「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』解説・品詞分解(3)
「今は渡らせ給ひね。乱り心地いと苦しくなり侍りぬ。
(紫の上は、)「もうお帰りください。(病気のせいで)気分がたいそう苦しくなってきました。
言ふかひなくなりにけるほどと言ひながら、
どうしようもなくなってしまったほどの状態とは言うものの、
いとなめげに侍りや。」とて、
(皆の前で横になるのは、)大変失礼でございますよ。」と言って、
御几帳引き寄せて臥し給へるさまの、常よりもいと頼もしげなく見え給へば、
御几帳を引き寄せて横になられている様子が、いつもよりとても頼りなさそうにお見えなので、
「いかに思さるるにか。」とて、
「お体の具合はどうでございますか。」とおっしゃって、
宮は、御手をとらへ奉りて、泣く泣く見奉り給ふに、
中宮は、(紫の上の)お手をお取りして、泣きながら拝見なさると、
まことに消えゆく露の心地して、限りに見え給へば、御誦経の使ひども、数も知らず立ち騷ぎたり。
本当に消えゆく露のような感じがして、命の終わりのように見えなさるので、御誦経の使者たちが、大勢立ち騷いでいる。
※御誦経=当時は病気などになった際には加持祈祷が行われた。そのための誦経
先ざきも、かくて生き出で給ふ折にならひ給ひて、
以前も(物の怪のしわざで死ぬ間際に)、このようにして生き返りなさった時に(光源氏は)ならいなさって、
御物の怪と疑ひ給ひて、夜一夜さまざまのことをし尽くさせ給へど、
御物の怪のしわざかと疑いなさって、一晩中さまざまなこと(=加持祈祷など)をさせ尽くしなさったけれど、
かひもなく、明け果つるほどに消え果て給ひぬ。
そのかいもなく、夜が明けきる頃にお亡くなりになった。
源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』解説・品詞分解(3)