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雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解(4)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(4)

 

さて しも臥したる妻はいづち行きけん 見え 

 

さて=接続詞、(話題を変えるときに、文頭において)さて、そして、ところで、それで、そこで。

 

しも=強意の副助詞。強意なので訳す際には気にしなくても良い。「し」=強意の副助詞  「も」=強調の係助詞

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

けん=過去推量の助動詞「けむ」の連体形が音便化したもの、接続は連用形。文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」だが、文中に来ると「過去の伝聞・婉曲」となることをもとに識別する。

 

見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

それにしても寝ていた妻はどこに行ったのだろうか(妻の姿が)見えない

 

 

(きつね)などのしわざ と思へ

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あらむ」などが省略されていると考えられる。「訳:~であるのだろうか」

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

狐などの仕業であろうかと思ってみると、

 

 

かく 荒れ果て ぬれ 、もと住み家に(たが)は 

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

荒れ果て=タ行下二段動詞「荒れ果つ」の連用形

 

ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形

 

ど=逆接の接続助詞、直前には已然形が来る

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

で=打消の接続助詞、直前には未然形が来る。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

このように荒れ果てているけれども、以前住んでいた家に違いなく、

 

 

広く造りなせ 奥わたりより、端の方、稲倉まで好みたるままのさまなり

 

造りなせ=サ行四段動詞「造りなす」の連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

広く作った奥の辺りから、端の方の稲倉まで(勝四郎の)好んだままの様子である。

 

 

あきれて足の(ふみ)()さへ 忘れ たるやうなり が、つらつら思ふに、「妻は(すで)死りて、

 

あきれ=ラ行下二段動詞「呆る(あきる)」の連用形

 

さへ=副助詞、添加(~までも)。類推(~さえ)。

 

忘れ=ラ行下二動詞「忘る」の連用形

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

死り=ラ行四段動詞「死る(まかる)」の連用形。「まかる」と言うのは基本的に「退出する」と言う意味だが、ここでは、「死ぬ・亡くなる」と言う意味で使われている。現代語でも、古典においても「死ぬ」という言葉を直接使うことは避けるべきこととされており、「亡くなる・いたずらになる・隠る・まかる」などと言ってにごす。

 

途方に暮れて自分が立っている所までも忘れてしまうようだったが、よくよく考えると、「妻はすでに亡くなって、

 

 

今は()()住み替はりて、かく野らなる宿となり たれ 

 

の=格助詞、用法は主格。「狐狸」→「狐狸

 

なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

たれ=存続の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

今はキツネやタヌキが代わりに住んでいて、このように野原同然の(荒れた果てた)家となったので、

 

 

怪しき 化しありし形を見せ つる あるべき

 

怪しき=シク活用形容詞「怪し(あやし)」の連体形

 

の=格助詞、用法は主格。「怪しき鬼化して」→「怪しいもの化けて」

 

化し=サ変動詞「化す(けす)」の連用形。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

 

ありし=連体詞、昔の、生前の。「あり(ラ変動詞「あり」の連用形)」と「し(過去の助動詞「き」の連体形)」が付いたもの

 

形(かたち)=名詞、外形、姿。顔

 

見せ=サ行下二段動詞「見す」の連用形、見せる

 

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び

 

べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。基本的に文脈判断。

 

怪しいものが化けて生前の姿を見せたのであろう。

 

 

もしまた我を慕ふ魂帰り来(き)たり語り ぬるもの

 

もし=副詞、もしかしたら、あるいは

 

の=格助詞、用法は主格。「魂かへり来りて」→「魂帰ってきて」

 

来たり=ラ行四段動詞「来たる(きたる)」の連用形

 

語り=ラ行四段動詞「語る」の連用形

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

 

か=疑問の係助詞

 

あるいはまた、私を慕う(妻の)魂が、(あの世から)帰ってきて語ったものなのか。

 

 

思ひ事のつゆ違はざり  」と、さらに涙さへ出(い)で 

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

つゆ=「つゆ」の後に打消語(否定語)を伴って、「まったく~ない・少しも~ない」となる重要語。ここでは「ざり」が打消語

 

ざり=打消しの助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

よ=間投助詞、詠嘆・感動などを表す

 

さらに=下に打消し語を伴って、「まったく~ない、いっこうに~ない」。ここでは「ず」が打消語

 

出で=ダ行下二動詞「出(い)づ」の未然形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

思っていたことと少しも違わなかったよ。」と、全く涙さえも出ない。



 

我が身ひとつはもとの身してと歩み廻るに、

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

(「我が身ひとつはもとの身にして」という古歌の気持ちを実感しながら)自分の体だけはもとのままだと歩き回ると、

 

 

むかし閨房(ふしど) あり 所の簀子(すのこ)をはらひ、土を積みて塚と、雨露を防ぐ設けもあり。

 

閨房(ふしど)=寝る所、寝室。「臥し所(ふしど)」

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

あり=補助動詞ラ変「あり」の連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

簀子(すのこ)=名詞、縁側。板と板の間を透かせて縁側に作られた敷物

 

し=サ変動詞「す」の連用形、する

 

