(若紫との出会い)
「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『若紫/北山の垣間見』現代語訳(4)
尼君、髪をかきなでつつ、「けづることをうるさがり 給へ ど、をかしの御髪や。
つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは③並行「~しながら」の意味。
けづる=ラ行四段動詞「梳る(けづる)」の連体形、くしで髪をとかす
うるさがり=ラ行四段動詞「うるさがる」の連用形、嫌がる。わずらわしがる、面倒がる。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である若紫を敬っている。尼君からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
をかし=シク活用の形容詞「をかし」の語幹、趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。形容詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語
や=間投助詞
尼君は、(若紫の)髪をかきなでながら、「髪をとくことを嫌がりなさるけれど、きれいなお髪ですね。
いとはかなう ものし 給ふ こそ、あはれに 後ろめたけれ。
はかなう=ク活用の形容詞「はかなし」の連用形が音便化したもの、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした
ものし=サ変動詞「物す(ものす)」の連用形、代動詞、「~する」といういみがあり、いろいろな動詞の代わりに使う。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である若紫を敬っている。尼君からの敬意。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形、「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある。
うしろめたけれ=ク活用の形容詞「後ろめたし」の已然形、係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。心配だ、気がかりだ、不安だ
たいそう頼りなくていらっしゃるのが、(今後のことを考えると)かわいそうで心配です。
かばかりになれば、いとかから ぬ人もあるものを。
かばかり=副詞、これだけ、これほど、このくらい
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして③の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
かから=ラ変動詞「かかり」の未然形、このような、こういう。ここでは「はかなうものし(=頼りなく)」を指している。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ものを=詠嘆の終助詞
このくらい(の年齢)になると、それほど(幼げ)ではない人もあるのに。
故姫君は、十ばかりにて殿に後れ 給ひ しほど、いみじうものは思ひ知り給へ り し ぞ かし。
後れ=ラ行下二段動詞「後る・遅る(おくる)」の連用形、先立たれる、先に死なれる、生き残る。あとになる、おくれる。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である故姫君(=若紫の母)を敬っている。尼君からの敬意。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの。良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である故姫君(=若紫の母)を敬っている。尼君からの敬意。
り=完了の助動詞「り」の連用形、接続は連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
ぞ=強調の係助詞
かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。
亡くなった(あなたの母である)姫君は、十歳ぐらいで(父の)殿に先立たれなさったころ、たいそう物事をわきまえていらっしゃたのですよ。
ただ今おのれ見捨て奉ら ば、いかで世におはせ むとす らむ。」とて、
奉ら=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の未然形、謙譲語。動作の対象である若紫を敬っている。尼君からの敬意。
ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。
いかで=副詞、(疑問・反語で)どうして、どのようにして、どういうわけで。どうにかして、なんとかして。
おはせ=サ変動詞「おはす」の未然形、「あり」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である薩摩守忠度を敬っている。作者からの敬意。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
す=サ変動詞「す」の終止形、する
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。
たった今私が(あなたを残して先立ち)お見捨て申し上げたならば、(あなたは今後を)どのようにしてこの世に生きていらっしゃろうとするのでしょう。」と言って、
いみじく泣くを見給ふも、すずろに悲し。
いみじく=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意
すずろに=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形、意に反して、意に関係なく。むやみやたらである。何の関係もないさま。
ひどく泣くのを(光源氏が)御覧になるのにつけても、なんとなく悲しい。
幼心地にも、さすがに うちまもりて、伏し目になりてうつぶしたるに、こぼれかかりたる髪、つやつやとめでたう 見ゆ。
さすがに=副詞、そうはいうもののやはり、そうはいってもやはり
うちまもり=ラ行四段動詞「うち守る」の連用形、目を離さずに見る、じっと見つめる。「うち」は接頭語で、「ちょっと、少し」みたいな意味があるが、あまり気にしなくても良い。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。もう一つの「たる」も同様。
めでたう=ク活用の形容詞「めでたし」の連用形が音便化したもの、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる
見ゆ=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の終止形。見える、思われる、感じられる、見られる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
(若紫は)子ども心にも、やはりじっと(尼君を)見つめて、ふしめになってうつむいているところに、垂れかかっている髪は、つやつやと美しく見える。
生ひ立たむ ありかも知らぬ 若草を 後らす露ぞ 消えむ空なき
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。
婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。
在り処(ありか)=名詞、最終的に落ち着くところ、ある未来
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。結びは「なき(ク活用の形容詞「無し」の連体形)」
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。
これから成長していく先もわからない若草(のような子)を、後に残してしまう露(のようにはかない命の私)は、消えようにも消えゆく空がありません。
※縁語…ある言葉と意味上の縁のある言葉。ある言葉から連想できる言葉が縁語。
例:「舟」の縁語は「漕ぐ」「沖」「海」「釣」など
この和歌では「露」の縁語として「若草・消ゆ」が用いられている。また、「生ひ立つ」の縁語として「草」が用いられている。
※比喩表現として、若紫のことを「若草」、尼君を「露」とたとえており、若紫を残して尼君自身が死んでしまったらどうなるだろうかと嘆いている。
またゐ たる大人、「げに。」とうち泣きて、
ゐ=ワ行上一動詞「居る(ゐる)」の連用形。すわる。とまる、とどまる。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。
(と尼君が詠むと、)もう1人いた年配の女房が、「ほんとに。」と泣いて、
初草の 生ひゆく末も 知らぬ間に いかでか露の 消えむとすらむ
生ひゆく末=成長していく将来。先程の「生ひ立たむありか」と同じ。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
いかで=副詞、(疑問・反語で)どうして
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
す=サ変動詞「す」の終止形、する
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び
