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『人虎伝』(4)原文・書き下し文・現代語訳

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

まとめはこちら『人虎伝』まとめ

 

又曰ハク、「我()君真忘形()(なり)

(また)()はく(われ)(きみ)(しん)(ぼう)(かたち)(とも)なり。

(虎が)さらに言うことには、「私と君とは本当に外形にとらわれず心で結ばれた友である。

 

 

シテ(まさ/す)ラントスル、可ナラン()。」

(しか)して(われ)(まさ)(たく)する(ところ)()らんとす。()ならんか」と。

※将=再読文字、「将(まさ)に~んとす」、「~しようとする・~するつもりだ」

そして私は君に頼みたい事がある。よいだろうか。」と。

 

 

傪曰ハク、「平昔故人、安クンゾラン()ルコトナラ()

(さん)()はく(へい)(せき)()(じん)(いず)くんぞ()ならざること()らんや。

※「安クンゾ ~ (セ)ン(ヤ)」=反語、「(いづ)くんぞ ~(せ)ん(や)」、「どうして ~(する)だろうか。(いや、~ない)」

傪は言った、「以前からの旧友だ、どうして断ることがあろうか。

 

 

ムラクハ(いま/ず)-ナルカヲ

(うら)むらくは(いま)何如(いかん)(こと)なるかを()らず。

※「(いま/ず) ~ (セ)」=再読文字、「未だ ~(せ)ず」、「まだ ~(し)ない」

 

残念なことには、(君が頼みたい事というのが)まだ何の事か分からない。

 

 

ハクハヘヨト。」

(ねが)はくは(ことごと)(これ)(おし)へよ」と。

※「願ハクハ ~(セヨ)」=願望、「どうか ~させてください/どうか ~してください」

どうか全部それを教えてくれ。」と。

 

 

虎曰ハク、「君()ンバ、我何ヘテハン

(とら)()はく(きみ)(われ)(ゆる)さずんば、(われ)(なん)()へて()はん。

※「何 ~ (セ)ン(ヤ)」=反語、「何ぞ ~(せ)ん(や)」、「どうして ~(する)だろうか。(いや、~ない)」

虎が言うことには、「君が引き受けてくれなければ、私はどうして無理に言うことができようか。(いや、できまい。)

 

 

君既サバ、豈ランスコト()

(きみ)(すで)(われ)(ゆる)さば、()(かく)こと()らんや

※「豈 ~ (セ)ンや(哉・乎・耶)」=反語、「豈に ~ (せ)んや」、「どうして ~ だろうか。(いや、~ない。)」

君が今引き受けてくれるならば、どうして隠すことがあろうか。(いや、隠さず話そう。)

 

 

妻孥尚ラン虢略。豈ラン我化シテルヲ異類()

()(さい)()()(かく)(りゃく)()らん()(われ)()して()(るい)()るを()らんや。

※「豈 ~ (セ)ンや(哉・乎・耶)」=反語、「豈に ~ (せ)んや」、「どうして ~ だろうか。(いや、~ない。)」

私の妻子はまだ虢略にいるだろう。どうして私が獣になっってしまったことなど知っているだろうか。(いや、知るまい。)



()南回ラバ、為シテ、訪妻子

(きみ)(みなみ)より(かえ)らば、(ため)(しょ)(もたら)して、()(さい)()()へ。

 

君が南方から帰ったならば、手紙を持って行って、私の妻子を訪ねてくれ。

 

 

我已セリト、無カレフコト今日。志セト。」

()(われ)(すで)()せりと()ひ、(こん)(にち)(こと)()ふこと()かれ。(これ)(しる)せ。」と。

※「無カレスル(コト)」=禁止、「Aしてはならない」

私はもう死んでしまったとだけ言って、京のことは言わないでくれ。そのことは決して忘れてくれるなよ。」と。

 

 

ハク、「吾於イテ、且資業

(すなわ)()はく、「(われ)(ひと)()()ひて、()()(ぎょう)()し。

 

さらに言うことには、「私は人間の世界にいた時、財産がなかった。

 

 

ルモ子尚、固ヨリ。君位列周行、素ヨリ風義

()()るも()(おさな)く、(もと)より(みずか)(はか)(がた)し。(きみ)(くらい)(しゅう)(こう)(れっ)し、(もと)より(ふう)()()る。

 

子供がいるけれどもまだ幼く、言うまでもなく自分の力で生活するのは難しい。君は高官の地位にあり、普段から立派なふるまいをしている。

 

 

昔日()分、豈他人能ラン()。必フニ孤弱

(せき)(じつ)(ぶん)()()(にん)()(まさ)らんや。(かなら)()()(じゃく)(おも)(のぞ)む。

※「豈 ~ (セ)ンや(哉・乎・耶)」=反語、「豈に ~ (せ)んや」、「どうして ~ だろうか。(いや、~ない。)」

昔からの仲で、どうして(君よりも)他の人間がまされることがあろうか。(いや、君の右に出る人間はいない。)是非ともその父親のいない幼子を心にかけてほしい。

 

 

-、無クンバ使ムルコト-於道途、亦()ナルナリト。」

(とき)(これ)(しん)(じゅつ)し、(どう)()()()せしむること()くんば、()(おん)(だい)なる(もの)なり。」と。

※使=使役「使ヲシテ(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」  ※於=置き字(場所)

時にはこの困窮している子を憐れんで救い、道端に飢えて死ぬことがないようにしてくれたならば、これもまた大きな恩義のだ。」と。

 

 

ハリテ、又悲泣

()()はりて、(また)()(きゅう)す。

 

言い終わると、(虎は)また悲しそうに泣いた。



キテハク、「傪()足下休戚同焉。然ラバ足下(なり)

(さん)()()きて()はく、「(さん)(そっ)()とは(きゅう)(せき)(おな)じ。(しか)らば(すなわ)(そっ)()()()(さん)()なり。

※焉=置き字(断定・強調)

傪もまた泣いて言うことには、「私と君とは喜びも悲しみも共にする仲だ。それならば君の子はまた私の子でもある。

 

 

(まさ/べ)ニ/シメテ厚命

(まさ)(つと)めて(こう)(めい)()ふべし。

※当=再読文字、「当(まさ)に~べし」「~すべきである・きっと~のはずだ」

きっと努力して君のねんごろな依頼にそうようにしよう。

 

 

又何レン()一レルヲ()。」

(また)(なん)()(いた)らざると(おそれ)れんや。」と。

※「何 ~ (セ)ン(ヤ)」=反語、「何ぞ ~(せ)ん(や)」、「どうして ~(する)だろうか。(いや、~ない)」

この上どうして私がいいかげんにすることを心配することがあろうか。(いや、心配はない。)」と。

 

 

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 『人虎伝』まとめ

 

 

 

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