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伊勢物語『東下り』(1)問題の解答

「青字=解答」「※赤字=注意書き、解説等」

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むかし、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、「京にはあら。あづまの方に住むべき求めに。」とてゆきけり。もとより友とする人、ひとりふたりしていきけり。道知れ人もなくて、まどひいきけり。

 

三河の国八橋といふ所にいたり。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せによりてなむ、八橋といひける。その沢のほとりの木の陰におりて、乾飯食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばた、といふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心を詠め。」といひければ、よめる。

 

からごろも  きつつなれにし  つましあれば  はるばるきぬる  たびをしぞ思ふ

 

詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり

 

 

問題1.①えうなき、⑩おもしろく、のここでの意味を答えよ。

 

役に立たない

えうなき=ク活用の形容詞「要(えう)なし」の連体形、必要がない、役に立たない

趣深く・美しく

おもしろく=ク活用の形容詞「面白し」の連用形、趣き深い、美しい。興味深い

 

 

問題2.④求め、⑨ゐ、⑪据ゑ、の活用の種類を答えよ。

 

解答例:㊵カ行変格活用

 

マ行下二段活用

もとめ=マ行下二動詞「求む」の連用形、探す、欲しいと願う、買う

ワ行上一段活用

ゐ=ワ行上一動詞「居(ゐ)る」の連用形。すわる。とまる、とどまる。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。

ワ行下二段活用

据(す)ゑ=ワ行下二段活用の動詞「据う」の連用形。置く。ワ行下二段の動詞は「植う(うう)」「飢う(うう)」「据う(すう)」の3つのみなので、覚えた方がよい。

 

 

問題3.②じ、③べき、⑥る、⑦ぬ、⑧る、の文法的説明として適切な記号を、次の「ア~オ」の中から一つ選んで答えよ。(※選択肢の「ス」以外は助動詞である。)

ア.推量  イ.意志  ウ.可能  エ.当然  オ.命令  カ.適当  キ.打消推量  ク.打消意志  ケ.打消  コ.完了  サ.強意  シ.存続  ス.動詞の一部

 

ク.打消意志

じ=打消意志の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

カ.適当

べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

シ.存続

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続(直前に来る活用形)はサ変なら未然形・四段なら已然形

コ.完了

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。直前に連用形の「いたり」が来ているため、完了・強意の助動詞「ぬ」だと分かる。打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」ではない。打消しの助動詞「ず」の接続は未然形だからである。また、文末で終止形と予測して活用から判断してもよい。ただし、文末は係り結びによって連体形となることもあるので注意。

シ.存続

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

 

問題4.「⑫詠めりけれ」、を例にならって品詞分解し、説明せよ。

 

例:「い は/れ/ず。」

いは=動詞・四段・未然形

れ=助動詞・受身・未然形

ず=助動詞・打消・終止形

 

⑫品詞分解:「詠 め/り/け れ

詠め=動詞・四段・已然形

り=助動詞・完了・連用形

けれ=助動詞・過去・已然形

り=完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

 

 

問題5.「⑤ひとりふたりしていきけり」、「⑬乾飯の上に涙落としてほとびにけり」、の現代語訳をせよ。

 

一人二人とともに行った

して=格助詞、①共同「~とともに」、②手段・方法「~で」、③使役の対象「~に命じて」の三つの意味があるが、ここでは①共同「~とともに」の意味。

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

乾飯の上に涙を落として(乾飯が)ふやけてしまった

ほとび=バ行上二動詞「潤(ほと)ぶ」の連用形、水分を含んでふやける

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

 

問題6.この「伊勢物語」の主人公のモデルだと考えられている人物を答えよ。

 

答え:在原業平

 

 

 

以下は、本文の和歌「からごろも  きつつなれにし  つましあれば  はるばるきぬる  たびをしぞ思ふ」についての問題である。

 

問題7.「からごろも  きつつなれに  つまあれば  はるばるきぬる  たびをぞ思ふ」、の「し」における文法的説明として適切な記号を、次の中から一つ選んで答えよ。

ア.サ行変格活用の動詞  イ.サ行四段活用の動詞  ウ.過去の助動詞「き」の連用形  エ.過去の助動詞「き」の連体形  オ.格助詞  カ.強意の副助詞  キ.動詞の一部  ク.形容詞の一部

 

エ.過去の助動詞「き」の連体形

カ.強意の副助詞

カ.強意の副助詞

 

 

問題8.この和歌における序詞を抜き出しなさい。

 

序詞:からごろもきつつ

※序詞…ある語句を導き出すために前置きとして述べることば

唐衣きつつ=「なれ」を導き出す序詞。序詞は前置きなので、作者の言いたいことは三句以降の部分である。たいてい序詞の最後は「~のように」と訳す。

 

 

問題9.この和歌における掛詞を3つ抜き出しなさい。なお、掛詞はそれぞれ2語である。

 

一つ目:なれ

二つ目:つま

三つ目:はる

※掛詞…同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。読者に意味を一つに限定されない配慮としてひらがなとして書かれることが多い。

なれ=「萎れ」と「馴れ」が掛けられている

つま=「妻」と(着物の)「褄」が掛けられている。

はるばるの「はる」=「はるか遠く」と「(布を)張る」という意味が掛けられている。

 

 

問題10.この和歌に含まれている和歌の修辞技巧を次の記号の中からすべて答えなさい。

ア.枕詞  イ.縁語  ウ.序詞  エ.掛詞  オ.折句  カ.体言止め

 

答え:ア・イ・ウ・エ・オ

※縁語…ある言葉と意味上の縁のある言葉。ある言葉から連想できる言葉が縁語。

この和歌では、「衣」の縁語として「着(き)」「馴れ(なれ)」「褄(つま)」「張る」の4つである。

 

※折句…和歌の各句の頭文字にかな五文字を織り込む技法

この和歌では、「かきつばた」が織り込まれている

らごろも(唐衣)

つつなれにし

ましあれば

るばるきぬる

びをしぞ思ふ

 

※体言止め…和歌の末尾を体言で終える技法。この和歌では用いらておらず、用言で終えられている。(ただし、係り結びのため、連体形で終えられている。)

 

 

問題11.この和歌の現代語訳を答えよ。

 

現代語訳:唐衣を着続けて体になじむように、馴れ親しんだ妻が(都の京に)いるので、はるばるとやって来た旅をしみじみと思うことだ

 

 

 伊勢物語『東下り』解説・品詞分解(1)

 

   伊勢物語『東下り』まとめ

 

 

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