「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら伊勢物語『東下り』(3)問題
なほ行き行きて、武蔵の国と下つ総の国とのなかにいと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。
その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、①かぎりなく遠くも来にけるかな、と②わび合へるに、渡守、「はや船に乗れ、日も暮れ③ぬ。」といふに、乗りて渡ら④むとするに、みな人⑤ものわびしくて、⑥京に思ふ人なきにしもあらず。
⑦さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見え⑧ぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡守に問ひければ、「これなむ都鳥」といふを聞きて、
名に⑨し負はば いざ言問は⑩む 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと
と⑪詠めりければ、船こぞりて⑫泣きにけり。
問題1.②わび合へ、⑤ものわびしく、のここでの意味を答えよ。
②嘆き合う
わび合へ=ハ行四段動詞「侘び合ふ」の已然形、嘆き合う、互いに心細く思う。「侘ぶ(わぶ)」=つらく思う、困る
⑤なんとなく悲しい気持ちになり
(もの)わびしく=シク活用の形容詞「侘びし(わびし)」の連用形、つらい、苦しい、悲しい。情けない、困ったことだ。「もの」は接頭語であり、「なんとなく」と言った意味が加わる。
問題2.③ぬ、④む、⑧ぬ、⑨し、⑩む、の文法的説明として適切な記号を、次の中から一つ選んで答えよ。(※選択肢の「コ・サ・シ・ス」以外は助動詞である。)
ア.推量 イ.意志 ウ.勧誘 エ.仮定 オ.婉曲 カ.打消 キ.完了 ク.強意 ケ.過去 コ.動詞 サ.格助詞 シ.副助詞 ス.動詞の一部
③キ.完了
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
④イ.意志
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
⑧カ.打消
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
⑨シ.副助詞
し=副助詞。強調。
⑩イ.意志
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
問題3.「⑪詠めりけれ」、「⑫泣きにけり」、を例にならって品詞分解し、説明せよ。
例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形
⑪品詞分解:「詠 め/り/け れ」
詠め=動詞・四段・已然形
り=助動詞・完了・連用形
けれ=助動詞・過去・已然形
り=完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
⑫品詞分解:「泣 き/に/け り」
泣き=動詞・四段・連用形
に=助動詞・完了・連用形
けり=助動詞・過去・終止形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
問題4.「①かぎりなく遠くも来にけるかな」、「⑥京に思ふ人なきにしもあらず」、「⑦さる折しも」、の現代語訳を答えよ。
①(都の京から)ずいぶん遠くまで来てしまったなあ
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
かな=詠嘆の終助詞、~だなあ、~であることよ。
⑥京に恋しく思う人がいないわけではない
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
しも=副助詞。強調。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
⑦ちょうどそんな時
さる=連体詞あるいはラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。
しも=副助詞。強調。ここでは「折」を強調して、「ちょうどそんな時」と訳すと良い。あるいは、「そんな時」だけで良い。
問題5.「名にし負はば いざ言(こと)問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」の「ば」における文法的説明として適切な記号を、次の中から一つ選んで答えよ。また、現代語訳を答えよ。
ア.原因・理由
イ.偶然条件
ウ.恒常条件
エ.仮定条件
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであり、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
現代語訳:都という言葉を名に持っているならば、さあ尋ねよう、都鳥よ。私が恋しく思っている人は都で無事でいるかどうかと。