古文

平家物語『木曾の最期』(2)解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら平家物語『木曾の最期』(2)現代語訳

 

 今井四郎、木曾殿、ただ主従二騎になつて、のたまひ けるは、「日ごろは何とも覚え(よろい)が、今日は重うなつたる  。」

 

のたまひ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の連用形、「言ふ」の尊敬語。動作の主体である木曾義仲を敬っている。作者からの敬意

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

ぞ=強調の係助詞

 

や=間投助詞、ここでの用法はおそらく「呼びかけ」

 

今井四郎と木曾殿は、たった主従二騎になって、(木曾殿が)おっしゃったことには、「ふだんは何とも思わない鎧が、今日は重くなったぞ。」

 

 

今井四郎申し けるは、「御身(おんみ)もいまだ疲れさせ たまは 御馬(おんうま)も弱り(そうろ) 

 

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形。「言ふ」の謙譲語。申し上げる。動作の対象(申される人)である木曾義仲を敬っている。作者からの敬意

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

御身(おんみ)=名詞、「身」の尊敬語。おからだ。ここでは木曾義仲のおからだの事

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。動作の主体である木曾義仲を敬っている。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「たまふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である木曾義仲を敬っている。二重敬語(尊敬)であっても現代語訳するときは、通常の尊敬の意味で訳す。現代語において二重敬語は誤った言葉づかい。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形。もう一つの「ず」も同じ。

 

候は=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の未然形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

※「候ふ」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の意味である。

※補助動詞=用言の直後に置いて、その用言に少し意味を添えるように補助する動詞。英語で言う助動詞「can,will」みたいなもの。

※本動詞=単体で意味を成す動詞、補助動詞ではないもの。

英語だと、「need」には助動詞と通常の動詞としての用法があるが、「候ふ」も意味は違うがこれみたいなもの

 

今井四郎が申し上げたことには、「(あなたの)おからだもまだお疲れになっていません。お馬も弱っておりません。

 

 

何によつて 一領の(おん)()()(なが)を重うはおぼしめし 候ふ べき

 

何によって=なぜ、何ゆえに、どうして

 

か=疑問・反語の係助詞、ここでは反語の意味。結びは連体形となる。係り結び。

 

御着背長(おんきせなが)=名詞、大将の着る鎧

 

おぼしめし=サ行四段動詞「おぼしめす」の連用形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である木曾義仲を敬っている。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段の終止形、丁寧語。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

 

どうして一着の鎧を重くお思いになるはずがありましょうか。(いえ、ありません。)

 

 

それは()(かた)御勢(おんせい)候は  、臆病でこそ おぼしめし 候へ

 

御勢=名詞、軍勢

 

候は=ハ行四段動詞「候ふ」の未然形。「あり・居り」の丁寧語。あります、ございます、おります

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

然(さ)=副詞、そう、そのように

 

おぼしめし=サ行四段動詞「おぼしめす」の連用形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

候へ=補助動詞ハ行四段の已然形、丁寧語。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

それは御味方に軍勢がございませんので、気おくれしてそのように思いなさるのです。

 

 

(かね)(ひら)一人候ふとも、()の武者千騎とおぼしめせ

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さうろふ)」の終止形、謙譲語。お仕え申し上げる、おそばにいる。動作の対象である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

※「候ふ」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の意味である。

 

余=名詞、その他、それ以外

 

おぼしめせ=サ行四段動詞「おぼしめす」の命令形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

兼平一人だけがお仕え申し上げるとしても、他の武者千騎(に相当する)とお思いください。

 

 

矢七つ八つ候へ 、しばらく防き矢 つかまつら 

 

候へ=ハ行四段動詞「候ふ」の已然形、「あり・居り」の丁寧語。あります、ございます、おります。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

防き矢=名詞、敵の攻撃を防ぐために矢を射ること

 

つかまつら=ラ行四段動詞「仕る(つかまつる)」の未然形、します、いたす。「す」「行ふ」などの動詞の代わりに用いられて丁寧の気持ちを表す。ちなみに、謙譲語として「お仕え申し上げる」と言った意味もある。

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。

 

(まだ、)矢が7、8本ございますので、しばらく防戦いたしましょう。

 

 

あれに見え候ふ(あわ)()の松原と申す。あの松の中で御自害候へ」とて、打つて行くほどに、

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ」の連体形、丁寧語。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

申す=サ行四段動詞「申す」の終止形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

候へ=ハ行四段動詞「候ふ」の命令形。丁寧語。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

あそこに見えますのは、粟津の松原と申します。あの松の中で、御自害なさいませ。」と言って、馬に鞭打って行くうちに、



 

また(あら)()の武者五十騎ばかり出で来たり。「君はあの松原へ入ら たまへ。兼平はこの(かたき)防き候は 。」と申し けれ 

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「使役」と「尊敬」の意味があるが、直後に尊敬語が来たときは文脈判断。

 

たまへ=補助動詞ハ行四段「たまふ」の命令形、尊敬語、直前の「せ」とともに動作の主体(入る人)である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

候は=補助動詞ハ行四段「候ふ」の未然形、丁寧語。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。

 

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である木曾義仲を敬っている。作者からの敬意。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

また新手の敵、武者五十騎ほどが出て来た。「殿はあの松原へお入りください。兼平はこの敵軍を防ぎましょう。」と申したところ、

 

 

木曾殿のたまひ けるは、「義仲、都にていかにも なる べかり つるが、

 

のたまひ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の連用形、「言ふ」の尊敬語。動作の主体である木曾義仲を敬っている。作者からの敬意

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

いかにも=副詞、どのようにでも、まったく、実に、確かに。「いかに(副詞)/も(係助詞)」

 

