「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら伊勢物語『筒井筒』現代語訳(3)
まれまれかの高安に来てみれ ば、
彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する
来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形
みれ=マ行上一動詞「見る」の已然形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
ごくまれに、例の高安(の女の所)に来て見ると、
初めこそ 心にくくもつくりけれ、
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。ここでは逆接強調法。
逆接強調法「こそ ~ 已然形、」→「~だけれど、(しかし)」
普通の係り結びは結び(文末)が已然形となるため、「こそ ~ 已然形。」となるが、
逆接強調法のときは「こそ ~ 已然形、」となり、「、(読点)」があるので特徴的で分かりやすい。
心にくく=ク活用の形容詞「心にくし」の連用形、心惹かれる、奥ゆかしい、上品である
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
初めの頃は奥ゆかしくとりつくろっていたが、
今はうちとけて、手づからいひがひ取りて、笥子のうつはものに盛りけるを見て、心憂がりて行かず なり に けり。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
心憂がり=ラ行四段動詞「心憂がる(こころうがる)」の連用形、残念だ、気にかかる。いやだと思う、不愉快に感じる。情けなく思う、つらいと思う。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
今はすっかり気を許して、自らの手でしゃもじを取って食器に盛っていたのを見て、嫌気がして行かなくなってしまった。
※いひがひ(飯匙)=しゃもじ。 ※笥子=飯を盛る食器
さり けれ ば、かの女、大和の方を見やりて、
さり=ラ変動詞「然り(さり)」の連用形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する
見やり=ラ行四段動詞「見遣る(みやる)」の連用形、遠くを(望み)見る、その方を見る。
そうなったので、その女は大和の国の方を見て、
君があたり 見つつ を 居ら む 生駒山 雲な隠しそ 雨は降るとも
つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは②か③の意味。
を=間投助詞。用法は詠嘆
居ら=ラ変動詞「居り(をり)」の未然形。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
な=副詞、そ=終助詞
「な~そ」で「~するな(禁止)」を表す。
とも=逆接の接続助詞
君があたり 見つつを居らむ 生駒山 雲な隠しそ 雨は降るとも
あなたのいらっしゃる辺りを眺めながら暮らしましょう。あの生駒山を、雲よ隠さないでおくれ。たとえ雨が降っていようとも。
と言ひて見いだすに、からうじて、大和人「来 む。」と言へり。
来(こ)=カ変動詞「来(く)」の未然形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
と言って外を眺めていると、やっとのことで、大和の男は「(あなたの所へ)来よう」と言った。
喜びて待つに、たびたび過ぎ ぬれ ば、
過ぎ=ガ行上二段動詞「過ぐ」の連用形
ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
(高安の女は)喜んで待っていたが、その度ごとに(男は来なくてむなしく時が)過ぎてしまったので、
君来 むと 言ひし夜ごとに 過ぎぬれ ば 頼ま ぬ ものの 恋ひつつ ぞ 経る
来(こ)=カ変動詞「来(く)」の未然形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
頼ま=マ行四段動詞「頼む(たのむ)」の未然形。頼みに思う、あてにする。
※四段活用と下二段活用の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わり、「頼みに思わせる、あてにさせる」といった意味になる。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ものの=逆接の接続助詞、活用語の連体形につく。「もの」がつく接続助詞はほぼ逆接の意味となる。たまに順接・詠嘆の時がある。
つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは③並行「~しながら」の意味。
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
経る(ふる)=ハ行下二段動詞「経(ふ)」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
君来むと 言ひし夜ごとに 過ぎぬれば 頼まぬものの 恋ひつつぞ経る
あなたが来ようと言った夜が(あなたが来ることもなく)毎度過ぎてしまったので、(私はもうあなたを)頼みに思っていませんが、(それでもまだあなたを)恋しく思いながら暮らしております。
と言ひけれ ど、男住ま ず なり に けり。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
住ま=マ行四段動詞「住む(すむ)」の未然形。男が女の家に通い寝泊りすること。当時は結婚すると男は女の家に通って暮らすのが通例であった。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
と歌を詠んだけれど、男は通って来なくなってしまった。