古文

雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(2)

「黒=原文」・「青=現代語訳

 解説・品詞分解のみはこちら雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解(2)

 

勝四郎も心くらみて、しばし物をも聞こえざりしが、

 

勝四郎も気が動転して、しばらく何も言えなかったが、

 

 

ややして言ふは、「今までかくおはすと思ひなば、など年月を過ごすべき。

 

少しして言うことには、「今までこのように(無事で)いると思ったならば、どうして(他国で)長い年月を過ごしただろうか。

 

 

()ぬる年京にありつる日、(かま)(くら)(ひょう)(らん)を聞き、御所の(いくさ)(つい)しかば、総州に避けて防ぎ給ふ。

 

先年、京にいた時、鎌倉の戦乱のことを聞き、御所方の軍が敗れたので、(御所方の軍は)下総に逃げて防戦なさる、

 

 

管領(かんれい)これを攻むる事急なりといふ。

 

管領方はこれを攻めるのが激しかったということだ。

 

 

その明日(ささ)()に別れて、()(づき)の初め京を立ちて、木曽路(きそじ)を来るに、山賊あまたに取りこめられ、

 

その翌日、雀部と別れて、八月の初めに京を出発して、木曽路に来たところ、大勢の山賊に取り囲まれ、

 

 

衣服金銀残りなく(かす)められ、命ばかりをからうじて助かりぬ。

 

衣服金銀残らず奪われ、命だけはやっとのことで助かった。

 

 

かつ里人の語るを聞けば、東海・東山の道はすべて新関を()ゑて人をとどむるよし。

 

さらに里人の話を聞くと、東海道・東山道はすべて新しい関所を設けて、人(の往来)をとどめているということだ。

 

 

また昨日京より(せつ)()使()も下り給ひて、上杉に(くみ)し、総州の(いくさ)に向かはせ給ふ。

 

また昨日は京から節刀使もお下りになって、上杉に加勢し、総州の戦いに向かいなさった。

 

 

本国の辺りはとくに焼き払はれ、馬の(ひづめ)(せき)()もひまなしと語るによりて、今は灰塵(かいじん)とやなり給ひけん、

 

故郷の辺りはとっくに焼き払われ、軍馬のひずめに踏み荒らさされない所は少しもないと話すのを聞いたので、もはや(あなたは)灰と化しただろうか、

 

 

海にや沈み給ひけんとひたすらに思ひとどめて、また京に上りぬるより、人に口もらひて七年は過ごしけり。

 

海に沈んでしまっただろうかとひたすら思いとどめて、再び京に上ってから、他人に生活の面倒を見てもらって七年を過ごした。



 

このごろすずろにもののなつかしくありしかば、

 

近ごろ、むやみに故郷がなつかしくなったので、

 

 

せめてその跡をも見たきままに帰りぬれど、

 

せめてその亡き跡を見たいと思うままに帰ってきたが、

 

 

かくて世におはせんとはゆめゆめ思はざりしなり。

 

こうして生きているとは少しも思わなかったのだ。

 

 

()(ざん)の雲、(かん)(きゅう)の幻にもあらざるや。」と繰り言果てしぞなき。

 

巫山の雲、漢宮の幻ではないだろうか。」と何度も繰り返して言うのだった。

 

 

続きはこちら雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(3)

 

 雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解(2)

 

 雨月物語『浅茅が宿』まとめ

 

 

 

-古文