「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
津の国の こやとも人の いふべきに ひまこそなけれ 芦の八重葺
こ=カ変動詞「来(く)」の命令形
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
ひま(隙・暇)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
なけれ=ク活用の形容詞「無し」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
「こや」が掛詞となっており、地名の「昆陽(こや)」と来てくださいと言う意味の「来や(こや)」が掛けられている。また「小屋」と言う意味も掛けられている。
「ひま」が掛詞となっており、「暇(ひま)」とすきまと言う意味の「隙(ひま)」が掛けられている。
※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。
掛詞を探すときのポイント(いずれも例外有り)
①ひらがなの部分
②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語
③地名などの固有名詞
津の国の=枕詞、「昆陽(こや)」などの摂津の国の地名(「難波(なにわ)」・「長柄(ながら)」など)に掛かる。
※枕詞…特定の語の上にかかって修飾したり、口調を整えるのに用いることば。5文字以下で、それ自体に意味がほとんどないなどという点で序詞とは大きく異なる。
その他の技巧として、体言止め・倒置・四句切れがなされている。
津の国の こやとも人の いふべきに ひまこそなけれ 芦の八重葺
摂津の国の昆陽(こや)という地名のように、「来や(=来てください)」と言うべきなのですが、そのような時間もありません。葦の八重葺きの屋根に隙間がないのと同じように。
暗きより 暗き道にぞ 入りぬべき 遥かに照らせ 山の端の月
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
はるかに=ナリ活用の形容動詞「遥かなり」の連用形
照らせ=サ行四段動詞「照らす」の命令形
山の端(やまのは)=名詞、「山の、空に接する部分」
こちらの和歌の技巧は、体言止め・倒置・三句切れがなされており、また、法華経にある分をふまえてのものである。
暗きより 暗き道にぞ 入りぬべき 遥かに照らせ 山の端の月
よりいっそう暗い闇へ入り込んでしまいそうだ。はるか遠くまで照らしてください、山の端にいる月よ。
俊頼髄脳の『歌のよしあし』に出てくる和歌の解説「津の国のこやとも人の~」・「暗きより暗き道にぞ~」