「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら紫式部日記『日本紀の御局』解説・品詞分解(2)
読みし書など、いひけむ物、目にもとどめずなりて侍りしに、
(以前)読んだ漢籍などといったようなものには、目もとめなくなりましたのに、
いよいよ、かかること聞き侍りしかば、
ますます、このようなことを聞きましたので、
いかに人も伝へ聞きて憎むらむと、恥づかしさに、
どんなふうに人が伝え聞いて(私のことを)憎んでいるだろうと恥ずかしくて、
御屏風の上に書きたることをだに読まぬ顔をし侍りしを、
御屏風の上に書いてあることさえ読まないふりをしていましたのに、
宮の御前にて、文書の所々読ませ給ひなどして、
中宮(彰子)のおそばで、『白氏文集』のところどころを(中宮様が私に)読ませなさるなどして、
さるさまのこと知ろしめさまほしげに思いたりしかば、
そういう方面のこと(=漢詩文などのこと)をお知りになりたそうにお思いになっていたので、
いと忍びて、人の候は ぬもののひまひまに、をととしの夏ごろより、
たいへん人目を忍んで、(他の)人がお仕え申し上げていない合い間をぬって、おととしの夏ごろから、
楽府といふ書二卷をぞ、しどけなながら教へたて聞こえさせて侍る、隠し侍り。
『楽府』という本二巻を、いいかげんではあるが教え申し上げてございますのも、隠しております。
宮も忍びさせ給ひしかど、
中宮様も人目を忍んでいらっしゃいましたが、
殿も内裏も気色を知らせ給ひて、
(藤原道長)殿も帝もその様子をお知りになって、
御書どもをめでたう書かせ給ひてぞ、殿は奉らせ給ふ。
(書家に)漢籍などを立派に書かせなさって、道長殿は(中宮様に)差し上げなさる。
まことにかう読ませ給ひなどすること、
本当にこのように(中宮様が私に漢籍を)読ませなさったりなどすることは、
はた、かのものいひの内侍は、え聞かざるべし。
また、例の口うるさい左衛門の内侍は、聞く事ができないだろう。
知りたらば、いかにそしり侍らむと、
もし知ったならば、どんなに悪く言うでございましょうかと思うと、
すべて世の中ことわざしげく、憂き物に侍りけり。
すべて世の中の事はわずらわしく、つらいものでございますよ。
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