芽吹き始めたばかりの初草(のような姫君)が成長してゆく将来も知らないうちに、どうして露(のように尼君)は消えようとしているのでしょうか。
と聞こゆるほどに、僧都あなた より来て、
聞こゆる=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連体形、「言ふ」の謙譲語。申し上げる、差し上げる。動作の対象である尼君を敬っている。作者からの敬意。
(彼方)あなた=名詞、あちら。過去。将来。あなた。
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
と申し上げているところに、僧都があちらから来て、
「こなたはあらはに や 侍ら む。
此方(こなた)=名詞、こちら。以後。以前。
あらはに=ナリ活用の形容動詞「露なり・顕なり(あらはなり)」の連用形、まる見えだ、露骨だ。明らかだ、はっきりしている。
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
侍ら=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の未然形、丁寧語。言葉の受け手である尼君を敬っている。僧都からの敬意。
※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
「こちらは(外から)丸見えではありませんか。
今日しも端におはしまし ける かな。
しも=強意の副助詞。訳す際にはあまり気にしなくてもよい。
おはしまし=サ行四段動詞「おはします」の連用形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である尼君を敬っている。敬語を使った作者からの敬意。
ける=詠嘆の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
かな=詠嘆の終助詞
今日に限って端においでになったことですね。
この上の聖の方に、源氏の中将の、瘧病まじなひにものし 給ひ けるを、ただ今なむ聞きつけ侍る。
ものし=サ変動詞「ものす」の連用形、ある、いる、行く、来る、生まれる、などいろいろな意味がある。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。僧都からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
侍る=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連体形、丁寧語。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。言葉の受け手である尼君を敬っている。僧都からの敬意。
この上の聖(=高徳な僧)の所に、源氏の中将が、おこりの病のまじないにいらっしゃったことを、たった今聞きつけました。
いみじう 忍び 給ひ けれ ば、知り侍ら で、
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの。良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい
忍び=バ行四段動詞「忍ぶ」の連用形、人目を忍ぶ、目立たない姿になる。我慢する、こらえる。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。僧都からの敬意。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
侍ら=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の未然形、丁寧語。言葉の受け手である尼君を敬っている。僧都からの敬意。
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
たいそう人目を忍んでいらっしゃったので、(私も)知りませんで、
ここに侍り ながら、御とぶらひにもまうで ざり ける。」とのたまへ ば、
侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連用形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である尼君を敬っている。僧都からの敬意。
ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。
①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで
②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」
③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中
御とぶらひ=名詞、お見舞い。
まうで=ダ行下二段動詞「詣づ/参づ(もうづ)」の未然形、「行く」の謙譲語。参る、参上する。お参りする。動作の対象である光源氏を敬っている。僧都からの敬意。
ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。
のたまへ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の已然形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体である僧都を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
ここにおりながら、お見舞いにも参りませんでした。」とおっしゃると、
「あな いみじ や。いとあやしきさまを人や見つ らむ。」とて簾下ろしつ。
あな+形容詞の語幹=感動文「ああ、~」
いみじ=シク活用の形容詞「いみじ」の語幹。良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい
や=詠嘆の間投助詞、詠嘆の意味の他に呼びかけや語調を整える意味などがある。
あやしき=シク活用の形容詞「賤し(あやし)」の連体形、粗末だ、見苦しい。身分が低い。古文では貴族が中心であり貴族にとって庶民は別世界のあやしい者に見えたことから派生。
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
つ=完了の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。直後に推量系統の助動詞が来るときには「強意」の意味となることがほとんどだが、ここは文脈的に「完了」の意味。
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。
つ=完了の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形
「まあ大変なことだわ。たいそう見苦しい様子を、だれか見てしまったでしょうか。」と(尼君は)言って簾を下してしまった。
「この世にののしり 給ふ光源氏、かかる ついでに見奉り 給は む や。
ののしり=ラ行四段動詞「罵る(ののしる)」の連用形、評判がたつ、噂をする。大声を立てる、お騒ぎする。威勢がいい。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。僧都からの敬意。
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
序(ついで)=名詞、おり、機会。物事の順序、次第。
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である光源氏を敬っている。僧都からの敬意。
給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である尼君を敬っている。僧都からの敬意。
む=勧誘の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
や=疑問の係助詞
(僧都は)「世間で評判になっていらっしゃる光源氏を、このような機会に見申し上げなさいませんか。
世を捨てたる法師の心地にも、いみじう世の愁へ忘れ、齢伸ぶる人の御ありさまなり。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの。良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
世を捨てた法師の気持ちにも、たいそう世の中のつらいことを忘れ、寿命が延びるような方のご様子である。
いで 御消息 聞こえ む。」とて立つ音すれば、帰り給ひ ぬ。
いで=感動詞、さあ、いざ。どれ。実に、いやもう。
消息(せうそこ・しょうそこ)=名詞、あいさつ、伝言、連絡、便り、手紙。案内を依頼すること、声をかけること。
聞こえ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の未然形、「言ふ」の謙譲語。申し上げる、差し上げる。動作の対象である光源氏を敬っている。僧都からの敬意。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
さあご挨拶を申し上げましょう。」と言って立つ音がするので、(光源氏は)お帰りになった。