古文

平家物語『忠度の都落ち』解説・品詞分解(2)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら平家物語『忠度の都落ち』現代語訳(1)(2)

 

 

薩摩(さつまの)(かみ)たまひ けるは、「年ごろ 申し(うけたまわ)てのち、

 

のたまひ=ハ行四段動詞「のたまふ(宣ふ)」の連用形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体である薩摩守忠度を敬っている。作者からの敬意

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

年ごろ=名詞、数年間、長年

 

申し承つ=ラ行四段動詞「申し承る」の連用形が音便化したもの、謙譲語。教えていただく、教えをお受けする。「申す」と「承る」が合わさったもので、「(和歌について)お尋ね申し、(教えを)いただいて」という意味が含まれている。いずれも動作の対象である五条三位俊成卿を敬っており、薩摩守忠度からの敬意である。

 

薩摩守がおっしゃったことには、「長年(和歌を)教えていただいて以来、

 

 

おろかなら 御事に思ひ参らせ 候へ ども

 

おろかなら=ナリ活用の形容動詞「疎かなり/愚かなり(おろかなり)」の未然形、おろそかだ、いいかげんだ。並々だ、普通だ。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

参らせ=補助動詞サ行下二「参らす」の連用形、謙譲語。動作の対象である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

候へ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の已然形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

※「候(さうらふ/さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

(あなたのこと/和歌の事を)おろそかでないことに思い申し上げていましたが、

 

 

この二、三年は、京都の騒ぎ、国々の乱れ、しかしながら当家の身の上のことに候ふ間、

 

しかしながら=副詞、①そっくりそのまま、すべて。②つまり、結局。「さながら/しかながら/しかしながら」には①の意味があり、「しかながら/しかしながら」には②の意味もある。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の連体形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

この二、三年は、京都の騒ぎや、(地方の)国々の動乱、これらは全て当家(=平家)の身の上の事でございますので、

 

 

疎略存ぜ といへども、常に参り寄ることも候は 

 

疎略/粗略(そりゃく)=名詞、ぞんざいに扱うこと、いいかげんに扱うこと、おろそかにすること

 

存ぜ=サ変動詞「存ず」未然形、「考ふ・思ふ・知る」の謙譲語。動作の対象である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

候は=ハ行四段動詞「候ふ(さうろふ)」の未然形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

(あなたのこと/和歌の事を)おろそかには思っておりませんでしたが、いつも(あなたの)おそばに参上することもございませんでした。



 

君すでに都を出でさせ 給ひ 。一門の運命、はや尽き候ひ 

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ひ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である君(=安徳天皇)を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。もう一つの「ぬ」も同様。

 

候ひ=補助動詞ハ行四段「候ふ」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

わが君(=安徳天皇)はすでに都をお出でになりました。(平家)一門の運命は、もはや尽きてしまいました。

 

 

撰集のあるべき 承り候ひ しか 

 

べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

由(よし)=名詞、旨、趣旨、事情

 

候ひ=補助動詞ハ行四段「候ふ」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

勅撰和歌集の編集があるだろうという旨を承りましたので、

 

 

生涯の面目に、一首なりとも御恩をかうぶら 存じ候ひ に、

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

かうぶら=ラ行四段動詞「被る(かうぶる)」の未然形、お受けする、いただく。身に受ける、こうむる。

 

う=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

存じ=サ変動詞「存ず」の連用形、「考ふ・思ふ・知る」の謙譲語。動作の対象である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

候ひ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

(私の)一生涯の名誉として、一首だけでも(あなたの)ご恩をいただこうと思っておりましたが、

※忠度が俊成のご恩を受けて一首だけでも勅撰和歌集に入れてもらおうとしたということ。

 

 

やがて世の乱れ出できて、その沙汰なく候ふ条、ただ一身の嘆きと存じ 候ふ

 

やがて=副詞、すぐに。そのまま。

 

