信用していても、自分の足は信用していないのだ。」と。
「寸法書きは信用できても、自分の足は信用できないからさ」と答えた。