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大鏡『菅原道真の左遷』解説・品詞分解(3)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳はこちら大鏡『菅原道真の左遷』現代語訳(3)

 

(つく)()おはします所の御門固めておはします

 

おはします=サ行四段動詞「おはします」の連体形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である菅原道真を敬っている。敬語を使った作者からの敬意。

 

おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の終止形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

(菅原道真は)、筑紫でお住まいになっている屋敷の御門を固く閉ざしておられます。

 

 

(だい)()の居所は遥かなれども、楼の上の瓦などの、心にもあら 御覧じやら  けるに、

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

御覧じやら=サ変動詞「御覧じ遣る(ごらんじやる)」の未然形、「見遣る」の尊敬語。動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

れ=自発の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。

自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

太宰府の役所は、(道真の屋敷から)遠くにあるけれども、(役所の)建物の上の瓦などが、思いがけず自然と御覧になってしまったり、

 

 

またいと近く(かん)(のん)()といふ寺のありけれ 

 

けれ=過去の助動詞「けり」の」已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

またすぐ近くに観音寺という寺があったので、

 

 

鐘の声を聞こし召して作らしめ 給へ  かし

 

聞こし召し=サ行四段動詞「聞こし召す」の連用形。「聞く」の尊敬語。動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。「食ふ・飲む・治む・行ふ」などの尊敬語でもある。

 

しめ=尊敬の助動詞「しむ」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

ぞ=強調の係助詞

 

かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。

 

(その寺の)鐘の音をお聞きになって作りなさった詩(が次の詩)であるよ。

 

 

都府楼カニ

()()(ろう)(わず)かに(かわら)(いろ)()

 

(私にとって)太宰府の建物は、わずかにその瓦の色を見るだけであり、

 

 

観音寺

(かん)(のん)()()(かね)(こえ)()

 

観音寺は、ただその鐘の音を聞くばかりである。



 

これは、文集の、白居易の、「遺愛寺テテ、香炉峰ゲテ」といふ詩に、

 

書き下し文:()(あい)()(かね)(まくら)(そばだ)てて()き、(こう)()(ほう)(ゆき)(すだれ)(かか)げて()

 

この詩は、白氏文集の中にある、白居易の、「遺愛寺の鐘は枕を傾けて頭を高くして聴き、香炉峰の雪は簾をはね上げて眺める。」という詩に、

 

 

まさざまに作らしめ 給へ こそ、昔の博士ども申し けれ

 

まさざまに=ナリ活用の形容動詞「勝様なり/増様なり(まさざまなり)」の連用形、さらに勝っている、優れている。いっそう増している。

 

しめ=尊敬の助動詞「しむ」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語

 

り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

さらに勝るくらいにお作りになっていると、昔の学者たちは申し上げた。

 

 

又、かの筑紫にて、九月九日、菊の花を御覧じ ける ついでに、いまだ京におはしまし 時、

 

彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する。

 

御覧じ=サ変動詞「御覧ず(ごらんず)」の連用形、ご覧になる。動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

序(ついで)=名詞、おり、機会。物事の順序、次第。

 

おはしまし=サ行四段動詞「おはします」の連用形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である菅原道真を敬っている。敬語を使った作者からの敬意。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

また、あの筑紫で、9月9日(=重陽の節句)に菊の花をご覧になった際に、(菅原道真が)まだ京都にいらっしゃった時、

 

 

九月の()(よい)(だい)()にて菊の宴ありに、

 

内裏(うち・だいり)=名詞、宮中、内裏(だいり)。天皇。  宮中の主要な場所としては紫宸殿(ししんでん:重要な儀式を行う場所)や清涼殿(せいりょうでん:天皇が普段の生活を行う場所)などがある。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

9月の今夜、宮中で観菊の宴があったのだが、

 

 

この大臣の作ら 給ひ ける詩を、帝かしこく感じ給ひて、

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

かしこく=ク活用の形容詞「畏し/賢し(かしこし)」の連用形。連用形だと「たいそう、非常に」の意味。その他の意味として、恐れ多い、尊い。もったいない、かたじけない。賢い、優れている。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である帝を敬っている。作者からの敬意。

 

この大臣(=菅原道真)がお作りになった詩を、帝はたいそう感動なさって、

 

 

(おん)()(たまわ)給へ  を、

 

賜り=ラ行四段動詞「賜る(たまわる)」の連用形、「与ふ」の謙譲語、お与えになる。「受く・もらふ」の謙譲語、いただく、頂戴する。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である帝を敬っている。作者からの敬意。

 

り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

帝自身のご衣服をお与えになったのを、

 

 

筑紫にもて下らしめ 給へ  けれ 

 

しめ=尊敬の助動詞「しむ」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

けれ=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

(道真は)筑紫に持ってお下りになっていたので、

 

 

御覧ずるに、いとどその 思し召し出でて、作らしめ 給ひ ける

 

御覧ずる=サ変動詞「御覧ず(ごらんず)」の連体形、ご覧になる。動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに

 

折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節

 

思し召し出で=ダ行下二段動詞「思し召し出づ(おぼしめしいづ)」の連用形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

しめ=尊敬の助動詞「しむ」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

(その衣服を)ご覧になると、いよいよその時の事が思い出されて、お作りになった詩(が次の詩である)。



 

去年今夜侍清涼

(きょ)(ねん)今夜(こよい)(せい)(りょう)()

 

去年の今夜は清涼殿(=宮中の天皇が普段の生活を行う場所)で天皇のおそばに仕え、

 

 

秋思詩篇独

(しゅう)()()(へん)(ひと)(はらわた)()

 

「秋思」という詩を作ったが、(それを思い出すと)はらわたがちぎれるほど痛切な思いである。

 

 

恩賜御衣今在

(おん)()(ぎょ)()(いま)(ここ)()

 

天皇から頂いたご衣服は今ここにある。

 

 

奉持シテ毎日拝余香

(ほう)()して(まい)(にち)()(こう)(はい)

 

毎日捧げ持って、その残り香を拝して(あの時の事などを思い出して)いる。

 

 

この詩、いとかしこく人々感じ申さ  

 

かしこく=ク活用の形容詞「畏し/賢し(かしこし)」の連用形。連用形だと「たいそう、非常に」の意味。その他の意味として、恐れ多い、尊い。もったいない、かたじけない。賢い、優れている。

 

申さ=サ行四段動詞「申す」の未然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である菅原道真を敬っている。作者からの敬意。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。ここでは文脈判断。動作の主体である人々を敬っている。作者からの敬意。

 

き=過去の助動詞「き」の終止形、接続は連用形

 

この詩を(聞いて)、たいそう人々は感動し申し上げました。

 

 

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大鏡『菅原道真の左遷』まとめ

 

 

 

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