沙汰(さた)=名詞、指図、命令。処置、取決め。裁判、訴訟。評判、うわさ。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の連体形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

存じ=サ変動詞「存ず」の連用形、「考ふ・思ふ・知る」の謙譲語。おそらく動作の対象である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

すぐに世の乱れ(=源平の争乱)が起こって、その(勅撰和歌集編集の)命令がございませんことは、ただ私の一身の嘆きと思っております。

 

 

世静まり候ひ  、勅撰の御沙汰候は んず らん

 

候ひ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

候は=ハ行四段動詞「候ふ(さうろふ)」の未然形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

んず=推量の助動詞「むず」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜㋑㋕㋕㋓の五つの意味がある「む」と同じようなものと思ってしまった方が楽。正確に言うと「推量」・「意志」・「適当、当然」の意味である。話し言葉で使われるのが「むず」、書き言葉で使われるのが「む」である。

未然形

連用形

終止形

連体形

已然形

命令形

むず

むず

むずる

むずれ

 

らん­=現在推量の助動詞「らむ」の終止形が音便化したもの、接続は終止形(ラ変なら連体形)

 

世が静まりましたならば、勅撰のご命令がございましょう。



 

これに候ふ巻き物のうちに、さり  べきもの候は 

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さうろふ)」の連体形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。後の「候は(未然形)」も同様。

 

さり=ラ変動詞「然り(さり)」の連用形、適切である、ふさわしい、しかるべきだ。そうだ、そうである。

 

ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる

 

べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

ここにございます巻物の中に、ふさわしい歌がございますならば、

 

 

一首なりとも御恩をかうぶつて、草の陰にてもうれしと存じ 候は 

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

かうぶつ=ラ行四段動詞「被る(かうぶる)」の連用形が音便化したもの、お受けする、いただく。身に受ける、こうむる。

 

存じ=サ変動詞「存ず」の連用形、「考ふ・思ふ・知る」の謙譲語。動作の対象である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

候は=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうろふ)」の未然形、丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

一首だけでもご恩をいただいて(勅撰和歌集に入れてもらって)、(私が死んで)あの世でもうれしいと存じましたならば、

 

 

遠き御守りでこそ 候は んずれ。」とて、

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

候は=ハ行四段動詞「候ふ(さうろふ)」の未然形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である五条三位俊成卿を敬っている。薩摩守忠度からの敬意。

 

んず=推量の助動詞「むず」の已然形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

遠いあの世から(あなたを)お守りすることでしょう。」と言って、

 

 

日ごろ詠み置か たる歌どものなかに、秀歌とおぼしきを百余首書き集められ たる巻き物を、

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。ここでは文脈判断で、貴人が主語であることから「尊敬」の意味と判断する。動作の主体である薩摩守忠度を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。もう一つの「たる」も同じ。

 

おぼしき=シク活用の形容詞「おぼし」の連体形、思われる、見受けられる

 

られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。

 

普段から詠み置きなさった歌の数々の中で、秀歌と思われる歌を百余首書き集めなさった巻物を、

 

 

今はとてうつ立た  ける時、これを取つて持た たり が、

 

うつ立た=タ行四段動詞「うち立つ」の未然形が音便化したもの、出発する。「うち」は接頭語。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。

 

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

今は(もはやこれまで)と思って出発なさった時、これを取ってお持ちになったが、

 

 

鎧の引き合はせより取り出でて、俊成卿に奉る

 

より=格助詞、起点「~から」

 

奉る=ラ行四段動詞「奉る(たてまつる)」の終止形、「与ふ・贈る」の謙譲語。差し上げる、謙譲する。動作の対象である五条三位俊成卿を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

 

(その巻物を)鎧の引き合わせから取り出して、俊成卿に差し上げる。

 

 

 続きはこちら平家物語『忠度の都落ち』解説・品詞分解(3)

 

平家物語『忠度の都落ち』まとめ

 

平家物語のあらすじ 受験に備えて軽く知っておこう

 

 

 

-古文