青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
晏子為二リシトキ斉ノ相一。出ヅルニ、其ノ御之妻、従二リシテ門間一而闚二フ其ノ夫一ヲ。
晏子斉の相たりしとき出づ。其の御の妻、門間よりして其の夫を闚ふ。
※御=御者、馬車に乗って馬を操る人
晏子が斉の国の宰相であった時、出かけた。その(晏子の)御者の妻が、門の隙間から自分の夫の様子をうかがっていた。
其ノ夫為二リ相ノ御一ト、擁二シ大蓋一ヲ、策二ウチ駟馬一ニ、意気揚揚トシテ、甚ダ自得スル也。
其の夫相の御と為り、大蓋を擁し、駟馬に策うち、意気揚揚として、甚だ自得するなり。
その夫は宰相(=晏子)の御者となり、馬車の大きな傘のそばに座り、四頭立ての(貴人が載るような)馬車にムチをうって、意気揚々として、非常に得意そうであった。
既ニシテ而帰ル。其ノ妻請レフ去ランコトヲ。夫問二フ其ノ故一ヲ。
既にして帰る。其の妻去らんことを請ふ。夫其の故を問ふ。
※而=置き字(順接・逆接)
やがて(御者の夫が)帰って来た。その妻は(夫に)家を出て行きたいと願い出た。夫はその理由を尋ねた。
妻曰ハク、「晏子ハ長不レルニ満二タ六尺一ニ、身ハ相二トシテ斉国一ニ、名ハ顕二ル諸侯一ニ。
妻曰はく、「晏子は長六尺に満たざるに、身は斉国に相として、名は諸侯に顕る。
妻が言うことには、「晏子様は身長が六尺に満たないのに、その身は斉の国の宰相として、その名は諸侯に知れ渡っています。
今者、妾観二ルニ其ノ出一ヅルヲ、志念深シ矣。常ニ有二リ以ツテ自ラ下ル者一。
今者、妾其の出づるを観るに、志念深し。常に以つて自ら下る者有り。
※矣=置き字(断定・強調)
今、私があの方がお出かけになるを拝見したところ、思慮深そうなご様子でした。いつも自らへりくだっている態度でいらっしゃいます。
今、子ハ長八尺ナルニ、乃チ為二リ人ノ僕御一。然ルニ子之意、自ラ以ツテ為レス足レリト。
今、子は長八尺なるに、乃ち人の僕御たり。然るに子の意、自ら以つて足れりと為す。
(ところが)今、あなたは身長が八尺もあるのに、(その身は)人に仕える御者であります。それなのにあなたの心は、このことに満足しておられるようです。
妾是ヲ以ツテ求レムル去ランコトヲ也ト。」
妾是を以つて去らんことを求むるなり。」と。
私はこういうわけで、家を出て行きたいと求めたのです」と。
其ノ後夫自ラ抑損ス。
其の後夫自ら抑損す。
その後、夫は自らひかえめな態度を取るようになった。
晏子怪シミテ而問レフ之ヲ。御以レツテ実ヲ対フ。晏子薦メテ以ツテ為二ス大夫一ト。
晏子怪しみて之を問ふ。御実を以つて対ふ。晏子薦めて以つて大夫と為す。
晏子は不思議に思ってその理由を尋ねた。御者は事実の通りに答えた。晏子は(この御者を)推薦して大夫に取り立てた。