「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら枕草子『上にさぶらふ御猫は』現代語訳(2)
「あはれ、いみじう ゆるぎありき つる ものを。
あはれ=感動詞、ああ。「あはれ」とは感動したときに口に出す言葉であることから、心が動かされるという意味を持つ名詞や形容詞、形容動詞、動詞として使われるようにもなった。
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。
揺るぎありき=カ行四段動詞「揺るぎ歩く(ゆるぎありく)」の連用形、体をゆすって歩く。体をゆすって得意げに歩く。
歩く(ありく)=カ行四段動詞、歩き回る、うろつく。動き回る。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
ものを=逆接の接続助詞、活用語の連体形につく。「もの」がつく接続助詞はほぼ逆接の意味となる。たまに順接・詠嘆の時がある。ここはおそらく「詠嘆」の意味。
ああ、(ついこの前までは、)たいそう身体を揺すって得意げに歩いていたのに。
三月三日、頭の弁の柳かづらせ させ、桃の花かざしにささ せ、桜腰にさしなどして、
せ=サ変動詞「す」の未然形、する。
させ=使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
ささ=サ行四段動詞「挿す(さす)」の未然形
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
し=サ変動詞「す」の連用形、する。
三月三日に、頭の弁が(翁丸に)柳の髪飾りをつけさせ、桃の花のかんざしにして挿させ、桜の枝を腰に挿したりなどして、
※頭の弁=蔵人頭(くろうどのとう)、蔵人所の長官。ここでは藤原行成のことを指している。
※柳かづら=柳の枝で作った髪飾り。
ありか せ 給ひ し 折、
ありか=カ行四段動詞「歩く(ありく)」の未然形、歩き回る、うろつく。動き回る。
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。
給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である頭の弁(=藤原行成)を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節
歩かせなさった時には、
かかる目見むとは思はざり けむ。」などあはれがる。
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
けむ=過去推量の助動詞「けむ」の終止形、接続は連用形。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。
あはれがる=ラ行四段動詞「あはれがる」の終止形、心を動かされたという意味を表す言葉。感動する、感心する同情する、かなしむ。感動したときに口に出す「あはれ」という言葉に由来する。
こんな目に会おうとは(翁丸も)思わなかっただろう。」などとかわいそうに思う。
「御膳の折は、必ず向かひ候ふに、さうざうしく こそ あれ。」など言ひて、三四日になりぬる、昼つ方、
折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節
候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連体形、謙譲語。お仕え申し上げる、おそばにいる。動作の対象である中宮定子を敬っている。
※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
さうざうしく=シク活用の形容詞「さうざうし」の連用形、なんとなく物足りない、心寂しい。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
あれ=ラ変動詞「あり」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形
「(中宮様の)お食事の際には、必ず(中宮様の方に)向いて控えていたのに、心寂しいことだわ。」などと言って、三、四日経ってしまった昼頃、
犬いみじう泣く声のすれ ば、
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。
すれ=サ変動詞「す」の已然形、する。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
犬がひどく鳴く声がするので、
なぞの犬の、かく久しう鳴くに か あら むと聞くに、よろづの犬とぶらひ見に行く。
斯く(かく)=副詞、こう、このように。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
(万)よろづ=名詞、すべてのこと、あらゆること。
とぶらひ=ラ行四段動詞「訪ふ(とぶらふ)」の連用形、見舞う、訪れる。
どのような犬が、このように長く鳴いているのであろうかと思って聞いていると、たくさんの犬が様子を見に行く。
御厠人なる者走りきて、「あな いみじ。犬を蔵人二人して打ち給ふ。死ぬ べし。
なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形
あな=感動詞、ああ、あら、まあ
いみじ=シク活用の形容詞「いみじ」の終止形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。
して=格助詞、①共同「~とともに」、②手段・方法「~で」、③使役の対象「~に命じて」の三つの意味があるが、ここでは①共同「~とともに」の意味。
給ふ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である蔵人二人を敬っている。御厠人からの敬意。
死ぬ=ナ変動詞「死ぬ」の終止形。ナ行変格活用の動詞は「死ぬ・往(い)ぬ・去(い)ぬ」
べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
御厠人の者が走って来て、「ああ、ひどい。犬を蔵人二人がかりで叩きなさっている。死んでしまうでしょう。
※御厠人=便所掃除を担当する身分の低い女官
犬を流させ 給ひ けるが、帰り参り たるとて、調じ 給ふ。」と言ふ。
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である天皇(=一条天皇)を敬っている。御厠人からの敬意。
給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語。動作の対象を敬っている。御厠人からの敬意。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
調じ=サ変動詞「調ず(ちょうず)」の連用形、こらしめる。(悪霊などを)追い払う、調伏する。作る。料理する。
給ふ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である蔵人二人を敬っている。御厠人からの敬意。
犬を追放なさったのが、帰って参ったと言って、こらしめなさる。」と言う。
心憂のことや。翁丸なり。
心憂=ク活用の形容詞「心憂し(こころうし)」の語幹、残念だ、気にかかる。いやだ、不愉快だ。情けない、つらい。 形容詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語
や=間投助詞、用法は詠嘆。
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
心配なことよ。(その犬は)翁丸である。
「忠隆・実房なんど打つ。」と言へば、制しにやるほどに、からうじて鳴きやみ、
なんど=副助詞、など、等
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
遣る=ラ行四段動詞「遣る(やる)」の連体形、行かせる。送る、与える。(気分を)晴らす。
「忠隆、実房などが叩いている。」と言うので、止めにやるうちに、やっとのことで鳴き止み、
