「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら伊勢物語『通ひ路の関守』現代語訳
昔、男あり けり。東の五条わたりに、いと忍びて行きけり。
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。もう一つの「けり」も同じ。
忍び=バ行四段動詞「忍ぶ」の連用形、人目を忍ぶ、目立たない姿になる。我慢する、こらえる。
昔、ある男がいた。東の五条のあたり(に住んでいる女のもと)に、たいそう人目を忍んで通っていた。
みそかなる所なれ ば、門よりもえ入らで、
みそかなる=ナリ活用の形容動詞「密かなり(みそかなり)」の連体形、人目に付かないようにひそかにするさま、こっそり。
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
ひそかに通う所なので、(堂々と)門からは入ることができず、
童べの踏みあけたる築地のくづれより通ひけり。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
子供たちが踏みあけた築地(=泥を固めて造った土塀)の崩れたところから通っていた。
人しげくもあら ね ど、たび重なりけれ ば、
しげく=ク活用の形容詞「繁し(しげし)」の連用形、わずらわしい。多い、たくさんある。茂っている。絶え間がない、頻繁である。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
人目は多くなかったけれど、(男が女のもとへ通うことが)たび重なったので、
あるじ聞きつけて、その通ひ路に、夜ごとに人を据ゑて守らせ けれ ば、
据ゑ=ワ行下二段動詞「据う(すう)」の連用形、ワ行下二段活用の動詞は「植う(うう)」・「飢う(うう)」・「据う(すう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
(女の家の)主人が聞きつけて、その(男が)通う道に、毎晩人を配置して見張らせたので、
行けども え あは で帰りけり。さて詠める。
ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
あは=ハ行四段動詞「逢ふ・会ふ(あふ)」の未然形
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
さて=接続詞、(話題を変えるときに、文頭において)さて、そして、ところで、それで、そこで
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
(男は)行っても会うことができなくて帰ってきたのだった。そこで詠んだ(歌)。
人知れぬ わが通ひ路の 関守は 宵々ごとに うちも寝 な なむ
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
うち=接頭語、動詞の前に付いて「少し・ちょっと」などの意味を付け加える。
寝(ね)=ナ行下二段動詞「寝(ぬ)」の連用形
な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形
なむ=願望の終助詞。接続は未然形。~てほしい、~てもらいたい。
人知れぬ わが通ひ路の 関守は 宵々ごとに うちも寝ななむ
人に知られることなく私が通う道の番人は、毎晩毎晩少しでも眠っていて欲しいものだ。
と詠めり けれ ば、いといたう心やみけり。あるじ許して けり。
り=完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
いたう=ク活用の形容詞「甚し(いたし)」の連用形が音便化したもの、(良い意味でも悪い意味でも)程度がひどい。
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
て=完了の助動詞「つ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
と詠んだので、(女は)たいそうひどく心を痛めた。(なので、)主人は(男が通うのを)許したのだった。
二条の后に忍びて参り けるを、世の聞こえありけれ ば、
忍び=バ行四段動詞「忍ぶ」の連用形、人目を忍ぶ、目立たない姿になる。我慢する、こらえる。
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語。動作の対象である二条の后を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
聞こえ=名詞、噂(うわさ)、評判。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
(この話は、男が)二条の后のもとに人目を忍んで参上していたのを、世間で噂になったので、
せうとたちの守らせ 給ひ けるとぞ。
せうとたち=名詞、兄たち
兄人(せうと)=名詞、兄弟、兄、弟。
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。
給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体であるせうとたちを敬っている。作者からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「言ふ・聞く(連体形)」などが省略されている。
※今回のように係助詞の前に「と(格助詞)」がついている時は「言ふ・聞く」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。
「とぞ・となむ・にや・にか」だと、「言ふ・聞く(連体形)」など
「とこそ」だと、「言へ・聞け(已然形)」など
「とぞ(言ふ/聞く)。」→「~ということだ。/~だそうだ。」
(后の)兄たちが、見張らせなさったということだ。