「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら宇治拾遺物語『歌詠みて罪を許さるること』問題
今は昔、大隅守①なる人、国の政を②したため行ひたまふ間、郡司の③しどけなかりければ、「④召しにやりて、いましめむ。」といひて、さきざきのやうにしどけなきことありけるには、罪にまかせて、重く軽くいましむ⑤ることありければ、一度にあらず、たびたび、しどけなきことあれば、重くいましめ⑥むとて、⑦召すなりけり。
「ここに召して、率て参りたり。」と、人の申しければ、さきざきするやうに、し伏せて、尻、頭にのぼりゐたる人、しもとをまうけて、打つべき人まうけて、さきに、人二人引き張りて、出で来⑧たるを見れば、頭は黒髪もまじらず、いと白く、年老いたり。見るに、打ぜ⑨むこと⑩いとほしくおぼえければ、⑪何事につけてか、これをゆるさむと思ふに、事つくべきことなし。
あやまちどもを、片端より問ふに、⑫ただ老いを高家にて、いらへをる。いかにして、これをゆるさ⑬むと思って、「おのれはいみじき盗人かな。⑭歌よみてむや。」といへば、「⑮はかばかしからずさぶらへども、⑯詠みさぶらひなむ。」と申しければ、「⑰さらばつかまつれ。」と言は⑱れて、ほどもなく、わななき声にて、うち出だす。
年を経て かしらの雪は 積もれども しもと見るにぞ 身は冷えにける
と言ひければ、⑲いみじうあはれがりて、感じて許しけり。⑳人はいかにも情けはあるべし。
問題1.②したため行ふ、③しどけなし、⑩いとほし、⑰さらば、のここでの意味を答えよ。(※終止形で表記してある用言については、終止形のものとして意味を考えよ。)
②執り行う・治める
したため行ひ=ハ行四段動詞の連用形、(政治・政務)を執り行う、治める、支配する、
したたむ=マ行下二段動詞、きちんと~する。きちんと整える、準備をする。
③だらしがない
しどけなかり=ク活用の形容詞「しどけなし」の連用形、乱れている、だらしがない
⑩かわいそうだ、気の毒だ、不憫だ
いとほしく=シク活用の形容詞「いとほし」の連用形、かわいそうだ、気の毒だ、不憫だ
⑰それならば
問題2.①なる、⑤る、⑥む、⑧たる、⑨む、⑬む、⑱れ、の文法的説明として、次の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。(注:意味だけ書かれているものは全て助動詞である)
ア.受身 イ.尊敬 ウ.自発 エ.可能 オ.過去 カ.完了 キ.断定 ク.存在 ケ.打消 コ.推量 サ.意志 セ.勧誘 ソ.婉曲 タ.動詞の一部
①キ.断定
なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形
⑤タ.動詞の一部
いましむる=マ行下二段動詞「いましむ」の連体形、罰する。
⑥サ.意志
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。
⑧カ.完了
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。
⑨ソ.婉曲
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」も、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、先程とは異なり文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。あとは文脈判断であるが、直後に体言が来ると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。訳:「むちで打つ(ような)こと」
⑬サ.意志
む=意志の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。
⑱ア.受身
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
問題3.「⑦召すなりけり」、「⑭よみてむ」、「⑯詠みさぶらひなむ」、を例にならって品詞分解し、説明せよ。
例:「聞 き/し/歌。」
聞き=動詞・四段・連用形
し=助動詞・過去・連体形
歌=体言
⑦品詞分解:「召 す/な り/け り」
召す=動詞・四段・連体形
なり=助動詞・断定・連用形
けり=助動詞・過去・終止形
召す=サ行四段動詞「召す」の連体形、直後に接続が体言・連体形となる助動詞「なり」が来ているため連体形である。
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
⑭品詞分解:「よ み/て/む」
よみ=動詞・四段・連用形
て=助動詞・強意・未然形
む=助動詞・推量・終止形
て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・けむ・らむ」が来るときには「強意」の意味となる
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
⑯品詞分解:「詠 み/さ ぶ ら ひ/な/む」
詠み=動詞・四段・連用形
さぶらひ=動詞・四段・連用形
な=助動詞・強意・未然形
む=助動詞・意志・終止形
さぶらひ=補助動詞ハ行四段「さぶらふ」の連用形、丁寧語。聞き手である大隅守を敬っている。
