「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら無名草子『清少納言(清少納言と紫式部)』(1)問題
「すべて、余りになり①ぬる人の、そのままにて侍る例、②ありがたきわざにこそ③あめれ。桧垣の子、清少納言は、一条院の位の御時、中関白、世を④しら⑤せ⑥給ひける初め、皇太后宮の⑦時めか⑧せ⑨給ふ盛りに⑩候ひ⑪給ひて、人より優なる者と⑫おぼしめさ⑬れたりけるほどのことどもは、『枕草子』といふものに、自ら書きあらはして侍れば、こまかに申すに及ばず。
歌詠みの方こそ、元輔が娘にて、⑭さばかりなりけるほどよりは、すぐれざりけるとかやとおぼゆる。『後拾遺』などにも、⑮むげに少なう入りて侍る⑯めり。みづからも思ひ知りて、申し請ひて、⑰さやうのことには交じり侍らざりけるにや。⑱さらでは、いと⑲いみじかりけるものにこそあ⑳めれ。
問題1.②ありがたき、④しら、⑦時めか、⑩候ひ、⑮むげに、のここでの意味を答えよ。
②めったにない
ありがたき=ク活用の形容詞「有り難し」の連体形、めったにない、珍しい
④治め
しら=ラ行四段動詞「知る/領る(しる)」の未然形、治める。領有する。知る、認識する。
⑦帝の寵愛を受け
時めか=カ行四段動詞「時めく」の未然形、時流に乗って栄える、もてはやされる。(天皇の)寵愛を受ける。
⑩お仕え
候ひ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連用形、謙譲語。お仕え申し上げる、お仕えする。
※「候(さぶら)ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
⑮ひどく
むげに=ナリ活用の形容動詞「無下なり(むげなり)」の連用形、言いようもなくひどい、どうしようもない
問題2.①ぬる、⑤せ、⑧せ、⑬れ、⑯めり、⑳めれ、の文法的説明として、次の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.過去 イ.完了 ウ.打消 エ.強意 オ.尊敬 カ.使役 キ.受身 ク.自発 ケ.可能 コ.推定 サ.婉曲 シ.存続
①イ.完了
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形
⑤オ.尊敬
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ひ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中の関白を敬っている。話し手からの敬意。
⑧オ.尊敬
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である皇太后宮(=中宮定子)を敬っている。話し手からの敬意。
⑬キ.受身
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
⑯サ.婉曲
めり=婉曲の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。
⑳コ.推定
めれ=推定の助動詞「めり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
問題3.⑥給ひ、⑨給ふ、⑩候ひ、⑪給ひ、⑫おぼしめさ、の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のどれか)と誰に対する敬意かを答えなさい。【解答例;㊿参る:謙譲語・清少納言】(謙譲語であり、清少納言に対する敬意が払われているということ)
⑥尊敬語・中の関白
⑨尊敬語・皇太后宮(=中宮定子)
⑩謙譲語・皇太后宮(=中宮定子)
候ひ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連用形、謙譲語。お仕え申し上げる、お仕えする。動作の対象である皇太后宮(=中宮定子)を敬っている。話し手からの敬意。
⑪尊敬語・清少納言
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である清少納言を敬っている。話し手からの敬意。
⑫尊敬語・皇太后宮(=中宮定子)
おぼしめさ=サ行四段動詞「思し召す(おぼしめす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である皇太后宮(=中宮定子)を敬っている。
問題4.「③あめれ」を例にならって品詞分解し、説明せよ。
例:「い は/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
ず=助動詞・打消・終止形
③品詞分解:「あ/め れ」
あ=動詞・ラ変・連体形
めれ=助動詞・推定・已然形
あ=ラ変動詞「あり」の連体形が音便化して無表記になったもの、「ある」→「あん(音便化)」→「あ(無表記化)」
めれ=推定の助動詞「めり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
問題5.「⑲いみじかり」において、何が「いみじかり」であったのか、「いみじかり」の意味も明らかにして説明しなさい。
答え:後拾遺(和歌集)に入集された和歌がひどく少なかったということ
いみじかり=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても
問題6.「⑭さばかりなりけるほどよりは、すぐれざりけるとかやとおぼゆる」、「⑰さやうのことには交じり侍らざりけるにや」、「⑱さらでは」、の現代語訳を答えよ。
⑭それほど(優れた歌人の娘)であったにしては、優れていなかったのかと思われます
さばかり=副詞、それほど、そのくらい。それほどまでに。「さ」と「ばかり」がくっついたもの。「さ」は副詞で、「そう、そのように」などの意味がある。
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。
おぼゆる=ヤ行下二段動詞「思ゆ(おぼゆ)」の連体形。係助詞「か」・「や」のどちらかを受けて連体形となっている。係り結び。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」
⑰そのような(和歌に関する)ことには関わらなかったのでしょうか。
さやう=ナリ活用の形容動詞「さやうなり」の語幹。そのよう、その通りだ。形容動詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語
侍ら=補助動詞ラ変「侍り」の連体形、丁寧語。言葉の受け手である聞き手を敬っている。話し手からの敬意。
や=疑問の係助詞
⑱そうでなくては
さら=ラ変動詞「然り(さり)」の未然形、そうである
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
無名草子『清少納言(清少納言と紫式部)』(1)解説・品詞分解