「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら和泉式部日記『夢よりもはかなき世の中・薫る香に』(薫る香に~の和歌まで)問題
夢よりもはかなき①世の中を嘆きわびつつ明かし暮らすほどに、②四月十余日にもなりぬれば、木の下暗がりもてゆく。築地の上の草青やかなるも、人はことに目もとどめぬを、あはれとながむるほどに、近き③透垣のもとに人のけはひのすれば、誰ならむと思ふほどに、故宮に④候ひし小舎人童⑤なりけり。
あはれにもののおぼゆるほどに来たれば、「などか久しう見えざりつる。遠ざかる昔の名残にも思ふを。」など⑦言はすれば、「そのことと⑧候はでは、なれなれしきさまにやと、つつましう⑨候ふうちに、日ごろは山寺にまかりありきて⑩なむ。いと頼りなく、つれづれに思ひ⑪たまうらるれば、御代はりにも見⑫たてまつらむとて⑬なむ、帥宮に参りて⑭候ふ。」と語る。
「いとよきことにこそ⑮あなれ。その宮は、⑯いとあてに、けけしうおはしますなるは。昔のやうにはえしもあらじ。」など言へば、「しかおはしませど、いとけ近うおはしまして、『⑰常に参るや。』と問はせおはしまして、『⑲参り⑳侍り。』と㉑申し㉒候ひつれば、『これ持て㉓参りて、いかが見㉔給ふとて奉らせよ。』と㉕のたまはせつる。」とて、橘の花を取り出でたれば、「昔の人の」と㉖言はれて、「さらば参り㉗なむ。いかが聞こえさすべき。」と言へば、言葉にて聞こえさせむも㉘かたはらいたくて、「何かは。㉙あだあだしくもまだ聞こえ㉚たまはぬを、はかなきことをも。」と思ひて、
㉛薫る香に よそふるよりは ほとどぎす 聞かばや同じ 声やしたると
と聞こえさせたり。
問題1.②四月、③透垣、の漢字の読みを答えよ。
②うづき
③すいがい(すいがひ)
問題2.①世の中、㉘かたはらいたし、㉙あだあだし、のここでの意味を答えよ。
①男女の仲
世の中=名詞、男女の仲。世間、社会、現世、この世、などの意味があるが、ここでは男女の仲(和泉式部と亡くなった為尊親王との関係)
㉘恥ずかしい
かたはらいたし=ク活用の形容詞、恥ずかしい、きまりが悪い。はたで見ていて苦々しい、いたたまれない。
㉙うわついている、誠実でない
あだあだし=シク活用の形容詞、うわついている、誠実でない
問題3.「⑰常に参るや」について、主語と動作の対象を明らかにして現代語訳を答えよ。
⑰お前(子舎人童)はいつも和泉式部のもとへ参上するのか
参る=ラ行四段動詞「参る」の終止形(あるいは連体形)、「行く」の謙譲語。動作の対象である和泉式部を敬っている。この敬語を使った帥宮からの敬意である。回想の場面であるのでこの敬語を使ったのは帥宮。
※「参る」の下の「や」は疑問を意味するが、終助詞ととらえると「参る」は終止形、係助詞ととらえると「連体形」ということになる。「や」が「疑問」を意味していることさえ分かれば、あとはあまり気にしなくて良い。
問題4.④候ひ、⑧候は、⑨候ふ、⑪たまう、⑫たてまつら、⑲参り、⑳侍り、㉑申し、㉒候ひ、㉓参り、㉔給ふ、㉕のたまはせ、㉚たまは、の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のどれか)と誰から誰に対しての敬意の表現であるかを、例にならって答えよ。
単語 |
敬語の種類 |
誰から |
誰に対して |
(例)参る |
謙譲語 |
作者(和泉式部) |
故宮 |
④候ひ |
謙譲語 |
作者(和泉式部) |
故宮 |
⑧候は |
丁寧語 |
子舎人童 |
作者(和泉式部) |
⑨候ふ |
丁寧語 |
子舎人童 |
作者(和泉式部) |
⑪たまう |
謙譲語 |
|
|
⑫たてまつら |
謙譲語 |
子舎人童 |
帥宮 |
⑲参り |
謙譲語 |
子舎人童 |
作者(和泉式部) |
⑳侍り |
丁寧語 |
子舎人童 |
帥宮 |
㉑申し |
謙譲語 |
子舎人童 |
帥宮 |
㉒候ひ |
丁寧語 |
子舎人童 |
作者(和泉式部) |
㉓参り |
謙譲語 |
帥宮 |
作者(和泉式部) |
㉔給ふ |
尊敬語 |
帥宮 |
作者(和泉式部) |
㉕のたまはせ |
尊敬語 |
子舎人童 |
帥宮 |
㉚たまは |
尊敬語 |
和泉式部 |
帥宮 |
※敬語はすべて使った人間からの敬意である。
尊敬語は動作の主体を敬う
謙譲語は動作の対象を敬う
丁寧語はその言葉の受け手を敬う。つまり、地の文なら読者、話し言葉なら聞き手を敬う。
※「候ふ・侍り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
※「たまふ」は四段活用と下二段活用の二つのタイプがある。四段活用のときは『尊敬語』、下二段活用のときは『謙譲語』となるので注意。下二段活用のときには終止形と命令形にならないため、活用形から判断できる。四段と下二段のそれぞれに本動詞・補助動詞としての意味がある。
問題5.⑩、⑬、㉗、の「なむ」についての文法的説明として適切なものを次の「ア~カ」の中から選んで答えよ。
ア.係助詞「なむ」であり、係り結びが起こっている。
イ.係助詞「なむ」であり、係り結びの消滅(流れ)が起こっている。
ウ.係助詞「なむ」であり、係り結びの省略が起こっている。
