「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみは方丈記『大火とつじ風』(2)(治承の辻風)現代語訳
また、治承四年四月のころ、中御門京極のほどより、大きなる辻風おこりて、六条わたりまで吹けること侍り き。
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連用形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。
※「候(さぶら)ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
き=過去の助動詞「き」の終止形、接続は連用形
また、治承四年四月ごろ、中御門京極のあたりから、大きな竜巻が起こって、六条のあたりまで吹き抜けるということがありました。
三、四町を吹きまくる間に、こもれる家ども、大きなるも、小さきも、ひとつとして破れざるはなし。
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ざる=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
三、四町ほどの広範囲を激しく吹きたてる間に、巻き込まれた家々で、大きい家も小さい家も、一軒として破壊されないものはなかった。
さながら平に倒れたるもあり、桁・柱ばかり残れるもあり、
さながら=副詞、そのまま、もとのまま。すべて、全部
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
ばかり=副助詞、(限定)~だけ。(程度)~ほど・ぐらい。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続は連用形
そっくりそのままぺしゃんこに倒れた家もあれば、桁や柱だけが残っている家もあれば、
門を吹き放ちて四、五町がほかに置き、また垣を吹き払ひて隣とひとつになせ り。
なせ=サ行四段動詞「為す・成す」の已然形
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続は連用形
門を吹き飛ばして、四、五ほど町の離れた所に置き、また垣根を吹き払って、隣家と境をなくして一つにしてしまった(箇所もあった)。
いはむや、家のうちの資材、数を尽して空にあり。檜皮、葺板のたぐひ、冬の木の葉の風に乱るるがごとし。
いはむや=副詞、まして、なおさら
あり=ラ変動詞「あり」の終止形
乱るる=ラ行下二段動詞「乱る」の連体形
ごとし=比況の助動詞「ごとし」の終止形
(なので、)ましてや、家の中の家財道具などは、すべて空に舞い上がった。檜の皮・葺板(で作られた屋根)のたぐいは、冬の木の葉が風に乱れ散るようだった。
塵を煙のごとく吹き立てたれ ば、すべて目も見え ず。
ごとく=比況の助動詞「ごとし」の連用形
たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
見え=ヤ行下二動詞「見ゆ」の未然形、見える、分かる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
塵を煙のように吹きたてたので、全く目が見えない。
おびただしく鳴りとよむほどに、もの言ふ声も聞こえず。
おびただしく=シク活用の形容詞「おびただし」の連用形、ひどく、激しく
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
激しく鳴り響くので、ものを言う声も聞こえない。
かの地獄の業の風なりとも、かばかり に こそ はとぞ おぼゆる。
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
かばかり=副詞、これだけ、これほど、このくらい
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「あら(ラ変動詞・未然形)/め(推量の助動詞・已然形)」が省略されていると考えられる。
は=強調の係助詞
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
おぼゆる=ヤ行下二動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の連体形、自然に思われる、感じる、思われる。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここではおそらく「自発」の意味で使われている。
あの地獄に落ちた者の悪行に応じて吹くとされる風にしても、これぐらい(のひどさ)なのだろうと思われる。
家の損亡せ るのみにあらず、これを取り繕ふ間に、身を損なふ人、数も知らず。
損亡せ=サ変動詞「損亡す」の未然形。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。もう一つの「ず」は終止形。
家屋が損壊しただけではなく、これを修繕する間に、体を傷つけた人は数えきれない。
この風、未の方に移りゆきて、多くの人の嘆きなせ り。
なせ=サ行四段動詞「為す・成す」の已然形
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続は連用形
この風は、南南西の方角に移動して、多くの人々の嘆きとなった。
辻風は常に吹くものなれ ど、かかる事や ある。
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
ある=ラ変動詞「あり」の連体形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。
竜巻は常に吹くものであるが、このような(ひどい)ことがあろうか。
ただ事にあらず、さるべき もののさとし かなどぞ、疑ひ侍り し。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変は連体形)。直前の「さる」はラ変動詞「さり」の連体形であり、「さるべき」で「しかるべき」と言う訳になる。
諭し(さとし)=名詞、神仏などのお告げ。 「もののさとし」でも同じだと考えてよい。 「もの」は漠然としたものを指している。
か=疑問の係助詞
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。
※「候(さうらふ/さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
ただごとではなく、しかるべき神仏などのお告げだろうか、と疑いました。