設け(まうけ)=名詞、準備、用意、備え。

 

昔は寝室であったところの簀子(すのこ)の床を取り払い、土を積んで塚をとして、雨露を防ぐ備えもしてある。

 

 

夜の霊はここもと より 恐ろしくもかつ懐かし

 

ここもと=名詞、こちら、こちら側。私の方。身近なところ

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

や=疑問の係助詞

 

恐ろしく=シク活用の形容詞「恐ろし」の連用形

 

懐かし=シク活用の形容詞「懐かし(なつかし)」の終止形

 

昨夜の(妻の)霊はここから(現れたの)かと恐ろしくもあるが、懐かしくもある

 

 

水向けの具、物せ 中に、木の端を削りたるに、()()()(がみ) いたう 古びて、文字もむら消えして所々見定めがたき正しく妻の筆の跡なり

 

物せ=サ変動詞「物す」の連用形、「~する」といういみがあり、いろいろな動詞の代わりに使う。ここでは「備える」などといった意味。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

の=格助詞、用法は同格。「の」を「で」と訳すと良い。「那須野紙いたう古びて、文字もむら消えして所々見定めがたき、」→「那須野紙たいそう古びて、(そこに書かれた)文字も消えかかってところどころが読みにくい

 

いたう=ク活用の形容詞「いたし」の連用形が音便化したもの、良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい

 

古び=バ行下二段動詞「古ぶ」の連用形、古くさくなる

 

見定めがたき=ク活用の形容詞「見定めがたし」の連体形

 

正しく=シク活用の形容詞「正し」の連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は連用形

 

手向けの水を備える道具の中に、木の端を削ったものに、那須野紙でたいそう古びて、(そこに書かれた)文字も消えかかってところどころが読みにくいものがあるが、(それをよく見ると、)まさしく妻の筆跡である。

 

 

法名といふものも年月も記さ、三十一字に末期の心を哀れに  のべ たり

 

で=打消の接続助詞、直前には未然形が来る。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

哀れに=ナリ活用の形容動詞「哀れなり」の連用形、つらい、悲しい。不憫だ、気の毒だ

 

も=係助詞、訳す際に無視しても構わない。

 

のべ=バ行下二段動詞「述ぶ」の連用形

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

戒名も(亡くなった)年月も書き記さないで、三十一文字に最後の気持ちを哀れに詠んであった。

 

 

さりともと  思ふ心に  (はか)られて  世にも今日まで  生ける命か

 

さりとも=接続詞、「今は~だとしてもこれからは~だろうと」といった意味

 

謀ら=ラ行四段動詞「謀る(はかる)」の未然形、だます、欺く

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

生け=カ行四段動詞「生く」の已然形

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

か=詠嘆の終助詞

 

(夫は約束の秋には戻ってこなかったが)それでも(いつかは帰ってくるだろう)と思う気持ちに欺かれて、この世に今日まで生きながらえてきた命であるよ。



 

ここに初めて妻の死し たる覚(さと)りて、大いに叫びて倒れ伏す。

 

死し=サ変動詞「死す」の連用形。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

覚り=ラ行四段動詞「覚る(さとる)」の連用形

 

叫び=バ行四段動詞「叫ぶ」の連用形

 

ここで初めて妻が死んだことを知って、大声で泣き伏した。

 

 

さりとて何の年何の月日に終はり  さへ知ら あさましさ 

 

さりとて=接続詞、そうかといって、それにしても

 

終はり=ラ行四段動詞「終はる」の連用形、「死ぬ・亡くなる」と言う意味で使われている。現代語でも、古典においても「死ぬ」という言葉を直接使うことは避けるべきこととされており、「亡くなる・いたずらになる・隠る・まかる」などと言ってにごす。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

さへ=副助詞、類推(~さえ)。添加(~までも)。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。直後に体言である「こと」などが省略されているため連体形(体言に連なる形)となっている。

 

あさましさ=名詞、事の意外さに驚きあきれる様子を表す。あきれるほど情けないこと

 

よ=間投助詞、詠嘆・感動などを表す

 

「それにしても何年何月何日に死んだのかさえ知らないのはあきれるほど情けないことよ。

 

 

人は知り   。」と、

 

も=係助詞、訳す際に無視しても構わない。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び

 

せ=サ変動詞「す」の未然形、する

 

ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。

 

誰か知っているのではないか。」と、

 

 

涙をとどめ て立ち出づれ 、日高く さし昇り 

 

とどめ=マ行下二動詞「とどむ」の連用形、止める、おさえる

 

立ち出づれ=ダ行下二段動詞「立ち出づ」の已然形、立って出て行く、外へ出る、立ち去る

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

高く=ク活用の形容詞「高し」の連用形

 

さし昇り=ラ行四段動詞「さし昇る」の連用形。「さし」は接頭語であり、あまり気にしなくてもよい。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

涙を抑えて外へ出ると、日が高く昇っていた。

 

 

続きはこちら雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解 「勝四郎、翁が高齡をことぶきて、~

 

 雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(4)

 

雨月物語『浅茅が宿』(4)問題1

 

 雨月物語『浅茅が宿』まとめ

 

 

 

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