エ.願望の終助詞「なむ」である。
オ.強意の助動詞と意志の助動詞でできた「なむ」である。
カ.動詞の活用語尾と意志の助動詞でできた「なむ」である。
⑩ウ.係助詞「なむ」であり、係り結びの省略が起こっている。
⑬ア.係助詞「なむ」であり、係り結びが起こっている。
㉗オ.強意の助動詞と意志の助動詞でできた「なむ」である。
①未然形+「なむ」・・・願望の終助詞「なむ」
(例)去ななむ。=「帰りたいなあ。」
②連用形+「なむ」・・・完了(強意)の「な」+推量の「む」
(例)去になむ。=「(きっと)帰りましょう。/帰るだろう。」
③死なむ・往(去)なむ・・・ナ変動詞の未然形+推量の「む」
④「①~③」以外での「なむ」・・・係助詞「なむ」
(例)去になむ(寝ける)。=「帰って寝たのだった。」
※接続だけでなく文脈判断もできると良い。
問題6.⑤なりけり、⑦言はすれ、⑮あなれ、㉖言はれ、を例にならって品詞分解し、説明せよ。
例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形
⑤品詞分解:「な り/け り」
なり=助動詞・断定・連用形
けり=助動詞・詠嘆・終止形
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
⑦品詞分解:「言 は/す れ」
言は=動詞・四段・未然形
すれ=助動詞・使役・已然形
すれ=使役の助動詞「す」の已然形、接続は未然形。「す」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合はほぼ必ず「使役」の意味である。
⑮品詞分解:「あ/な れ」
あ=動詞・ラ変・連体形
なれ=助動詞・推定・已然形
あ=ラ変動詞「あり」の連体形が音便化して無表記になったもの、「ある」→「あん(音便化)」→「あ」
なれ=推定の助動詞「なり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。直前に連体形が来ているためこの「なり」には「断定・存在・推定・伝聞」の四つのどれかと言うことになる。
しかし、直前に音便化したものや無表記化したものがくると「推定・伝聞」の意味の可能性が高い。あとは、文脈判断
㉖品詞分解:「言 は/れ」
言は=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・自発・連用形
れ=自発の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある。文脈判断
問題7.「⑯いとあてに、けけしうおはしますなるは」、「㉛薫る香に よそふるよりは ほとどぎす 聞かばや同じ 声やしたると」の現代語訳を答えよ。
⑯とても上品で近づきがたくていらっしゃるそうだが。
あてに=ナリ活用の形容動詞「貴(あて)なり」の連用形、上品だ、優雅だ。身分が高い、高貴である。
けけしう=シク活用の形容詞「けけし」の連用形が音便化したもの、親しみにくい、よそよそしい
おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の終止形。尊敬語。「おはす」より敬意が高いもの。動作の主体である帥宮を敬っている。敬語を使った和泉式部からの敬意。
なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。直前に終止形が来ているため「伝聞・推定」の「なり」であることが分かる。後は文脈判断。
は=係助詞
㉛(橘の花の)薫る香にかこつけて(為尊親王をしのぶ)よりは、ほととぎすの鳴き声のように、あなたの声を聞きたい。(為尊親王と)同じ声をしているかどうかと(思うから)。
よそふる=ハ行下二段動詞「寄そふ・比そふ」の連体形、関係づける、かこつける。なぞらえる、比べる
ばや=願望の終助詞、接続は未然形
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。ここでの結びは「たる(完了の助動詞)」
問題8.㉛の和歌における「ほととぎす」とは誰のことを指しているか答えよ。
㉛帥宮
問題9.帥宮が和泉式部に対して「橘の花」を贈った理由を、次の「ア~エ」の中から最も適切なものを選んで答えよ。
ア.寂しい思いをしている和泉式部に故宮のことを思い出させてあげようと思ったから。
イ.自分が和泉式部に好意を寄せていることを告げるため。
ウ.遠くにいる橘道長(和泉式部の夫)のことを思い出させて励まそうとしたから。
エ.故宮のことをまだ思い続けているのかどうかを和泉式部に聞きたかったから
※和泉式部が口にした「昔の人の」の意味:「五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞす」の歌を指している。
和歌の意味は「五月を待って咲く橘の花の香りをかぐと、昔親しんだ人の袖の香りがすることだ。」
※帥宮が橘の花を和泉式部に贈った理由:上記の和歌の意味から考えると、和泉式部は故宮(為尊親王)のことをまだ思い続けているのかということを聞きたかったのだと思われる。
和泉式部日記『夢よりもはかなき世の中・薫る香に』解説・品詞分解・試験対策