青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
秦王約二シテ趙王一ニ会二ス澠池一ニ。相如従フ。
秦王趙王に約して澠池に会す。相如従ふ。
秦王は趙王と約束して、澠池で会合した。藺相如がついて行った。
及レビ飲レムニ酒ヲ、秦王請二フ趙王ニ鼓一レセンコトヲ瑟ヲ。趙王鼓レス之ヲ。
酒を飲むに及び、秦王趙王に瑟を鼓せんことを請ふ。趙王之を鼓す。
酒宴が始まると、秦王は趙王に琴を弾くことを求めた。趙王は琴を弾いた。
※(琴を演奏させられたことは、趙王にとっては屈辱)
相如復タ請三フ秦王ニ撃レチテ缶ヲ為二サンコトヲ秦声一ヲ。秦王不レ肯ゼ。
相如復た秦王に缶ふを撃ちて秦声を為さんことを請ふ。秦王肯ぜず。
藺相如もまた、秦王にほとぎ(=酒を入れる土器)をたたいて秦の民謡を歌うことを求めた。秦王は承知しなかった。
※藺相如は秦に対して毅然とした態度をとっておくべきだと考えている。
相如曰ハク、「五歩之内、臣得下ント以二ツテ頸血一ヲ濺中グヲ大王上ニ。」
相如曰はく、「五歩の内、臣頸血を以つて大王に濺ぐを得ん。」と。
藺相如は、「(私と秦王の距離は)五歩の範囲、私は首の血を大王に注ぎかけることができます。」と言った。
左右欲レス刃レセント之ヲ。相如叱レス之ヲ。皆靡ク。秦王為ニ一タビ撃レツ缶ヲ。
左右之を刃せんと欲す。相如之を叱す。皆靡く。秦王為に一たび缶を撃つ。
側近が藺相如を斬り殺そうとした。藺相如はその側近を叱りつけた。皆圧倒されてひるんだ。(しかたなく、)秦王は趙王のためにほとぎを一回たたいた。
秦終ニ不レ能レハ有レル加二フル於趙一ニ。趙モ亦盛ンニ為二ス之ガ備一ヘヲ。秦不二敢ヘテ動一カ。
秦終に趙に加ふる有る能はず。趙も亦盛んに之が備へを為す。秦敢へて動かず。
※「不レ能二ハA一(スル)(コト)」=不可能、「 ~(する)(こと)能はず」「(能力がなくて) ~Aできない」
※「不二敢ヘテ ~一(せ)」=しいて(無理に) ~しようとはしない。 ~するようなことはしない
秦は最後まで趙を威圧することが出来なかった。趙も十分に秦に対して(兵を)備えていた。秦も無理に手出ししようとはしなかった。
ひとつ前の話はこちら『完璧而帰(璧を完うして帰る)』(1)原文・書き下し文・現代語訳