「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら伊勢物語『東下り』(2)問題
ゆきゆきて駿河の国にいたり①ぬ。宇津の山にいたりて、わが入ら②むとする道は、いと暗う細きに、蔦、かへでは茂り、もの心細く、③すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。「かかる道は、④いかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人⑤なり⑥けり。京に、その人の御もとにとて、文かきてつく。
駿河⑦なる うつの山辺の うつつにも 夢にも人に あは⑧ぬ⑨なり⑩けり
富士の山を見れば、五月の⑪つごもりに、雪いと白う降れ⑫り。
時知ら⑬ぬ 山は富士の嶺 いつとてか 鹿の子まだらに 雪のふる⑭らむ
その山は、⑮ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ね⑯あげたらむほどして、⑰なりは塩尻のやうになむありける。
問題1.③すずろなる、⑪つごもり、のここでの意味を答えよ。
③思いがけない(つらい)
すずろなる=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連体形、意に反して、意に関係なく。むやみやたらである。何の関係もないさま
⑪末ごろ、下旬、末日
つごもり=名詞、末ごろ、月の下旬・最終日。晦日(つごもり)。対義語は「朔日(ついたち)」
ついたち=名詞、月の初め、上旬。月の一日目。朔日(ついたち)
問題2.①ぬ、②む、⑤なり、⑥けり、⑦なる、⑧ぬ、⑨なり、⑩けり、⑫り、⑬ぬ、⑭らむ、の文法的説明として適切な記号を、次の中から一つ選んで答えよ。
ア.推量 イ.意志 ウ.勧誘 エ.仮定 オ.婉曲 カ.過去 キ.詠嘆 ク.完了 ケ.強意 コ.存続 サ.打消 シ.断定 ス.存在 セ.現在推量 ソ.現在の伝聞
①ク.完了
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
②イ.意志
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
⑤シ.断定
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
⑥キ.詠嘆
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
⑦ス.存在
なる=存在の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形。「なり」は直前が名詞である時、断定の意味になることが多いが、その名詞が場所を表すものであれば今回のように「存在」の意味となる。
⑧サ.打消
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
⑨シ.断定
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
⑩キ.詠嘆
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
⑫コ.存続
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
⑬サ.打消
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
⑭セ.現在推量
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。
問題3.「⑮ここ」とは、どこを指しているか答えなさい。
⑮京の都
問題4.「⑯あげたらむ」、を例にならって品詞分解し、説明せよ。
例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形
⑯品詞分解:「あ げ/た ら/む」
あげ=動詞・下二段・連用形
たら=助動詞・完了・未然形
む=助動詞・婉曲・連体形
たら=完了の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。
訳:「積み重ねた(ような)ほどの高さで」
問題5.「④いかでかいまする」、「⑰なりは塩尻のやうになむありける」、の現代語訳をせよ。
④どうしていらっしゃるのですか
いかで=副詞、(反語で)どうして
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
いまする=サ変動詞「います」の連体形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。いらっしゃる、おいでになる。「あり・居り・来・行く」の尊敬語である。動作の主体である男を敬っている。修行者からの敬意。
⑰形は塩尻のようであった
なり=名詞、形、姿
やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。
問題6.「駿河なる うつの山辺の うつつにも 夢にも人に あはぬなりけり」の和歌における序詞を抜き出しなさい。また、現代語訳を答えよ。
序詞:駿河なるうつの山辺の
※序詞…ある語句を導き出すために前置きとして述べることば
駿河なるうつの山辺の(一句・二句)=「うつつ」を導き出す序詞。序詞は前置きなので、作者の言いたいことは三句以降の部分である。たいてい序詞の最後は「~のように」と訳す。
序詞を探すときのポイント(あくまで参考)。
①掛詞の直前
例:春日野の/若紫の/すりごろも(ここまでが序詞)/しのぶの乱れ/かぎりしられず(しのぶ=掛詞、しのぶずりの「しのぶ」と恋い偲ぶ「偲ぶ」が掛けられている。)
②句の末尾が「の」
例:あしびきの/山鳥の尾の/しだり尾の(ここまでが序詞)/ながながし夜を/ひとりかも寝む
③同じ言葉が繰り返して使われている部分
例:多摩川に/さらす手作り(ここまでが序詞)/さらさらに/なにぞこの児(こ)の/ここだかなしき
現代語訳:駿河の国にある宇津の山辺に来ましたが、「うつ」と言うと、現(=現実)にも夢にも恋しいあなたに会わないことだよ。
うつつ=名詞、現実、現世。生きている状態、目が覚めている状態。地名の「宇津」と「現」を掛けている。一つの語に二つ以上の意味が込められているわけではないので、掛詞ではない。
問題7.「時知らぬ 山は富士の嶺 いつとてか 鹿の子まだらに 雪のふるらむ」の現代語訳を答えよ。
現代語訳:時節をわきまえない山は、富士の嶺だ。今をいつと思って、鹿の子模様のまだらのように雪が降っているのだろうか。