「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら宇治拾遺物語『猟師、仏を射ること』(1)(2)現代語訳
聖泣く泣く拝みて、「いかに、ぬし殿は拝み奉る や。」と言ひけれ ば、
いかに=副詞、どんなに、どう。
奉る=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の終止形、謙譲語。動作の対象である普賢菩薩を敬っている。聖からの敬意。
や=疑問の係助詞
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
僧は泣きながら拝んで、「どうだ、あなたは拝み申し上げたか。」と言ったので、
「いかがは。この童も拝み奉る。をいをい、いみじう尊し。」とて、
奉る=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の終止形、謙譲語。動作の対象である普賢菩薩を敬っている。聖からの敬意。
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。
(猟師は、)「どうして(拝み申さないことがありましょうか)。この少年も拝み申して上げています。ええ、とても尊い。」と言って、
猟師思ふやう、「聖は年ごろ経をもたもち、読み給へ ば こそ、その目ばかりに見え給は め、
年ごろ=名詞、長年、長年の間
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である普賢菩薩、あるいは聖を敬っている。猟師からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。ここでは逆接強調法。
逆接強調法「こそ ~ 已然形、」→「~だけれど、(しかし)」
普通の係り結びは結び(文末)が已然形となるため、「こそ ~ 已然形。」となるが、
逆接強調法のときは「こそ ~ 已然形、」となり、「、(読点)」があるので特徴的で分かりやすい。
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である聖を敬っている。猟師からの敬意。
め=推量の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
猟師が思うことには、「僧は長年お経を大切にし、読んでいらっしゃるからこそ、その目だけにはお見えになるのでしょうけれど、
この童、我が身などは、経の向きたる方も知らぬに、見え給へ るは心は得 られ ぬことなり。」と、心のうちに思ひて、
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である普賢菩薩を敬っている。猟師からの敬意。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
得(え)=ア行下二段動詞「得(う)」の未然形。ア行下二段活用の動詞は「得(う)」・「心得(こころう)」・「所得(ところう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
られ=可能の助動詞「らる」の未然形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。平安以前では下に打消が来て「可能」の意味で用いられることが多い。平安以前では「可能」の意味の時は下に「打消」が来るということだが、下に「打消」が来ているからといって「可能」だとは限らない。鎌倉以降は「る・らる」単体でも可能の意味で用いられるようになった。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
この少年や、私などは、お経の向いている方向も分からないのに、(仏が)お見えになるのは納得できないことだ。」と、心の中で思って、
「このこと試みて む、これ罪得 べきことにあらず。」と思ひて、
て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
得(う)=ア行下二段動詞「得(う)」の終止形。ア行下二段活用の動詞は「得(う)」・「心得(こころう)」・「所得(ところう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
「このことを試してみよう、これは罪を得るはずのことではない。」と思って、
とがり矢を弓につがひて、聖の拝み入りたる上よりさし越して、弓を強く引きて、ひやうと射たり けれ ば、
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
先の鋭くとがった矢を弓につがえて、僧が拝み込んでいる上から頭越しに、弓を強く引いて、ひゅうと射たところ、
御胸のほどに当たるやうにて、火を打ち消つごとくにて光も失せぬ。谷へとどろめきて逃げ行く音す。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ごとく=比況の助動詞「ごとし」の連用形
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
音す=サ変動詞音「す」の終止形。 「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「信ず」、「愛す」、「ご覧ず」
(仏の)御胸のあたりに当たったようで、火を打ち消すように光も消えてしまった。谷へ大きな音が鳴り響いて逃げて行く音がする。
聖、「これはいかに し 給へ る ぞ。」と言ひて、泣き惑ふこと限りなし。
いかに=ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連用形。どのようだ、どういうふうだ。
し=サ変動詞「す」の連用形、する。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である猟師を敬っている。聖からの敬意。
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ぞ=強調の係助詞
泣き惑ふ=ハ行四段動詞「泣き惑ふ」の連体形、ひどく泣く、泣き乱れる。
惑ふ(まどふ)=補助動詞ハ行四段、ひどく ~する、とにかく ~する。
限りなし=ク活用の形容詞「限りなし」の終止形、果てしがない、この上もない、甚だしい。
僧は、「これはどうなさったのか。」と言って、泣き乱れることはこの上ない。
男申し けるは、「聖の目にこそ見え給は め、
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である男(=猟師)を敬っている。作者からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。ここでは逆接強調法。
逆接強調法「こそ ~ 已然形、」→「~だけれど、(しかし)」
給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である普賢菩薩、あるいは僧を敬っている。猟師からの敬意。
め=推量の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
男(=猟師)が申し上げたことには、「僧の目には(仏の姿が)お見えになるのでしょうけれど、
我が罪深き者の目に見え給へ ば、試み奉ら むと思ひて射つる なり。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である普賢菩薩を敬っている。猟師からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
奉ら=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の未然形、謙譲語。動作の対象である普賢菩薩を敬っている。猟師からの敬意。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
私のような罪深い者の目にもお見えになるので、お試ししようと思って射たのです。
実の仏なら ば、よも矢は立ち給は じ。
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。
よも=副詞、下に打消推量の助動詞「じ」を伴って、「まさか~、よもや~、いくらなんでも~」。
給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である普賢菩薩を敬っている。猟師からの敬意。
じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形
本当の仏であるならば、まさか矢はお立ちになるまい。
されば あやしき物なり。」と言ひけり。
されば=接続詞、それゆえ、それで、そうであれば、だから。そもそも、いったい。
あやしき=シク活用の形容詞「怪し・奇し/賤し(あやし)」の連体形、不思議だ、変だ。/身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
(しかし、矢が立った。)そうであれば、怪しいものです。」と言った。
夜明けて、血をとめて行きて見れば、一町ばかり行きて、谷の底に大きなる狸、胸よりとがり矢を射通されて死して伏せり けり。
とめ=マ行下二段動詞「尋む・求む(とむ)」の連用形、あとをつける、たずねる、探す。求める、欲しいと願う。買う。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
死し=サ変動詞「死す」の連用形。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
り=存続の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
夜が明けて、血の跡をたどって行って見ると、一町ほど行って、谷の底に大きな狸が、胸から矢を射通されて死んで横たわっていた。
聖なれ ど、無知なれ ば、かやうに化かされ ける なり。
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形。もう一つの「なれ」も同じ。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
かやうに=ナリ活用の形容動詞の「かやうなり」の連用形、このよう、かくのごとく。
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
僧ではあるけれど、無知なので、このように化かされたのである。
猟師なれ ど、おもんばかりありけれ ば、狸を射殺し、その化けをあらはしける なり。
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
猟師であるけれど、思慮があったので、狸を射殺し、その化けの皮をはいだのである。