「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら奥の細道『立石寺』現代語訳
すべて品詞分解されているものはこちら奥の細道『立石寺』品詞分解のみ
山形領に立石寺といふ山寺あり。慈覚大師の開基にして、ことに清閑の地なり。
あり=ラ変動詞「あり」の終止形
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
山形藩の領内に立石寺という山寺がある。慈覚大師が創建なさった寺で、とりわけ清らかで静かな場所である。
一見す べきよし、人々の勧むるによつて、尾花沢よりとつて返し、その間七里ばかりなり。
一見す=サ変動詞「一見す」の終止形。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「心す」、「御覧ず」
べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
よし(由)=名詞、旨、趣旨、事情
勧むる=マ行下二段動詞「勧む」の連体形
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
一度は見ておくのがよいと、人々が勧めるので、尾花沢から引き返し(立石寺へ向かっ)たが、その間は七里ほど(の距離)である。
日いまだ暮れず。ふもとの坊に宿借りおきて、山上の堂に登る。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
坊=名詞、宿坊、寺社に設けられた宿泊所
(寺に到着したが、)日はまだ暮れていない。ふもとの宿坊に宿を借りておいて、山上のお堂に登る。
岩に巌を重ねて山とし、松柏年旧り、土石老いて苔なめらかに、岩上の院々扉を閉ぢて、物の音聞こえ ず。
老い=ヤ行上二段動詞「老ゆ」の連用形。ヤ行上二段活用の動詞は「老ゆ・悔ゆ・報ゆ」の3つだけだと思って、受験対策に覚えておいた方がよい。
聞こえ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の未然形。聞こえる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「聞こゆ」には多くの意味がある。ここでは「可能」の意味。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
岩に岩が積み重なって山となっており、松やひのきなどが年を経て、土や石も古くなって苔が滑らかに覆い、岩上の諸堂はすべて扉を閉めており、物音も聞こえない。
岸をめぐり岩を這ひて、仏閣を拝し、佳景寂寞として心澄みゆくのみおぼゆ。
拝し=サ変動詞「拝す」の連用形。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「心す」、「御覧ず」
おぼゆ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の終止形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われる、感じられる」
がけを回り、岩の上を這うようにして、仏堂を拝んだが、(辺りの)すばらしい景色はひっそりと静まりかえって、ただただ心が澄んでゆくように感じられた。
閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声
や=間投助詞
蝉=季語、夏
実に静かなことだよ。この静けさの中では、蝉の声が岩の中にしみ入ってゆくようである。
辺りはひっそりと静まりかえっている。その静かさの中にただ蝉の声だけが聞こえ、その声は、耳を傾けていると、澄みきって、岩の中にしみ込んでゆくように思われる。