なる=ラ行四段動詞「成る」の終止形

 

べかり=意志の助動詞「べし」の連用形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

 

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

 

木曾殿がおっしゃったことには、「義仲は都でどのようにでもなる(=死ぬ)つもりだったが、

 

 

これまで逃れ来るは、(なんぢ)一所(いっしょ)死な と思ふためなり

 

汝(な・なんぢ・なんじ)=名詞、おまえ

 

死な=ナ変動詞「死ぬ」の未然形

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

ここまで逃れてきたのは、お前と同じ所で死のうと思うためである。

 

 

所々で討た よりも、(ひと)(ところ)こそ討死をも 。」とて、

 

れ=受身の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

ん=婉曲の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

 

こそ=強調の係助詞、結びは連体形。係り結び。

 

せ=サ変動詞「す」の未然形、する

 

め=意志の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

別々な場所で打たれて死ぬよりも、一つの場所で討ち死にをしよう。」と言って、

 

 

 

馬の鼻を並べて駆けとしたまへ 、今井四郎、馬より飛び降り、主の馬の口に取りついて申し けるは、

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

たまへ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である木曾義仲を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形。「言ふ」の謙譲語。申し上げる。動作の対象(申される人)である木曾義仲を敬っている。作者からの敬意

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

馬の鼻先を並べて駆け出そうとなさると、今井四郎は馬から飛び降り、主君の馬の口元にとりついて申し上げたことには、

 

 

「弓矢取りは、年ごろ日ごろ いかなる高名(こうみょう)候ふとも、

 

弓矢取り(ゆみやとり)=名詞、武士

 

年ごろ日ごろ=長い間ずっと。  年ごろ=名詞、数年間、長年  日ごろ=名詞、数日間。ふだん

 

いかなる=ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。どのようだ、どういうふうだ

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さうろふ)」の終止形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

「武士は、長年にわたってふだんからどのような勇名がございましょうとも、

 

 

最後の時不覚しつれ 、長き(きず)にて候ふ なり

 

つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、基本的に直前が已然形だと、①原因・理由、②偶然条件、③恒常条件、直前が未然形ならば④仮定条件である。しかし、室町時代以降あたりからは直前に已然形が来て仮定条件の意味で用いられるようになった。ここでは仮定条件「もし~ならば」である。

 

候へ=ハ行四段動詞「候ふ」の連体形。「あり・居り」の丁寧語。あります、ございます、おります。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

(命の)最後の時に失敗したならば、(死後)長きにわたる不名誉でございます。

 

 

御身は疲れさせ たまひ候ふ。続く勢は候は 

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「たまふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ」の終止形、丁寧語。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

候は=ハ行四段動詞「候ふ」の未然形。「あり・居り」の丁寧語。あります、ございます、おります。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

お体はお疲れになっておられます。(我々に味方として)続く軍勢はございません。



 

敵に押し隔てられ言ふかひなき人の郎等(ろうどう)に組み落とさ させ たまひて、

 

られ=受身の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

言ふかひなき=ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連体形、(幼く)わきまえがない、聞き分けがない。言っても仕方がない、言っても何にもならない。

 

れ=受身の助動詞「る」の未然形、接続は未然形

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「たまふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

敵に押しへだてられ、とるに足らない人の家来に(馬から)組み落とされなさって、

 

 

討た させ たまひ  

 

れ=受身の助動詞「る」の未然形、接続は未然形

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「たまふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

討ち取られなさったならば、

 

 

さばかり日本国に聞こえ させ たまひ つる木曾殿を

 

さばかり=副詞、それほど、そのくらい。それほどまでに。「さ」と「ばかり」がくっついたもの。「さ」は副詞で、「そう、そのように」などの意味がある。

 

聞こえ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連用形。うわさされる、世に知られる、有名である

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「たまふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である木曾義仲を敬っている。

 

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

 

ば=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。

 

『あれほど日本中で評判になっていらっしゃった木曾殿を、

 

 

それがしが郎等の討ちたてまつ たる。』なんど申さ ことこそ 口惜しう 候へ

 

たてまつ=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形が音便化したもの、謙譲語。動作の対象である木曾義仲を敬っている。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

申さ=サ行四段動詞「申す」の未然形。「言ふ」の謙譲語。申し上げる。動作の対象(申される人)である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意

 

ん=婉曲の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

口惜しう=シク活用の形容詞「口惜し」の連用形が音便化したもの、残念だ、がっかりだ、悔しい、

 

候へ=補助動詞ハ行四段「候ふ」の已然形、丁寧語。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。聞き手である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意。

 

だれそれの家来が討ち申し上げた。』などと申すようなことが残念でございます。

 

 

ただあの松原へ入ら たまへ。」と申し けれ 

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「たまふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である木曾義仲を敬っている。

 

たまへ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の命令形

 

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形。「言ふ」の謙譲語。申し上げる。動作の対象(申される人)である木曾義仲を敬っている。今井四郎からの敬意

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

ただただあの松原へお入りください。」と申し上げたところ、

 

 

木曾、「さらば。」とて、粟津の松原へ駆けたまふ

 

さらば=接続語、それならば、それでは

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

たまふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。動作の主体である木曾義仲を敬っている。作者からの敬意。

 

木曾殿は、「そういうのならば(そうしよう)。」と言って、粟津の松原へ馬を走らせなさる。

 

 

続きはこちら平家物語『木曾の最期』(3)解説・品詞分解

 

平家物語『木曾の最期』まとめ

 

平家物語のあらすじ 受験に備えて軽く知っておこう

 

 

 

-古文

© 2024 フロンティア古典教室 Powered by AFFINGER5