「青＝現代語訳」
昔＝名詞
男＝名詞
あり＝ラ変動詞「あり」の連用形
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
そ＝代名詞
の＝格助詞
男＝名詞
伊勢の国＝名詞
に＝格助詞
狩りの使ひ＝名詞
に＝格助詞
行き＝カ行四段動詞「行く」の連用形
ける＝過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
に＝格助詞
昔、男ありけり。その男、伊勢の国に狩りの使ひに行きけるに、
昔、男がいた。その男が、伊勢の国に鷹狩りの使いとして行った時に、
か＝代名詞
の＝格助詞 「彼の（かの）」＝あの、例の。「か（名詞）／の（格助詞）」と品詞分解する
伊勢＝名詞
の＝格助詞
斎宮＝名詞
なり＝断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ける＝過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
人＝名詞
の＝格助詞
親＝名詞
常＝名詞
の＝格助詞
使ひ＝名詞
より＝格助詞、（比較の基準）～より。（起点）～から。（手段・用法）～で。（経過点）～を通って。（即時：直前に連体形がきて）～するやいなや。
は＝係助詞
こ＝代名詞
の＝格助詞
人＝名詞
よく＝ク活用の形容詞「良し」の連用形
いたはれ＝ラ行四段動詞「いたはる」の命令形
と＝格助詞
言ひやれ＝ラ行四段動詞「言ひやる」の已然形
り＝完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
けれ＝過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば＝接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「～なので、～から」②偶然条件「～ところ・～と」③恒常条件「（～する）といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし～ならば」である。
かの伊勢の斎宮なりける人の親、「常の使ひよりは、この人よくいたはれ。」と言ひやれりければ、
あの伊勢の斎宮であった人の親が、「いつもの使いの者よりは、この人は特を大切にしなさい。」と言ってやったので、
※斎宮（さいぐう）＝天皇の代ごとに選ばれ、伊勢神宮に奉仕する未婚の皇女（みこ）。当然、天皇の代が変わればその任を解かれることになる。
親＝名詞
言＝名詞
なり＝断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けれ＝過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「～なので、～から」の意味で使われている。
いと＝副詞
ねむごろに＝ナリ活用の形容動詞「懇ろなり（ねむごろなり）」の連用形、親切なさま、熱心なさま。
いたはり＝ラ行四段動詞「いたはる」の連用形
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
親の言なりければ、いとねむごろにいたはりけり。
親の言うことであったから、（斎宮はその男を）たいそう親切にもてなした。
朝（あした）＝名詞、翌朝。朝、明け方。
に＝格助詞
は＝係助詞
狩り＝名詞
に＝格助詞
出だし立て＝タ行下二段動詞「出だし立つ」の連用形
て＝接続助詞
やり＝ラ行四段動詞「遣る（やる）」の連用形、行かせる。送る、与える。（気分を）晴らす。
夕さり＝名詞、夕方
は＝係助詞
帰り＝ラ行四段動詞「帰る」の連用形
つつ＝接続助詞、①反復「～しては～」②継続「～し続けて」③並行「～しながら」④（和歌で）詠嘆、ここでは①の意味。
そこ＝代名詞
に＝格助詞
来（こ）＝カ変動詞「来（く）」の未然形
させ＝使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
朝には狩りに出だし立ててやり、夕さりは帰りつつ、そこに来させけり。
朝には狩りに送り出してやり、夕方には帰ってくると、そこ（＝斎宮の御殿）に来させた。
かくて＝副詞、このようにして、こうして
ねむごろに＝ナリ活用の形容動詞「懇ろなり（ねむごろなり）」の連用形、親切なさま、熱心なさま。
いたつき＝カ行四段動詞「労く・病く（いたつく）」の連用形、世話をする、いたわる。病気になる。（気をつかって）苦心する。
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
かくて、ねむごろにいたつきけり。
こうして、親切に世話をした。
二日＝名詞
と＝格助詞
いふ＝ハ行四段動詞「言ふ」の連体形
よる＝名詞
男＝名詞
われて＝副詞
逢は＝ハ行四段動詞「逢ふ（あふ）」の未然形
む＝意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と＝格助詞
言ふ＝ハ行四段動詞「言ふ」の終止形
女＝名詞
も＝係助詞
はた＝副詞
いと＝副詞
逢は＝ハ行四段動詞「逢ふ（あふ）」の未然形
じ＝打消意志の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形
と＝格助詞
も＝係助詞
思へ＝ハ行四段動詞「思ふ」の已然形
ら＝存続の助動詞「り」の未然形、接続はサ変あら未然形・四段なら已然形
ず＝打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
二日といふ夜、男、われて「逢はむ。」と言ふ。女もはた、いと逢はじとも思へらず。
二日目の夜、男は、無理に、「逢いたい。」と言う。女もまた、それほど逢いたくないとも思っていない。
されど＝接続助詞
人目＝名詞
しげけれ＝ク活用の形容詞「繁し（しげし）」の已然形、わずらわしい。多い、たくさんある。茂っている。絶え間がない、頻繁である。
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「～なので、～から」の意味で使われている。
え＝副詞、下に打消の表現を伴って「～できない」
逢は＝ハ行四段動詞「逢ふ（あふ）」の未然形
