「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら宇治拾遺物語『絵仏師良秀』問題(用言・単語など)
これも今は昔、絵仏師良秀といふ①ありけり。家の隣より火②出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて大路へ出でにけり。人の書かする仏も③おはしけり。また衣④着ぬ妻子なども、⑤さながら内にありけり。
それも知らず、ただ逃げ出でたるを事にして、向かひのつらに⑥立てり。⑦見れば、すでに我が家に移りて、煙、炎くゆりけるまで、⑧おほかた向かひのつらに⑨立ちて眺めければ、「あさましき事。」とて、人ども9.5来とぶらひけれど、騒がず。「いかに。」と人いひければ、向かひに立ちて、家の⑩焼くるを見て、うちうなづきて、時々⑪笑ひけり。
「あはれ、⑫しつる⑬せうとくかな。年ごろはわろく書きけるものかな。」といふ時に、とぶらひに⑭来たる者ども、「こはいかに、かくては立ち⑮給へるぞ。⑯あさましき事かな。物の憑き⑰給へるか。」といひければ、「⑱なんでふものの憑くべきぞ。⑲年ごろ不動尊の火炎を悪しく書きけるなり。今見れば、かうこそ燃え⑳けれと、㉑心得つるなり。これこそせうとくよ。この道を㉒立てて世にあらむには、仏だによく書き㉓奉らば、百千の家も出で㉔来なむ。㉕わたうたちこそ、㉖させる能も㉗おはせねば、物をも惜しみ㉘給へ。」といひて、あざ笑ひてこそ立てり㉙けれ。その後にや、良秀がよぢり不動とて、今に人々㉚愛で合へり。
問題1.⑬せうとく、⑱なんでふ、を音読する場合にどのように読むかをひらがなで答えよ。
⑬しょうとく
⑱なんじょう
問題2.③おはす、⑤さながら、⑧おほかた、⑬せうとく、⑯あさまし、⑱なんでふ、⑲年ごろ、㉕わたう、㉖させる、㉚愛で合ふ、のここでの意味を答えよ。(※左記の用言は終止形で表記してある。終止形のものとして意味を考えよ。)
③あおりになる・いらっしゃる・おられる
おはし=サ変動詞「おはす」の連用形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。仏(の絵)を敬っている
⑤そのまま
さながら=副詞、そのまま、もとのまま。すべて、全部
⑧だいたい・およそ
おほかた=副詞、だいたい、およそ。一般に
⑬得をすること
所得(せうとく)=名詞、得をすること、うまくいくこと
⑯驚きあきれる
あさましき=シク活用の形容詞「あさまし」の連体形、驚きあきれる、意外でびっくりすることだ
⑱どうして
なんでふ=副詞、反語。どうして~か。(いや~ない。)
⑲長年・長年の間
年ごろ=名詞、長年、長年の間
㉕お前
わたう=名詞、(同等か目下の物に対して)おまえ、おまえら
㉖これという・それほどの
させる=連体詞、これという、それほどの
㉚褒め合う
愛で合へ=ハ行四段動詞「愛(め)で合ふ」の已然形、褒め合う
問題3.①あり、②出で来、③おはし、④着、⑥立て、⑦見れ、⑨立ち、9.5来、⑩焼くる、⑪笑ひ、⑫し、⑭来、⑮給へ、⑯あさましき、⑰給へ、⑳けれ、㉑心得、㉒立て、㉓奉ら、㉔来、㉗おはせ、㉘給へ、㉙けれ、㉚愛で合へ、の活用の種類と活用形をそれぞれ答えよ。ただし助動詞については活用形のみで良い。(解答例:㊿ハ行四段活用・連用形)
①ラ行変格活用・連用形
あり=ラ変動詞「あり」の連用形。直後に接続が連用形の助動詞「けり」が来ているため連用形となっている。
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続(直前に置かれる活用形)は連用形
②カ行変格活用・連用形
出で来(いでき)=カ変動詞「出で来(いでく)」の連用形
③サ行変格活用・連用形
おはし=サ変動詞「おはす」の連用形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。仏(の絵)を敬っている
④カ行上一段活用・未然形
着=カ行上一動詞「着る」の未然形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」。直後に接続が未然形の助動詞「ぬ」が来ているため未然形となっている。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
⑥タ行四段活用・已然形
立て=タ行四段動詞「立つ」の已然形。「立つ」は下二段動詞でもあり、その時は「立たせる」と言う意味になる。直後に接続がサ変なら未然形・四段なら已然形の助動詞「り」が来ているため已然形となっている。
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
⑦マ行上一段活用・已然形
見れ=マ行上一動詞「見る」の已然形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」。直後に接続が未然形or已然形の接続助詞「ば」が来ているため已然形となっている。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
⑨タ行四段活用・連用形
立ち=タ行四段動詞「立つ」の連用形。「立つ」は下二段動詞でもあり、その時は「立たせる」というふうに使役の意味が付加される。
9.5 カ行変格活用・連用形
来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形。直後に用言(とぶらひ)がきているため連用形(用言に連なる形)になっているので、「き」と読む
⑩カ行下二段活用・連体形
焼くる=カ行下二段動詞「焼く」の連体形。直後に体言が省略されているため連体形となっている。
⑪ハ行四段活用・連用形
⑫サ行変格活用・連用形
し=サ変動詞「す」の連用形、する。直後に接続が連用形の助動詞「つる」が来ているため連用形となっている。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
⑭カ行変格活用・連用形
来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形。直後に接続が連用形の助動詞「たる」が来ているため連用形となっている。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
⑮ハ行四段活用・已然形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。直後に接続がサ変なら未然形・四段なら已然形の助動詞「り」が来ているため已然形となっている。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
⑯シク活用・連体形
あさましき=シク活用の形容詞「あさまし」の連体形、驚きあきれる、意外でびっくりすることだ。直後に体言が来ているため連体形となっている。
⑰ハ行四段活用・已然形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
⑳已然形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。ここの結びは「けれ」。係り結び。意味は強調なので気にせず「かう燃えけり」と元の形に戻して訳を考えると良い。
けれ=詠嘆の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
㉑ア行下二段活用・連用形
心得(こころえ)=ア行下二段動詞「心得(こころう)」の連用形。心得る、(事情などを)理解する。ア行下二段動詞は「得・心得・所得」だけのはずなので覚えておいた方がよい。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
㉒タ行下二段活用・連用形
立て=タ行下二段動詞「立つ」の連用形。下二段活用なので「立たせる・立てる」といった使役の意味が含まれている。
㉓ラ行四段活用・未然形
奉ら=補助動詞ラ行四段「奉(たてまつ)る」未然形、謙譲語。~し申し上げる。直後に接続が未然形or已然形の接続助詞「ば」が来ているため未然形となっている。
ば=接続助詞、直前に未然形が来ているため④仮定条件「もし~ならば」。直前が已然形だと①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれか。直前が未然形なら④仮定条件「もし~ならば」である。
㉔カ行変格活用・連用形
来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形。直後に接続が連用形の助動詞「な」が来ているため連用形となっている。
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
㉗サ行変格活用・未然形
おはせ=サ変動詞「おはす」の未然形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
㉘ハ行四段活用・已然形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形。尊敬語。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
㉙已然形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
㉚ハ行四段活用・已然形
愛で合へ=ハ行四段動詞「愛(め)で合ふ」の已然形、褒め合う
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形