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源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』解説・品詞分解(3)

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原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』現代語訳(3)

 

「今は渡ら 給ひ 。乱り心地いと苦しくなり侍り 

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮(=明石の姫君)を敬っている。紫の上からの敬意。

 

給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

ね=強意の助動詞「ぬ」の命令形、接続は連用形。

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である中宮(=明石の姫君)を敬っている。紫の上からの敬意。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

(紫の上は、)「もうお帰りください。(病気のせいで)気分がたいそう苦しくなってきました。

 

 

言ふかひなくなり けるほどと言ひながら

 

言ふかひなく=ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形、(幼く)わきまえがない、聞き分けがない。言っても仕方がない、言っても何にもならない、どうしようもない。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。

①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで

②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」

③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」

④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中

 

どうしようもなくなってしまったほどの状態とは言うものの、

 

 

いとなめげに 侍り 。」とて、

 

なめげに=ナリ活用の形容動詞「無礼げなり(なめげなり)」の連用形、無礼だ、失礼だ。

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手である中宮(=明石の姫君)を敬っている。紫の上からの敬意。

 

や=間投助詞

 

(皆の前で横になるのは、)大変失礼でございますよ。」と言って、



 

()()(ちょう)引き寄せて()給へ さまの、常よりもいと頼もしげなく見え給へ 

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

御几帳を引き寄せて横になられている様子が、いつもよりとても頼りなさそうにお見えなので、

 

 

いかに 思さ るる  。」とて、

 

いかに=副詞、どんなに、どう。「いかに」の中には係助詞「か」が含まれていて係り結びが起こる。

 

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。中宮(=明石の姫君)からの敬意。

 

るる=尊敬の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。ここでは文脈判断。動作の主体である紫の上を敬っている。中宮(=明石の姫君)からの敬意。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

か=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「侍る(ラ変・連体形)」などが省略されていると考えられる。係り結びの省略。

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など

「にや(侍る)。」→「~でございますか。」

 

「お体の具合はどうでございますか。」とおっしゃって、

 

 

宮は、御手をとらへ奉りて、泣く泣く見奉り 給ふに、

 

奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。もう一つの「奉り」も同じ。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である中宮(=明石の姫君)を敬っている。作者からの敬意。

 

中宮は、(紫の上の)お手をお取りして、泣きながら拝見なさると、

 

 

まことに消えゆく(つゆ)の心地して、限りに見え給へ ()()(きょう)の使ひども、数も知ら立ち騷ぎたり

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

本当に消えゆく露のような感じがして、命の終わりのように見えなさるので、御誦経の使者たちが、大勢立ち騷いでいる。

※御誦経=当時は病気などになった際には加持祈祷が行われた。そのための誦経



 

先ざきも、かくて生き出で給ふ にならひ給ひて、

 

かくて=副詞、このようにして、こうして

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

以前も(物の怪のしわざで死ぬ間際に)、このようにして生き返りなさった時に(光源氏は)ならいなさって、

 

 

(おん)(もの)()と疑ひ給ひて、夜一夜さまざまのことをし尽くさ  給へ 

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

夜一夜(よひとよ)=名詞、一晩中。対義語「日一日(ひひとひ)」。副詞ではあるが「夜(よ)もすがら」=「一晩中」というのもある。「夜もすがら」⇔「日もすがら」

 

し尽くさ=サ行四段動詞「し尽くす(しつくす)」の未然形

 

せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。

 

給へ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

御物の怪のしわざかと疑いなさって、一晩中さまざまなこと(=加持祈祷など)をさせ尽くしなさったけれど、

 

 

かひなく明け果つるほどに消え果て給ひ 

 

かひ(甲斐・効)=名詞、効果、効き目。

 

なく=ク活用の形容詞「無し」の連用形

 

明け果つる=タ行下二段動詞「明け果つ(あけはつ)」の連体形

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

そのかいもなく、夜が明けきる頃にお亡くなりになった。

 

 

源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』まとめ

 

 

 

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