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原文・現代語訳のみはこちら枕草子『宮に初めて参りたるころ』現代語訳(1)(2)(3)
宮に初めて参り たるころ、
宮(みや)=名詞、皇族。皇族の住居、皇居。ここでは皇后(中宮)である中宮定子を指している。
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語。動作の対象(参られた人)である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
中宮様の御所に(お仕えするために)初めて参上したころは、
もののはづかしきことの数知らず、涙も落ちぬ べけれ ば、
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
べけれ=推量の助動詞「べし」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
何かと恥ずかしいことが数多くあり、涙も落ちそうなので、
夜々参りて、三尺の御几帳の後ろに候ふに、絵など取り出でて見せ させ 給ふを、
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語。動作の対象である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連体形、謙譲語。お仕え申し上げる、おそばにいる。動作の対象である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
※「候(さぶら)ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
見せ=サ行下二段動詞「見す」の未然形、見せる。
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。
(顔の見える明るい昼間ではなく)夜ごとに参上して、三尺の御几帳の後ろにお控え申し上げていると、中宮様は絵などを取り出して見せてくださるが、
手にても えさし出づまじう、わりなし。
も=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
まじう=打消推量の助動詞「まじ」の連用形が音便化したもの、接続は終止形(ラ変なら連体形)
わりなし=ク活用の形容詞「わりなし」の終止形、「理(ことわり)なし」と言う意味からきている。道理に合わない、分別がない。程度がひどい。つらい、苦しい。どうしようもない。
(私は)手を差し出すこともできないぐらい、(恥ずかしくて)どうしようもない。
「これは、とあり、かかり。それが、かれが。」などのたまはす。
かかり=ラ変動詞「斯かり(かかり)」の終止形、このような、こういう
のたまはす=サ行下二動詞「のたまはす」の終止形、「言ふ」の尊敬語。「のたまふ」より敬意が強い。おっしゃる。動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
「この絵は、ああです、こうです。それが、あれが。」などと(中宮様は)おっしゃる。
高坏に参らせ たる大殿油なれ ば、
参らせ=補助動詞サ行下二「参らす」の連用形、謙譲語。作者からの敬意。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
高坏におともししてある大殿油(=灯火)であるので、
髪の筋なども、なかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれ ど、念じて見などす。
なかなか(中中)=副詞、かえって、むしろ
顕証に=ナリ活用の形容動詞「顕証なり(けそうなり)」の連用形、あらわである様子、はっきりしているさま
まばゆけれ=ク活用の形容詞「まばゆし」の已然形、恥ずかしい。まぶしい。光り輝くほど美しい。目を背けたいほどいとわしい。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
念じ=サ変動詞「念ず」の連用形、我慢する、耐え忍ぶ。 「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
す=サ変動詞「ず」の終止形、する。
髪の毛の筋なども、かえって昼間よりもはっきり見えて恥ずかしいけれど、我慢して見たりする。
いと冷たきころなれ ば、さし出でさせ 給へ る御手のはつかに見ゆるが、
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
見ゆる=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連体形、見える、分かる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
たいそう冷える時期なので、(中宮様の)差し出していらっしゃるお手が(袖口から)わずかに見えるのが、
いみじう にほひ たる薄紅梅なるは、限りなくめでたしと、
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても
にほひ=ハ行四段動詞「匂ふ(にほふ)」の連用形、美しく映える、美しく咲く。赤く色づく。匂いがする。嗅覚ではなく視覚的なことを意味しているので注意。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形
めでたし=ク活用の形容詞「めでたし」の終止形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる
たいそうつややかな薄紅梅色であるのは、この上なくすばらしいと、
見知らぬ里人心地には、かかる人こそは世におはしまし けれと、
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
かかる=ラ変動詞「斯かり(かかり)」の連体形、このような、こういう
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
おはしまし=サ行四段動詞「おはします」の連用形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。「おはす」より敬意が高い。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
けれ=詠嘆の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
(宮中のことを)見知っていない(私のような)里人の気持ちには、このような(すばらしい)方もこの世にはいらっしゃるのだなあと、
おどろか るるまでぞ、まもり 参らする。
おどろか=カ行四段動詞「驚く(おどろく)」の未然形、目を覚ます、起きる。はっと気づく。
るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。
自発:「~せずにはいられない、自然と~される」
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
まもり=ラ行四段動詞「守る(まもる)」の連用形、目を離さずに見る、じっと見つめる。
参らする=補助動詞サ行下二「参らす」の連体形、謙譲語。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。動作の対象である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
はっと気づかずにはいられないほど、お見つめ申し上げる。
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