「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら徒然草『大事を思ひ立たん人は』現代語訳
大事を思ひ立たん人は、さり難く、心にかからん事の本意を遂げずして、
ん=婉曲の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。
訳:「思い立つ(ような)人は」、「気にかかる(ような)こと」
さり難く=ク活用の形容詞「さり難し」の連用形
避る(さる)=ラ行四段動詞、避ける、よける、断る、辞退する。
本意(ほい)=名詞、本来の意志、かねてからの願い
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
(出家修行など)人生の一大事を思い立つ人は、避けにくく、気にかかるようなことの本来の目的を遂げないで、
さながら 捨つ べき なり。
さながら=副詞、そのまま、もとのまま。すべて、全部
捨つ=タ行下二段動詞「捨つ」の終止形
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
そのまま全部捨てるべきである。
「しばしこの事果てて」、「同じくは、かの事沙汰し置きて」、
果て=タ行下二段動詞「果つ」の連用形、終わる、終わりになる
同じく=ク活用の形容詞「同じ」の連用形
※形容詞の連用形「~く」 + は=仮定条件「もし~ならば」という意味になる。もう一つ同類のものとして、
打消の助動詞「ず」の連用形 + は =仮定条件「もし~ならば」というものがある。なので、「~ずは」・「~くは」とあれば、仮定条件と言うことに気をつけるべき。この「は」は接続助詞「ば」からきているので、「ば」のまま使われるときもある。
彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する
沙汰(さた)=名詞、処置、取決め。指図、命令。裁判、訴訟。評判、うわさ。
「もうしばらく(待って)、この事が終わって(その後に出家しよう)」、「同じ(ように時間がかかる)ならば、あの事もきちんと処理しておいて(から出家しよう)」、
「しかしかの事、人のあざけりやあらん。行く末難なくしたためまうけて」、
しかしか=副詞、これこれ、こうこう
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
行く末=名詞、将来、未来、行く先。 ※対義語は「来し方(きしかた)」で、意味は「過去、過ぎ去った時」
したためまうけ=カ行下二段動詞「したためまうく」の連用形、整理して準備をする、きちんと用意をする
認む(したたむ)=マ行下二段動詞、整理する、きちんとまとめる。治める、支配する。
まうく(設く/儲く)=カ行下二段動詞の連用形、準備をする、用意をする
「これこれの事は、人から軽蔑して笑われるだろう。将来何事も問題がないようにきちんと用意して(から出家しよう)」、
「年ごろもあれば こそ あれ、
年ごろ=名詞、長年、数年間、長い間
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
あれ=ラ変動詞「あり」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
「長年(出家せずに)過ごしてきたのだから、
その事待たん、程あらじ。物騒がしからぬ やうに」
ん=仮定の助動詞「む」の連体形が音便化したもの。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。訳:「(もし)待ったとしても、時間はかかるまい。」
じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形
その事を待ったとしても、時間はかからないだろう。あわてて騒がしくならないように(出家しよう。)」
など思はんには、え さら ぬ事のみいとど重なりて、
ん=婉曲の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。
訳:「思う(ような)場合には、」
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
さら=ラ行四段動詞「避る(さる)」の未然形、避ける、よける、断る、辞退する。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに
などと思うような場合には、避けられない用事ばかりがますます積み重なって、
事の尽くる限りもなく、思ひ立つ日もあるべから ず。
べから=当然の助動詞「べし」の未然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
用事が尽きる際限もなく、(出家を)実行に移す日もあるはずがない。
おほやう、人を見るに、少し心ある 際は、皆、このあらましにてぞ 一期は過ぐめる。
「心(名詞)/ある(ラ変動詞の連体形)」
心あり=物の道理が分かる。趣や風情がある。思いやりがある。情趣を解する。思うところがある。
際(きわ)=名詞、家柄・身分。端。時・場合。境目。
あらまし=名詞、予定、計画。希望、期待。概要、だいたいのこと
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
一期(いちご)=名詞、人の一生
める=推定の助動詞「めり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
だいたい、世間の人を見ると、少し物の道理が分かる程度の人は、みんな、この予定で、一生が過ぎてしまうようだ。
近き火などに逃ぐる人は、「しばし。」とや 言ふ。
や=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。
近くの火事などから逃げる人は、「もうしばらく待ってくれ。」などと言うだろうか。(いや、言わないだろう。)
身を助けんとすれば、恥をも顧みず、財をも捨てて逃れ去るぞ かし。
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
ぞ=強調の係助詞
かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。
自分の身を助けようとするから、恥をも気にせず、財産も捨てて逃げ去るのだよ。
命は人を待つものかは。
か=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。
命は人を待ってくれるだろうか。(いや、待ってはくれない。)
無常の来たる事は、水火の攻むるよりも速かに、遁れ難きものを、
無常=名詞、すべてのものが生滅・変化して、永久不変ではないということ。死。
ものを=逆接の接続助動詞、接続は連体形。「もの」がつく接続助詞はほぼ逆接、たまに順接・詠嘆の時がある
死がやって来ることは、火や水が攻めてくるのよりも速く、逃れがたいものであるのに、
その時、老いたる親、いときなき子、君の恩、人の情、捨て難しとて、捨てざら ん や。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
いときなき=ク活用の形容詞「幼きなし(いときなし)」の連体形、おさない、あどけない、年少である。 「いとけなし」と同じ意味である。
情(なさけ)=名詞、人情、思いやりの気持ち。趣、風流を理解する心、風流な心。男女の情愛、恋愛、情事。
ざら=打消の助動詞「ず」の未然形、接続は未然形
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
や=反語の係助詞
その時には、老いている親、幼い子、主君の恩、人の情け、といったものを捨てにくいからといって、捨てないだろうか。(いや、捨ててしまうだろう。)
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