「死に けれ ば、陣の外にひき捨てつ。」と言へば、
死に=ナ変動詞「死ぬ」の連用形。ナ行変格活用の動詞は「死ぬ・往(い)ぬ・去(い)ぬ」
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
つ=完了の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
「死んだので、陣の外に捨ててしまった。」と言うので、
陣=宮中警護の詰所。
あはれがりなどする夕つ方、いみじげに腫れ、あさましげなる犬の わびしげなるが、わななき ありけ ば、
あはれがり=ラ行四段動詞「あはれがる」の連用形、心を動かされたという意味を表す言葉。感動する、感心する同情する、かなしむ。感動したときに口に出す「あはれ」という言葉に由来する。
いみじげに=ナリ活用の形容動詞「いみじげなり」の連用形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい様子、甚だしい、すばらしい。
あさましげなる=シク活用の形容詞「あさましげなり」の連体形、あきれるほどの様子だ、驚きあきれるほどひどい様子だ、みすぼらしい。情けない。
の=格助詞、用法は同格。「で」に置き換えて訳すと良い。「あさましげなる犬の わびしげなるが」→「驚きあきれるほどひどい様子の犬でみすぼらしそうな犬が」
わびしげなる=シク活用の形容詞「わびしげなり」の連体形、みすぼらしい、痛々しい感じだ。心細い感じだ。
わななき=カ行四段動詞「わななく」の連用形、震える
ありけ=カ行四段動詞「歩く(ありく)」の已然形、歩き回る、うろつく。動き回る。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
悲しんだりなどしているその夕方、ひどく腫れ上がり、驚きあきれるほどひどい様子の犬でみすぼらしそうな犬が、震えながら歩き回るので、
「翁丸か。このごろ、かかる犬や は ありく。」など言ふに、
か=疑問の係助詞
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。
ありく=カ行四段動詞「歩く(ありく)」の連体形、歩き回る、うろつく。動き回る。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。
「翁丸か。この時間帯に、このような犬が歩き回っているものか。(いや、そのようなはずはないだろう。)」などと言うが、
「翁丸。」と言へど、耳にも聞き入れず。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
(念のため)「翁丸。」と呼ぶけれど、(犬は)聞き入れない。
「それ。」とも言ひ、「あら ず。」とも口ぐち申せ ば、
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
申せ=サ行四段動詞「申す」の已然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
「そうだ。」とも言い、「違う。」とも口々に申すので、
「右近ぞ見知りたる。呼べ。」とて召せ ば、参り たり。
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
召せ=サ行四段動詞「召す」の已然形、尊敬語、呼び寄せる。召し上がる、お食べになる。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語。動作の対象である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形
(中宮様が、)「右近がよく知っている。呼びなさい。」とおっしゃってお呼びになると、(右近が)参上した。
「これは翁丸か。」と見せさせ 給ふ。
か=疑問の係助詞
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語
(中宮様は、)「これは翁丸か。」とお見せになる。
「似ては侍れ ど、これはゆゆしげに こそ 侍る めれ。
侍れ=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の已然形、丁寧語。言葉の受け手である中宮定子を敬っている。右近からの敬意。
※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ゆゆしげに=ナリ活用の形容動詞「忌々しげなり(ゆゆしげなり)」の連用形、触れてはならない神聖なことが原義。(良くも悪くも)程度がはなはだしい様子。不吉な感じだ、恐れ多い、縁起が悪い。おそろしいようだ、気味が悪いようだ。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
侍る=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連体形、丁寧語。言葉の受け手である中宮定子を敬っている。右近からの敬意。
めれ=推定の助動詞「めり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
(右近は、)「似てはおりますけれど、これはひどい様子でございますようだ。
また、『翁丸か。』とだに言へば、喜びてまうで来るものを、呼べど寄り来ず。
か=疑問の係助詞
だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
まうで=ダ行下二段動詞「詣づ/参づ(もうづ)」の連用形、「行く」の謙譲語。参る、参上する。お参りする。動作の対象を敬っている。右近からの敬意。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
また、『翁丸か。』とさえ言うと、喜んで寄って参って来るが、呼んでも寄って来ない。
あら ぬ な めり。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。接続は体言・連体形「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
違う犬であるようだ。
『それは打ち殺して、捨て侍り ぬ。』とこそ 申し つれ。
侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象を敬っている。右近からの敬意。
つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
『翁丸は打ち殺して、捨ててしまいました。』と申していた。
二人して打たむには、侍り な む や。」
して=格助詞、①共同「~とともに」、②手段・方法「~で」、③使役の対象「~に命じて」の三つの意味があるが、ここでは①共同「~とともに」の意味。
む=仮定の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。
侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連用形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である中宮定子を敬っている。右近からの敬意。
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
や=反語・疑問の助動詞
二人がかりで叩いたのでしたら、生きてございますでしょうか。(いや、生きてはいないでしょう。)」
など申せ ば、心憂がら せ 給ふ。
申せ=サ行四段動詞「申す」の已然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
心憂がら=ラ行四段動詞「心憂がる(こころうがる)」の未然形、残念だ、気にかかる。いやだと思う、不愉快に感じる。情けなく思う、つらいと思う。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語
などと申し上げるので、(中宮様は)残念に思いなさる。
続きはこちら枕草子『上にさぶらふ御猫は』解説・品詞分解(3)