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枕草子『上にさぶらふ御猫は』解説・品詞分解(3)

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暗うなりて、物食は たれ 食は 

 

せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

 

たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

暗くなって、(その犬に)物を食べさせたけれど食べないので、

 

 

あらぬものに言ひなしてやみぬる つとめて

 

あらぬ=連体詞、他の、別の、違う。意外な、思いもよらない。よくない。  「あら(ラ変動詞・未然形)/ぬ(打消の助動詞・連体形)」

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

 

つとめて=名詞、早朝、朝早く。翌朝。

 

(翁丸とは)違う犬だということにして終わった翌朝、

 

 

()けづり(ぐし)御手水(みちょうず)など参りて、御鏡をもた 給ひ御覧ずれ 候ふに、

 

参り=ラ行四段動詞「参る(まいる)」の連用形、尊敬語。動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。

※「参る・奉る」は目的語に「衣(衣服)・食(食べ物、飲み物)・乗(乗り物)」が来るときは尊敬語となる。「衣(い)・食(しょく)・乗(じょう)」と覚えると良い。「衣:お召しになる、着なさる」、「食:召しあがる、お食べになる」、「乗:お乗りになる」

※「参る」は基本的に謙譲語。本動詞として「参上する、参る。差し上げる。」だったり、補助動詞として「~し申し上げる」となる。

 

せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。

 

給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。

 

御覧ずれ=サ変動詞「御覧ず(ごらんず)」の已然形、ご覧になる。動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連体形、謙譲語。お仕え申し上げる、おそばにいる。動作の対象である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

(中宮様が)調髪や、御洗面をなさって、(私に)持たせなさってご覧になるので、(私が)お仕えしている時に、

 

 

犬の柱のもとに たる見やりて、

 

居=ワ行上一動詞「居る(ゐる)」の連用形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

見やり=ラ行四段動詞「見遣る(みやる)」の連用形、遠くを(望み)見る、その方を見る。

 

(昨日のあの)犬が柱のもとに座っているのを見て、

 

 

あはれ、昨日翁丸をいみじう打ち かな

 

あはれ=感動詞、ああ。「あはれ」とは感動したときに口に出す言葉であることから、心が動かされるという意味を持つ名詞や形容詞、形容動詞、動詞として使われるようにもなった。

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

かな=詠嘆の終助詞

 

(私が、)「ああ、昨日は翁丸をひどく打ったものだなあ。

 

 

死に けむ こそ あはれなれ

 

死に=ナ変動詞「死ぬ」の連用形。ナ行変格活用の動詞は「死ぬ・往(い)ぬ・去(い)ぬ」

 

けむ=過去の伝聞の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

訳:「死んだ(とかいう)ことだが、」

 

こそ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

あはれなれ=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の已然形。係助詞「こそ」をうけて已然形となっている。係り結び。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある

 

死んだとかいうことだが、かわいそうなことだ。



 

何の身にこのたびはなり  らむ

 

なり=ナ行四段動詞「成る」の連用形

 

ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。基本的に「らむ」は文末に来ると「現在推量・現在の原因推量」、文中に来ると「現在の伝聞・現在の婉曲」

 

何の身に今度は生まれ変わっているだろう。

 

 

いかに わびしき心地 けむ。」

 

いかに=副詞、どんなに、どう。「いかに」の中には係助詞「か」が含まれていて係り結びが起こる。

 

わびしき=シク活用の形容詞「わびし」の連体形、つらい、苦しい、情けない、困ったことだ

 

し=サ変動詞「す」の連用形、する

 

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の終止形、接続は連用形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

 

どんなにつらい気持ちがしただろうか。」

 

 

とうち言ふに、この居たる犬の震ひわななきて、涙をただ落とし落とすに、いとあさまし

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

わななき=カ行四段動詞「わななく」の連用形、震える

 

に=格助詞、強調。同じ動作を重ねて強調する。

「斬りに斬りけり。」→「めった斬りにした。」

「泣きに泣き、」→「とにかく泣き、」

 

あさまし=シク活用の形容詞「あさまし」の終止形、驚きあきれる、意外でびっくりすることだ。あまりのことにあきれる。なさけない。

 

とつぶやくと、この座っていた犬がぶるぶると震えて、涙をただひたすら落とすので、たいそう驚いた。

 

 

 翁丸 こそ あり けれ

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように

 

は=強調の係助詞、訳す際には無視しても構わない。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は連用形

 

こそ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

あり=ラ変動詞「あり」の連用形

 

けれ=詠嘆の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

それでは翁丸であったのだな。

 

 

よべは隠れ忍びある なり けりと、あはれに()へてをかしきことかぎりなし。

 

忍び=バ行四段動詞「忍ぶ」の連用形、人目を忍ぶ、目立たない姿になる。我慢する、こらえる。

 

ある=ラ変動詞「あり」の連体形

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある

 

をかしき=シク活用の形容詞「をかし」の連体形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。

 

昨夜は隠れ忍んでいたのだなあと、かわいそうだと思うのに加えて趣深いことこの上ない。



 

御鏡うち置きて、「 翁丸。」と言ふに、ひれ伏していみじう鳴く。

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように

 

は=強調の係助詞、訳す際には無視しても構わない。

 

か=疑問の係助詞

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

お鏡を置いて、「それでは翁丸なのか。」と言うと、ひれ伏してひどく鳴く。

 

 

御前 いみじうおち笑は 給ふ

 

御前(おまえ)=名詞、意味は、「貴人」という人物を指すときと、「貴人のそば」という場所を表すときがある。ここでは、人物の意味で使われており、中宮定子のことを指している。

 

に=格助詞、用法は主格。格助詞「に」は主格として使われることはあまりないが、直前に「場所」と「人物」の両方の意味を持つ名詞が使われている時は「主格」の用法で使われることがあるので注意。訳:「~におかれても・~が・~は・~も」

上記の「御前」の他には、「内裏(天皇・皇居)」・「上(天皇など・天上の間など)」「宮(皇族・皇族の住居)」などがある。

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。

 

給ふ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。

 

中宮様もたいそうお笑いになる。

 

 

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枕草子『上にさぶらふ御猫は』まとめ

 

 

 

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