青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
呉越同舟=仲の悪い者どうしが同じ場所や境遇に居合わせること。または困難や利害のために協力すること。
善ク用レヰル兵ヲ者ハ、譬ヘバ如二シ率然一ノ。
善く兵を用ゐる者は、譬へば率然のごとし。
うまく軍隊を統率する者は、例えると率然のようなものである。
率然者、常山之蛇也。
率然は、常山の蛇なり。
率然とは、常山にいる蛇のことである。
撃二テバ其ノ首一ヲ則チ尾至リ、撃二テバ其ノ尾一ヲ則チ首至リ、撃二テバ其ノ中一ヲ則チ首尾倶ニ至ル。
其の首を撃てば則ち尾至り、其の尾を撃てば則ち首至り、其の中を撃てば則ち首尾倶に至る。
その首を攻撃すると尾が助けに来て、尾を攻撃すると頭が助けに来る、胴体を攻撃すると頭と尾の両方ともが助けに来ることになる。
敢ヘテ問フ、「兵ハ可レキ使レム如二クナラ率然一ノ乎ト。」
敢えて問う、「兵は率然のごとくならしむべきか。」と。
※使=使役「使二ムAヲシテB一(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」
あえて問おう、「軍隊を率然のようにさせることができるか。
曰ハク、「可ナリ。夫レ呉人ト与二ハ越人一相悪ム也。
曰はく、「可なり。夫れ呉人と越人とは相悪むや、
※夫れ=そもそも、いったい
(それに答えて)言うことには、「可能だ。そもそも呉の人と越の人はお互いに憎み合っているが、
当二タリテ其ノ同レジクシテ舟ヲ而済一ルニ遇レハバ風ニ、其ノ相救フ也、如二シト左右ノ手一ノ。」
其の舟を同じくして済るに当たりて風に遇はば、其の相救うや左右の手のごとし。」と。
※而=置き字(順接・逆接)
同じ船に乗り合わせて渡る時に大風が吹いてきたならば、そこでお互いに助け合う様子は左右の手のような協力関係であろう。」と。