古文

伊勢物語『狩りの使ひ』解説・品詞分解(2)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 伊勢物語『狩りの使ひ』まとめ

 

つとめていぶかしけれ 、わが人をやる べき   あら  

 

つとめて=名詞、早朝、朝早く。翌朝。

 

いぶかしけれ=シク活用の形容詞「訝し(いぶかし)」の已然形、不審だ、疑わしい、気がかり。心が晴れない、気がふさいでいる。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

やる=ラ行四段動詞「遣る(やる)」の終止形、送る、与える。行かせる。(気分を)晴らす。

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

し=強意の副助詞。訳す際にはあまり気にしなくてもよい。

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

翌朝、(男は女のことが)気がかりであったけれど、自分の従者を(女のもとに)行かせるわけにはいかないので、

 

 

いと心もとなく待ち居れ 、明け離れてしばしあるに、女のもとより(ことば)はなくて、

 

心もとなく=ク活用の形容詞「心もとなし」の連用形、ぼんやりしている、はっきりしない。待ち遠しくて心がいらだつ、じれったい。

 

待ち居れ=ラ変動詞「待ち居り(まちおり)」の已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。

 

たいそうじれったく思って待っていると、夜が明けてしばらくした頃に、女の所から、(手紙の)言葉はなくて(歌だけが書かれており)、

 

 

    われゆきけむ  おもほえ  夢 うつつ   寝てさめて

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

来(こ)=過去の助動詞「来(く)」の未然形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形。接続は連用形だが、直前にカ変動詞を置くときは、例外的に未然形にする。ただし「来(き)し方」と言う時は「来」を連用形にする。「来し方」の意味は「過去、過ぎ去った時」である。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

か=疑問の係助詞。

 

現(うつつ)=名詞、現実、現世。生きている状態、目が覚めている状態。

 

君や来し  われやゆきけむ  おもほえず  夢かうつつか  寝てかさめてか

あなたがやって来たのか、私が行ったのか、わかりません。夢だったのか、現実だったのか、寝ている間のことだったのか、目覚めていた時のことだったのでしょうか。

 

 

男、いといたう泣きて詠め

 

いたう=ク活用の形容詞「甚し(いたし)」の連用形が音便化したもの、(良い意味でも悪い意味でも)程度がひどい。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

(女の歌に対して、)男が、たいそうひどく泣いて詠んだ歌、

 

 

かきくらす  心の闇に  まどひ   夢うつつとは  ()(よい)定めよ

 

かきくらす=サ行四段動詞「掻き暗す(かきくらす)」の連体形、心を暗くする、悲しみにくれる。真っ暗にする。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

き=過去の助動詞「き」の終止形、接続は連用形

 

夢現(ゆめうつつ)=名詞、夢と現実

 

かきくらす  心の闇に  まどひにき  夢うつつとは  ()(よい)定めよ

悲しみに暮れる心の闇の中に迷ってしまいました。夢と現実のどちらであったのかは、今夜決めてください。



 

と詠みてやりて、狩りに出で

 

やり=ラ行四段動詞「遣る(やる)」の連用形、送る、与える。行かせる。(気分を)晴らす。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

と(男は)詠んで贈って、狩りに出た。

 

 

野にありけ 、心はそらにて、今宵だに人静めて、いととく逢はと思ふに、

 

ありけ=カ行四段動詞「歩く(ありく)」の已然形、歩き回る、うろつく。動き回る。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

そらに=ナリ活用の形容動詞「そらなり」の連用形、うわの空だ。明確な根拠がない。いいかげんだ。暗記して、空で覚えて。

 

だに=副助詞、強調(せめて~だけでも)。類推(~さえ・~のようなものでさえ)。添加(~までも)。

 

とく(疾く)=副詞、早く

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

野を歩き回るけれど、心はうわの空で、せめて今夜だけでも人が寝静まるのを待って、たいそう早く(女に)逢おうと思っていると、

 

 

国守(くにのかみ)(さい)(ぐうの)(かみ)かけたる、狩りの使ひありと聞きて、夜一夜、酒飲み けれ 

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

夜一夜(よひとよ)=名詞、一晩中。対義語「日一日(ひひとひ)」=一日中。副詞ではあるが「夜(よ)もすがら」=「一晩中」というのもある。「夜もすがら」⇔「日もすがら」

 

し=サ変動詞「す」の連用形、する。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

伊勢の国守で、斎宮寮の長官を兼ねている人が、狩りの使いがいると聞いて、一晩中、酒宴を催したので、

 

 

もはら逢ひごとも  、明け()(わり)の国へ立ち すれ 

 

え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

 

せ=サ変動詞「す」の未然形、する。

 

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

すれ=サ変動詞「す」の已然形、する。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

まったく逢うこともできず、夜が明けたら尾張の国へ出発しょうという予定なので、

 

 

男も人知れ血の涙を流せ逢は

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

男も人知れず血の涙を流す(ほど悲しんだ)けれど、逢うことはできない。

 

 

やうやう明け とするほどに、女方より出だす(さかずき)の皿に、歌を書きて出だしたり。取りて見れ

 

やうやう=副詞、だんだん、しだいに。やっと、かろうじて

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

夜がしだいに明けようとする頃に、女の方から差し出す杯を載せる皿に、歌を書いてよこした。(男が)手に取ってみると、

 

 

かち人の  渡れ濡れ  えにし あれ 

 

かち人=名詞、徒歩の人

徒歩(かち)=名詞、徒歩

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

縁(えにし)=名詞、えん、ゆかり

江にし(えにし)=名詞

 

あれ=ラ変動詞「あり」の已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

「えにし」が掛詞となっており、「縁(えにし)」と「江にし(えにし)」が掛けられている。

 

※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。

掛詞を探すときのポイント(いずれも例外有り)

①ひらがなの部分

②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語

③地名などの固有名詞

 

かち人の  渡れど濡れぬ  えにしあれば

徒歩の人が渡っても裾が濡れない河(=江)のように、浅い縁でありますので、



 

と書きて末はなし。その杯の皿に続松(ついまつ)の炭して、歌の末を書きつぐ。

 

なし=ク活用の形容詞「無し」の終止形

 

して=格助詞、①共同「~とともに」、②手段・方法「~で」、③使役の対象「~に命じて」の三つの意味があるが、ここでは②手段・方法「~で」の意味。

 

と書いて、下の句はない。(男は)その杯の皿に、松明の燃え残りの炭で、歌の下の句を書き継ぐ。

※末=和歌の下の句。「五・七・五(本:上の句)/七・七(末:下の句)」

 

 

また逢坂(おうさか)の  (せき)は越え 

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

また逢坂の  関は越えなむ

(私は)また逢坂の関を越えようと思う。(そして、再びあなたに逢いましょう。)

 

 

とて、明くれ 尾張の国へ越え けり斎宮(さいぐう)水尾(みずのお)御時(おおんとき)(もん)(とく)天皇の御(むすめ)(これ)(たかの)親王(みこ)の妹。

 

明くれ=カ行下二段動詞「明く(あく)」の已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

と書いて、夜が明けると(男は)尾張の国へ越えて行ってしまった。斎宮は清和天皇の御代の斎宮で、文徳天皇の皇女であり、惟喬親王の妹である。

 

 

 伊勢物語『狩りの使ひ』まとめ

 

 

 

-古文

© 2024 フロンティア古典教室 Powered by AFFINGER5