青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
昔者、荘周夢ニ為二ル胡蝶一ト。
昔者、荘周夢に胡蝶と為る。
昔、荘周は夢でチョウになった。
栩栩然トシテ胡蝶也。
栩栩然として胡蝶なり。
ひらひらと飛んでいてチョウそのものであった。
自ラ喩シミ適レヘル志ニ与。不レル知レラ周レナルヲ也。
自ら喩しみ志に適へるかな。周なるを知らざるなり。
(チョウであることを)自分で楽しみ、満足したことだなあ。(自分が)荘周であることに気づかなかった。
俄然トシテ覚ムレバ、則チ遽遽然トシテ周也。
俄然として覚むれば、則ち遽遽然として周なり。
突然目が覚めると、はっと我に返って(自分は紛れもなく)荘周であった。
不レ知ラ、周之夢ニ為二レル胡蝶一ト与、胡蝶之夢ニ為レレル周ト与。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか。
荘周の夢で蝶になったのか、チョウの夢で荘周になったのかわからない。
周ト与二ハ胡蝶一、則チ必ズ有レラン分矣。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。
(しかし、)荘周とチョウとは、必ず区別があるはずだ。
此ヲ之レ謂二フ物化一ト。
此を之れ物化と謂ふ。
このことをまさしく「物化(=万物の変化)」というのである。
※「物化」とは、本質的には一つである物がさまざまに変化すること。万物は変化を繰り返し、自分もチョウもその変化のうちの一つに過ぎず、本来は区別などないと荘子は考えている。おそらく。