「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
まとめはこちら『虫めづる姫君』まとめ
この虫どもとらふる童べには、をかしきもの、かれが欲しがるものを賜へ ば、
をかしき=シク活用の形容詞「をかし」の連体形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招く(をく)」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。
賜へ=ハ行四段動詞「賜ふ・給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。お与えになる、下さる。動作の主体である虫めづる姫君を敬っている。地の文なので作者からの敬意
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
この虫どもを捕まえる子供達には、趣のある物や、その子が欲しがる物をお与えになるので、
さまざまにおそろしげなる虫どもをとりあつめて奉る。
奉る=ラ行四段動詞「奉る(たてまつる)」の終止形、「与ふ・贈る」の謙譲語。差し上げる、献上する。動作の対象である虫めづる姫君を敬っている。地の文なので作者からの敬意。
(子供達は)さまざまに恐ろしそうな虫を採集して(姫君に)差し上げる。
「かは虫は、毛などはをかしげなれ ど、おぼえね ば、 さうざうし。」とて、
をかしげなれ=ナリ活用の形容動詞「をかしげなり」の已然形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。美しい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
さうざうし=シク活用の形容詞「さうざうし」の終止形、なんとなく物足りない、心寂しい。
「毛虫は、毛などは趣深くて良いけれど、(毛虫に関する故事や詩歌が)思い浮かばないので、物足りない。」と(姫君は)言って、
いぼじり、かたつぶりなどをとりあつめて、歌ひののしら せて聞かせ 給ひて、
歌ひののしら=ラ行四段動詞の未然形、大声で歌い騒ぐ。
ののしる=ラ行四段動詞、大声で騒ぐ、大騒ぎする。
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ひ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である虫めづる姫君を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。
カマキリやカタツムリなどを採集して、(子供たちに)大声で歌い騒がせてお聞きになって、
われも声をうちあげて、「かたつぶりの、つのの、あらそふや、なぞ。」といふことをうち誦じ 給ふ。
や=疑問の係助詞
誦じ=サ変動詞「誦ず」の連用形、声に出して唱える。 「うち」は接頭語。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である虫めづる姫君を敬っている。作者からの敬意。
姫自身も声を上げて、「カタツムリの、角の、争うのは、なぜなのか。」というようなことを歌いなさった。
童べの名は、例のやうなるはわびしとて、
例=名詞、いつもの事、普段。当たり前の事、普通。
やうなる=比況の助動詞「やうなり」の連体形
わびし=シク活用の形容詞「侘びし(わびし)」の終止形、つらい、苦しい、悲しい。情けない、困ったことだ。
子供達の名前は、よくあるありきたりな名前なのはつまらないと言って、
虫の名をなむつけ給ひ たり ける。
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である虫めづる姫君を敬っている。作者からの敬意。
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。
虫の名前をお付けになった。
けらを、ひきまろ、いなかたち、いなごまろ、あまひこなどなむつけて、召し使ひ 給ひ ける。
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
召し使ひ=ハ行四段動詞「召し使ふ」の連用形、呼び寄せて雑用などをさせる。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である虫めづる姫君を敬っている。作者からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。
けらお、ひきまろ、いなかたち、いなごまろ、あまひこ、などと名付けて、召し使いなさった。