古文

俊頼髄脳『歌のよしあし』解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら俊頼髄脳『歌のよしあし』現代語訳

 

歌のよしあしをも知らことは、ことのほかためし  めり

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。

訳:「理解する(ような)こと」

 

ことのほか=ナリ活用の形容動詞「事の外なり・殊の外なり(ことのほかなり)」の語幹、特別だ、格別だ。意外だ、思ってもいないことだ。 形容動詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語

 

例(ためし)=名詞、例、先例。試み。

 

な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形

 

めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。

 

歌の優劣を理解することは、特別難しい試みであるようだ。

 

 

四条大納言に、子の中納言の、「式部と(あか)(ぞめ)と、いづれ まされ  。」

 

か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

まされ=ラ行四段動詞「増さる・勝る(まさる)」の已然形、すぐれる、勝る。増える、強まる。

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

ぞ=強調の係助詞

 

四条中納言に、子の中納言が、「和泉式部と赤染衛門とでは、どちらが優れていますか。」

 

 

と尋ね申さ  けれ 

 

申さ=サ行四段動詞「申す」の未然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である四条大納言を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には受身・尊敬・自発・可能の四つの意味がある。動作の主体である子の中納言を敬っている。作者からの敬意。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

と尋ね申し上げなさったところ、

 

 

「一口に言ふべき歌よみ あら 

 

べき=可能の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

「一言で(どちらが優れていると)言うことができる歌人ではない。

 

 

式部は、『ひま こそ なけれ (あし)の八重ぶき』とよめなり

 

ひま(隙・暇)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

なけれ=ク活用の形容詞「無し」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

和泉式部は『ひまこそなけれ 葦の八重葺き』と詠んだ者である。

 

 

いとやむごとなき歌よみなり。」とあり けれ 

 

やむごとなき=ク活用の形容詞「やむごとなし」の連体形、捨てておけない。格別だ。尊い。大切である、貴重だ。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

あり=ラ変動詞「あり」の連用形

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

とても優れている歌人である。」と言ったので、



 

中納言はあやしげに思ひて、「式部が歌を、『はるかに照らせ 山の()の月』と申す歌をこそ、よき歌とは世の人申す めれ。」と申さ れけれ 

 

ば=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。

 

申す=サ行四段動詞「申す」の連体形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象を敬っている。子の中納言からの敬意。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

申す=サ行四段動詞「申す」の連体形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である和泉式部を敬っている。子の中納言からの敬意。

 

めれ=婉曲の助動詞「めり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

 

申さ=サ行四段動詞「申す」の未然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である四条大納言を敬っている。作者からの敬意。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には受身・尊敬・自発・可能の四つの意味がある。動作の主体である子の中納言を敬っている。作者からの敬意。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

中納言は不思議に思って、「和泉式部が詠んだ歌の中では、『はるかに照らせ 山の端の月』と詠み申した歌こそを、良い歌だと世間の人は申すようですが。」と申し上げなさったところ、

 

 

「それ、人の知らことを言ふ 

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

よ=終助詞

 

「それは、世間の人が理解できないことを言うのだよ。

 

 

『暗きより 暗き道にぞ』といへ句は、法華経の文あら  

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

や=疑問の係助詞

 

『暗きより 暗き道にぞ』と詠んだ句は、法華経の文章ではないか。

※「暗きより  暗き道にぞ  入りぬべき  遥かに照らせ  山の端の月」

訳:よりいっそう暗い闇へ入り込んでしまいそうだ。はるか遠くまで照らしてください、山の端にいる月よ。

 

 

さればいかに 思ひより けむともおぼえ 

 

されば=接続助詞、それゆえ、それで、そうであれば、だから。そもそも、いったい

 

いかに=副詞、どんなに、どう。

 

思ひより=ラ行四段動詞「思ひ寄る」の連用形、思いつく、思い当たる。言い寄る。心がひかれる

 

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

 

おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の未然形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われ」

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

そうであれば、どうやって思いついたのだろうかとも思われない。

 

 

末の『はるかに照らせ』といへ句は本にひかされて、やすくよま  けむ

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

れ=自発の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。しかし、ここは文脈判断

自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の終止形、接続は連用形。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

 

下の句の『はるかに照らせ』と詠んだ句は、上の句にひきつけられて、簡単に詠まれただろう。

※末=和歌の下の句。「五・七・五(本:上の句)/七・七(末:下の句)」



 

『こやとも人を』といひて、『ひまこそなけれ』といへ言葉は、凡夫の思ひよる べき  あら 

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

思ひよる=ラ行四段動詞「思ひ寄る」の終止形、思いつく、思い当たる。言い寄る。心がひかれる

 

べき=可能の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

(それに対して)『こやとも人を』と詠んで、『ひまこそなけれ』と詠んだ言葉は、凡人が思いつくことができるものではない。

※「津の国の  こやとも人の  いふべきに  ひまこそなけれ  芦の八重葺」

訳:摂津の国の昆陽(こや)という地名のように、「来や(=来てください)」と言うべきなのですが、そのような時間もありません。葦の八重葺きの屋根に隙間がないのと同じように。

掛詞:地名の「昆陽(こや)」と来てくださいと言う意味の「来や(こや)」が掛けられている。また「小屋」と言う意味も掛けられている。

「暇(ひま)」とすきまと言う意味の「隙(ひま)」が掛けられている。

枕詞:「津の国の」

 

 

いみじきことなり。」と 申さ  ける

 

いみじき=シク活用の形容詞「いみじ」の連体形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

申さ=サ行四段動詞「申す」の未然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である子の中納言を敬っている。作者からの敬意。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には受身・尊敬・自発・可能の四つの意味がある。動作の主体である四条大納言を敬っている。作者からの敬意。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

すばらしいことである。」と申し上げなさった。

 

 

 俊頼髄脳『歌のよしあし』現代語訳

 

俊頼髄脳『歌のよしあし』品詞分解のみ

 

俊頼髄脳の『歌のよしあし』に出てくる和歌の解説「津の国のこやとも人の~」・「暗きより暗き道にぞ~」

 

俊頼髄脳『歌のよしあし』まとめ

 

 

 

-古文