青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
魏武常ニ云フ、「我ガ眠中ニ不レ可二カラ妄リニ近一ヅク。
魏武常に云ふ、「我が眠中に妄りに近づくべからず。
※「不レ可二カラ ~一(ス)」=不可能、「 ~(す)べからず」、「(状況から見て) ~できない。/ ~してはならない。(禁止)」
魏の武帝は常に言っていた、「私が寝ている最中に、むやみに近づいてはいけない。
近ヅケバ便チ斫レルモ人ヲ、亦不二自ラ覚一エ。左右宜二シク/シト深ク慎一レム此ヲ。」
近づかば便ち人を斫るも、亦自ら覚えず。左右宜しく深く此を慎むべし。」と。
※宜=再読文字、「宜二シク/ベシ ~一(ス)」、「宜(よろ)しく ~(す)べし」、「 ~するのがよい」
もし近づけば、すぐにその人を斬ってしまっても、自分では覚えていないのだ。側近の者たちは、十分この事には注意しておきなさい。」と。
後陽リテ眠ルニ、所レノ幸スル一人窃カニ以レツテ被ヲ覆レフ之ヲ。
後陽りて眠るに、幸する所の一人窃かに被を以て之を覆ふ。
その後、(武帝が)眠っているふりをしていると、寵愛を受けている者の一人がそっと布団を武帝にかけた。
因リテ便チ斫殺ス。
因りて便ち斫殺す。
そこで、すぐさま斬り殺してしまった。
自レリ爾ル毎レニ眠ル、左右莫二シ敢ヘテ近ヅク者一。
爾るより眠る毎に、左右敢へて近づく者莫し。
※敢=「無理に ~する、しいて ~する」
それ以降、武帝が眠るたびに、側近の者たちの中で進んで近づこうとする者はいなかった。