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雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解(3)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(3)

 

妻涙をとどめて、「ひとたび別れ参らせて後、たのむの秋よりさきに恐ろしき世の中となりて、

 

参らせ=サ行下二段動詞「参らす」の連用形、謙譲語。

 

たのむ=マ行四段動詞「頼む(たのむ)」の連体形。頼みに思う、あてにする。

※四段活用と下二段活用の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わり、「頼みに思わせる、あてにさせる」といった意味になる。

 

妻は涙をとどめて、「ひとたびお別れしてからその後、(あなたと再会することを)頼みに思っていた秋が来る前に恐ろしい世の中となって、

 

 

里人は皆家を捨てて、海に(ただよ)ひ山に隱れ、たまたまに残りたる人は、多く()(ろう)の心ありて、

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

里人はみな家を捨てて、海に漂ったり山に隠れたので、たまたま残った人は、多くは虎狼の心があって、

 

 

かく(やもめ)なり たより よし、言葉を巧みていざなへども

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

たより(便り・頼り)=名詞、良い機会、事のついで。手紙、消息。頼り所、縁故。便宜、手段。

 

よし=ク活用の形容詞「良し」の終止形。対義語は「悪し(あし)」。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。

 

や=疑問の係助詞

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

(私が)このように寡婦(=未亡人)となったのを都合がよいと思ったのか、言葉巧みに誘惑してきたけれども、

 

 

(たま)と砕けても(かわら)の全きにはならは ものをと、いくたび辛き目を忍び ぬる

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の連体形、接続は未然形

 

ものを=終助詞、詠嘆。

 

か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

忍び=バ行四段動詞「忍ぶ」の連用形、我慢する、こらえる。人目を忍ぶ、目立たない姿になる。

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

玉として砕けても、瓦のようになって生き延びることはするまいよと、何度も辛い目を耐え忍びました。

※「玉と砕けても」=貞操を守って死ぬこと。  瓦は玉の対義語で、価値のないものの例えである。

 

 

銀河秋を告ぐれども君は帰り給は 

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

天の川が秋を告げても、あなたお帰りになりません。

 

 

冬を待ち、春を迎へても消息なし。

 

消息(しょうそこ)=名詞、便り、連絡、手紙。案内を乞うこと、声をかけること。

 

冬を待ち、春を迎えても便りはない。

 

 

今は京に上りて尋ね参らせ と思ひしか 丈夫(ますらお)さへ許さざる関の(とざし)を、

 

参らせ=サ行下二段動詞「参らす」の未然形、謙譲語。

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

さへ=副助詞、添加(~までも)。類推(~さえ)。

 

ざる=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

今は京に上ってお探ししようと思いましたが、男でさえ通ることを許されない関所の守りを、

 

 

いかで女の越ゆべき道もあらと、

 

いかで=副詞、どうして、どのようにして、どういうわけで。どうであろうとも、なんとかして。どうにかして。

 

べき=可能の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

どうして女の身で(ある私が)超えられる道があるだろうか(、いや、ないだろう)と、

 

 

(のき)()の松にかひなき宿に、きつね・ふくろふを友として今日までは過ごし

 

かひなき=ク活用の形容詞「甲斐なし(かひなし)」の連体形、どうしようもない、効果がない、むだだ。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

軒端の松のように待ってもどうしようもない宿に、きつね・ふくろうを友として今日まで過ごしてきました。

 

 

今は長き恨みも晴れ晴れとなり ぬることのうれしく侍り

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の終止形、丁寧語。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

(あなたに会えた)今は長い恨みも晴れ晴れとしたことがうれしくございます。



 

()ふを待つ間に恋ひ死なは、人知ら恨みなる べし。」と、またよよと泣くを、

 

ん=仮定の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。訳:「(もしも)恋いしんでしまったら、」

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形

 

べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

(昔の和歌にあるように)会うのを待つ間に恋焦がれ死んだとしたら、相手に知られず恨みになるでしょう。」と言って、また(妻が)声を上げて泣くのを、

 