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・けむ・らむ」が来るときには「強意」の意味となる
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
問題4.「④召しにやりて、いましめむ」、「⑪何事につけてか、これをゆるさむと思ふに、事つくべきことなし」、「⑫ただ老いを高家にて、いらへをる」、「⑭歌よみてむや」、「⑮はかばかしからずさぶらへども」、「⑯詠みさぶらひなむ」、「⑲いみじうあはれがりて、感じて許しけり」、「⑳人はいかにも情けはあるべし」、の現代語訳を答えよ。
④呼びに使いをやって、罰しよう
召し=サ行四段動詞「召す」の連用形、尊敬語、呼び寄せる
やり=ラ行四段動詞「やる」の連用形、(人などを)送る、派遣する
いましめ=マ行下二動詞「いましむ」の連用形、罰する。「いましむる」は連体形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。
⑪何かに理由をつけて、この者(郡司)を許してやろうかと思うのだが、口実にできることがない
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
む=意志の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。
事つく=カ行下二動詞「事つく」の終止形、かこつける、口実にする
べき=可能の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
⑫ただ老齢を口実にして答えている
高家=名詞、頼みにする権威、よりどころ。格式高い家、権勢のある家。
いらへ=ハ行下二段動詞「答ふ/応ふ(いらふ)」の連用形、答える、返事をする
をる=補助動詞ラ変「をり」の連体形。動作・状態の存続を表す、「~ている」
⑭歌は詠めるのか
て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・けむ・らむ」が来るときには「強意」の意味となる
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
や=疑問の終助詞。もしかしたら係助詞かもしれないが、あまり気にしなくてもよい。
⑮たいそうなものではございませんが
はかばかしから=シク活用の形容詞「捗々(はかばか)し」の未然形、思うように物事がはかどる様子、頼もしい、しっかりしている
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
さぶらへ=補助動詞ハ行四段「さぶらふ」の已然形、丁寧語。~です、ます。ございます、あります。聞き手である大隅守を敬っている。
丁寧語:言葉を使った人から使われた人への敬意を表す。会話においての敬意は話から聞き手に対して、地の文においての敬意は作者から読み手に対するものである。
ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。~けれども
⑯お詠みしましょう
さぶらひ=補助動詞ハ行四段「さぶらふ」の連用形、丁寧語。聞き手である大隅守を敬っている。
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・けむ・らむ」が来るときには「強意」の意味となる
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
⑲(大隅守は)たいそう心を動かされ、感心して許した
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても
あはれがり=ラ行四段動詞「あはれがる」の連用形、心を動かされたという意味を表す言葉。感動する、感心する同情する、かなしむ
感じ=サ変動詞「感ず」の連用形、心を動かされる、感動する
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
⑳人には、実に(このような)風流な心があるべきだ
いかにも=どのようにでも、まったく、実に、確かに。「いかに(副詞)/も(係助詞)」
情け=名詞、風流を理解する心、風流な心
べし=当然の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
問題5.「年を経て かしらの雪は 積もれども しもと見るにぞ 身は冷えにける」の和歌における掛詞について説明した文章の空欄を埋めよ。また、この和歌の現代語訳を答えよ。
【 しもと 】が掛詞になっており、【 笞(しもと) 】と【 霜と 】の二つの意味に掛けられている。
しもと見る=掛詞、「霜と見る(霜を見る)」と「笞見る(笞を見る)」が掛けられている。いずれもラ行下二。掛詞は基本的にひらがなで書かれている。漢字にしてしまうと読み手が一つの意味だけでとらえてしまうから。例外有り。
※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。
掛詞の見つけ方(あくまで参考に、いずれも必ずではありません。)
①ひらがなの部分
②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語
③地名などの固有名詞
現代語訳:年をとって私の頭は雪が積もったように白くなりましたが、むち(しもと)を見ると体がぞっとしてしまいます。