ず＝打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
されど、人目しげければ、え逢はず。
けれど、人目が多いので、逢うことができない。
使ひざね＝名詞
と＝格助詞
ある＝ラ変動詞「あり」の連体形
人＝名詞
なれ＝断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「～なので、～から」の意味で使われている。
遠く＝ク活用の形容詞「遠し」の連用形
も＝係助詞
宿さ＝サ行四段動詞「宿す」の未然形
ず＝打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
使ひざねとある人なれば、遠くも宿さず。
（男は）正使として来ている人であるので、遠く離れた部屋にも泊めない。
女＝名詞
の＝格助詞
閨（ねや）＝名詞
近く＝ク活用の形容詞「近し」の連用形
あり＝ラ変動詞「あり」の連用形
けれ＝過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「～なので、～から」の意味で使われている。
女＝名詞
人＝名詞
を＝格助詞
静め＝マ行下二段動詞「静む」の連用形
て＝接続助詞
子一つ＝名詞
ばかり＝副助詞、（程度）～ほど・ぐらい。（限定）～だけ。
に＝格助詞
男＝名詞
の＝格助詞
もと＝名詞
に＝格助詞
来（き）＝カ変動詞「来（く）」の連用形
たり＝完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
女の閨近くありければ、女、人を静めて、子一つばかりに、男のもとに来たりけり。
（男の部屋は）女の寝室の近くにあったので、女は、人が寝静まるのを待って、子一つの頃に、男のもとにやって来た。
※子一つ（ねひとつ）＝午後十一時から十一時半ごろ。
男＝名詞
はた＝副詞
寝（ね）＝ナ行下二段動詞「寝（ぬ）」の未然形
られ＝可能の助動詞「らる」の未然形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。平安以前では下に打消が来て「可能」の意味で用いられることが多い。平安以前では「可能」の意味の時は下に「打消」が来るということだが、下に「打消」が来ているからといって「可能」だとは限らない。鎌倉以降は「る・らる」単体でも可能の意味で用いられるようになった。
ざり＝打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
けれ＝過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「～なので、～から」の意味で使われている。
外＝名詞
の＝格助詞
方＝名詞
を＝格助詞
見出だし＝サ行四段動詞「見出だす」の連用形
て＝接続助詞
臥せ＝サ行四段動詞「臥す（ふす）」の已然形
る＝存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
に＝接続助詞
男はた、寝られざりければ、外の方を見出だして臥せるに、
男もまた、（女のことを思って）寝られなかったので、外の方を見て横になっていると、
月＝名詞
の＝格助詞
おぼろなる＝ナリ活用の形容動詞「おぼろなり」の連体形
に＝格助詞
小さき＝ク活用の形容詞「小さし」の連体形
童＝名詞
を＝格助詞
先＝名詞
に＝格助詞
立て＝タ行下二段動詞「立つ」の連用形、立てる、立たせる。
人＝名詞
立て＝タ行四段動詞「立つ」の已然形、立つ。
※四段活用と下二段活用の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わり、「立たせる」といった意味になる。
り＝存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
月のおぼろなるに、小さき童をさきに立てて人立てり。
月のおぼろである光の中に、小さい童女を先に立たせて人（＝女）が立っている。
男＝名詞
いと＝副詞
うれしく＝シク活用の形容詞「うれし」の連用形
て＝接続助詞
わ＝代名詞
が＝格助詞
寝る（ねる）＝ナ行下二段動詞「寝（ぬ）」の連体形
所＝名詞
に＝格助詞
率（ゐ）＝ワ行上一段動詞「率る（ゐる）」の連用形。率（ひき）いる、引き連れていく。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。
て＝接続助詞
入り＝ラ行四段動詞「入る」の連用形
て＝接続助詞
子一つ＝名詞
より＝格助詞、（起点）～から。（手段・用法）～で。（経過点）～を通って。（即時：直前に連体形がきて）～するやいなや。
丑三つ＝名詞
まで＝副助詞
ある＝ラ変動詞「あり」の連体形
に＝接続助詞
まだ＝副詞
何事＝名詞
も＝係助詞
語らは＝ハ行四段動詞「語らふ」の未然形、仲良く交際する。語り合う
ぬ＝打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
に＝接続助詞
帰り＝ラ行四段動詞「帰る」の連用形
に＝完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
男、いとうれしくて、わが寝る所に率て入りて、子一つより丑三つまであるに、まだ何事も語らはぬに帰りにけり。
男は、たいそう嬉しくて、自分が寝ている所に連れて入って、子一つから丑三つまで（一緒に）いたが、まだ何事も（打ち解けて）語り合わないうちに、（女は）帰ってしまった。
※丑三つ（うしみつ）＝午前二時から二時半ごろ
男＝名詞
いと＝副詞
悲しく＝シク活用の形容詞「悲し」の連用形
て＝接続助詞
寝（ね）＝ナ行下二段動詞「寝（ぬ）」の未然形
ず＝打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
なり＝ラ行四段動詞「成る」の連用形
に＝完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
男、いと悲しくて、寝ずなりにけり。
男は、とても悲しくて、（そのまま）寝ないでいたのだった。
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