 

「夜こそ 短きに。」と言ひなぐさめて、ともに()

 

こそ=強調の係助詞。結びは已然形となるが、係り結びの消滅が起こっている。本来の結びは「短き」の部分であるが、接続助詞「に」が来ているため、結びの部分が消滅してしまっている。これを「係り結びの消滅(流れ)」と言う。

 

短き=ク活用の形容詞「短し」の連体形

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

「夜は短いのだから。」と言い慰めて、一緒に寝たのだった。

 

 

窓の紙、松風を(すす)りて夜もすがら凉しきに、道の長手に疲れうまく()たり

 

夜(よ)もすがら=副詞、一晩中。対義語「日もすがら」。名詞ではあるが「夜一夜(よひとよ)」=「一晩中」というのもある。「夜一夜」⇔「日一日(ひひとひ)」

 

寝ね=ナ行下二段動詞「寝ぬ(いぬ)」の連用形

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

破れた窓の障子紙が、松風を通してすすり泣くように鳴って一晩中涼しい上に、長旅の疲れでぐっすりと寝た。

 

 

五更の空明けゆくころ、(うつつ)なき心にもすずろに寒かりけれ 

 

現なき=ク活用の形容詞「現なし(うつつなし)」の連体形

現(うつつ)=名詞、現実、現世。生きている状態、目が覚めている状態。

現なき心=夢見心地

 

すずろに=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形、なんとなく、わけもなく。むやみやたらである。意に反して、意に関係なく。何の関係もないさま。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

五更の空が明けゆく頃、夢見心地にもなんとなく寒かったので、

 

 

(ふすま)かづか と探る手に、何物 さやさやと音するに目覚め

 

かづか=カ行四段動詞「被く(かづく)」の未然形、かぶる。もらう、(褒美などを)いただく。

※四段活用と下二段活用の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わり、「かぶせる。与える。」といった意味になる。

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あらむ」などが省略されていると考えられる。「訳:~であるのだろうか」

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など

 

音する=サ変動詞音「す」の連体形。  「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「信ず」、「愛す」、「ご覧ず」

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

布団をかぶろうと探す手に、何物であろうか、さらさらと音がするので目が覚めた。

 

 

顔にひやひやと物のこぼるるを、雨漏りぬる と見れ

 

や=疑問の係助詞

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

 

か=疑問の係助詞

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

顔にひんやりと物がこぼれてくるのを、雨が(降って)濡れたのかと見ると、

 

 

屋根は風にまくらてあれ(あり)(あけ)(づき)のしらみて残りたる見ゆ

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

見ゆ=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の終止形、見える、分かる、思われる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。

 

屋根は風にまくられているので、有明の月が白んで残っているのが見える。



 

家は戸もあるなし。

 

や=疑問の係助詞

 

家は戸もあるのかないのか(分からないぐらいの家の荒れようである)。

 

 

()(がき)朽ち崩れたる(すき)より(おぎ)(すすき)高く()()て、朝露うちこぼるるに、(そで)ひちて絞るばかり なり

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

ひち=タ行上二段動詞「浸つ(ひつ)」の連用形、濡れる、水につかる。

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

床が腐ってくずれたすき間から、荻や薄が高く生い出て、朝露がこぼれるので、袖が濡れて絞るほどであった。

※簀垣(すがき)=名詞、竹や板の間を透かせて作られた床

 

壁には(つた)(くず)()ひかかり、庭は(むぐら)にうづもれて、秋なら  ども野らなる宿なり けり

 

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断。

 

壁には蔦や葛が生えかかり、庭は葎(=つる草)に埋もれて、秋ではないけれども(秋の)野原のような(ひどく荒れた)宿であった。

 

 

続きはこちら雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解(4)

 

 雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(3)

 

 雨月物語『浅茅が宿』まとめ

 

 

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