「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら風姿花伝『秘すれば花』解説・品詞分解(1)
秘する花を知ること。秘すれば花なり、
秘密にする(ことによって生まれる)花を知ること。秘密にするから「花」であり、
秘せずは花なる べからず、となり。
秘密にしないならば「花」でありえない、ということである
この分け目を知ること、肝要の花なり。
(花になるかどうかという)この分け目を知ることが、「花」についての大切なところである。
そもそも一切の事、諸道芸において、その家々に秘事と申すは、秘するによりて大用あるがゆゑなり。
そもそも全ての事、さまざまな芸道において、そのそれぞれの家に秘事と申し上げるものは、(それを)秘密にすることによって大きな効用があるからである。
しかれば、秘事といふことをあらはせば、させることにてもなきものなり。
だから、秘事ということを明らかにすると、たいしたことでもないものである。
これを、「させることにてもなし。」と言ふ人は、
これを、「大したことでもない。」と言う人は、
いまだ秘事といふことの大用を知らぬがゆゑなり。
まだ秘事ということの大きな効用を知らないからである。
まづ、この花の口伝におきても、ただめづらしきが花ぞと皆知るならば、
まず、この「花」の口伝においても、ただただ珍しいことが「花」なのだと、みんなが知っているのであるならば、
※口伝=名詞。さまざまな芸道において、そのそれぞれの家にある秘事を口頭で弟子などに伝えること。
「さてはめづらしきことあるべし。」と思ひまうけたらん見物衆の前にては、
「それでは珍しいことがあるだろう。」と予期しているような観客たちの前では、
たとひめづらしきことをするとも、見手の心にめづらしき感はあるべからず。
(演者が)たとえ珍しいことをしようとも、観客の心にめずらしいという感動はあるはずがない。
見る人のため花ぞとも知らでこそ、為手の花にはなるべけれ。
観客にとって、「花」なのだと知らないでこそ、演者の「花」になるはずである。
されば、見る人は、ただ思ひのほかにおもしろき上手とばかり見て、これは花ぞとも知らぬが、為手の花なり。
だから、観客は、ただ意外に面白い上手な演者とだけ見て、これは「花」なのだとも知らないのが、演者の花なのである。
さるほどに、人の心に思ひも寄らぬ感を催す手だて、これ花なり。
そういうことだから、人の心に予期していない感動を起こさせる方法、これが花なのである。
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