古文

大鏡『菅原道真の左遷』現代語訳(4)(5)

「黒=原文」・「青=現代語訳

解説・品詞分解はこちら大鏡『菅原道真の左遷』解説・品詞分解(4)

 

やがてかしこにてうせ(たま)へる、

 

(菅原道真は)そのままあの場所(=大宰府)でお亡くなりになったが、

 

 

夜の内に、この北野にそこらの松を生ほし給ひて、

 

(道真の霊が)その夜のうちに、この(京都の)北野にたくさんの松をお生やしになって、

 

 

渡り住み給ふをこそは、ただ今の北野の宮と申して、

 

(道真の霊が大宰府から)移り住みなさった場所を、現在の北野天満宮と申し上げて、

 

 

現人神(あらひとがみ)におはしますめれば、

 

(道真はそこで)現人神でおられるようなので、

 

 

おほやけも行幸(みゆき)せしめ給ふ。

 

帝も行幸なさる。

 

 

いとかしこくあがめ(たてまつ)り給ふめり。

 

大変恐れ多く崇め申し上げていらっしゃるようだ。

 

 

(つく)()のおはしまし所は安楽寺といひて、おほやけより別当(べっとう)(しょ)()など成させ給ひて、いとやむごとなし。

 

筑紫の(道真が)いらっしゃった所は安楽寺といって、朝廷から別当・所司(=役職名)などを任命なさって、たいそう尊い(場所となっている)。



 

(だい)()焼けて、たびたび造らせ給ふに、(えん)融院(ゆういん)の御時のことなり、

 

内裏が焼けて、たびたび(帝は)お造りになったが、円融院の御代のことである、

 

 

(たくみ)ども裏板どもを、いとうるはしく(かな)かきてまかり出でつつ、またの(あした)に参りて見るに、

 

大工たちが(屋根の)裏板を、たいそうきれいに(かんな)をかけて退出して、翌朝に参上して見ると、

 

 

昨日の裏板に、もののすすけて見ゆる所のありければ、

 

昨日の裏板に、ぼんやりとすすけて見えるところがあったので、

 

 

(はし)にのぼりて見るに、夜のうちに虫の()めるなりけり。その文字は、

 

はしごに登って見たところ、夜のうちに虫が食って(文字になって)いたのだった。その文字は、

 

 

つくるとも  またも焼けなん  すがはらや  むねのいたまの  あはぬかぎりは

 

造り直そうとも、きっとまた焼けてしまうだろう。棟の板の間が合わない限り直せないように、菅原道真の胸の痛みの傷口が合って治らない限りは。

 

 

とこそありけれ。

 

とあった。

 

 

それもこの北野のあそばしたるとこそは申すめりしか。

 

それもこの北野の神(=菅原道真)がなさったことだと(人々は)申し上げたようだ。

 

 

かくて、この大臣(おとど)、筑紫におはしまして、(えん)()三年(みずのと)()二月(きさらぎ)二十五日にうせ給ひしぞかし。御年五十九にて。

 

こうして、この大臣(=道真)は、筑紫にいらっしゃって、延喜三年癸亥二月二十五日にお亡くなりになったのだよ。御年59歳で。



(4)

 

また、北野の、神にならせ(たま)て、いと恐ろしく神鳴りひらめき、

 

また、北野(の菅原道真)が、雷神におなりになって、たいそう恐ろしく雷が鳴り光り、

 

 

(せい)(りょう)殿(でん)に落ちかかりぬと見えけるが、本院の大臣(おとど)太刀(たち)を抜きさけて、

 

清涼殿に落ちかかったと見えたが、本院の大臣(=藤原時平)が、太刀を抜き放って、

 

 

「生きてもわが次にこそものし給ひしか。

 

「生きていた時も(あなた=道真は)私の次の位でおられた。

 

 

今日、神となり給へりとも、この世には、われに所置き給ふべし。

 

今日、雷神となっていらっしゃるとしても、この世では、私に遠慮なさるべきだ。

 

 

いかでかさらではあるべきぞ。」

 

どうしてそうでなくてよいはずがあろうか。(いや、遠慮なさるべきだ。)」

 

 

と、にらみやりてのたまひける。

 

と、睨みつけておっしゃった。

 

 

一度は鎮まらせ給へりけりとぞ、世の人、申しはべりし。

 

(そうして、)一度はお鎮まりになったと、世の人々は、申し上げておりました。

 

 

されど、それは、かの大臣のいみじうおはするにはあらず、

 

しかし、それは、あの大臣(=藤原時平)がすぐれていらっしゃるのではなく、

 

 

王威の限りなくおはしますによりて、理非を示させ給へるなり。

 

帝のご威光が限りなくあられることによって、(道真が)理非を示しなさったのである。

※理非(りひ)=道理に合うことと、外れていること。道理と道理に反すること。

 

 

大鏡『菅原道真の左遷』解説・品詞分解(4)

 

大鏡『菅原道真の左遷』解説・品詞分解(5)

 

大鏡『菅原道真の左遷』まとめ

 

 

 

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