「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら源氏物語『若紫』(3)問題
尼君、「いで、①あな幼や。②言ふかひなうものしたまふかな。
おのがかく今日明日におぼゆる命をば、何とも思したらで、すずめ慕ひ③たまふほどよ。
罪得ることぞと、常に④聞こゆるを、心憂く。」とて、「こちや」と言へば、ついゐたり。
面つきいと⑤らうたげにて、眉のわたりうちけぶり、⑥いはけなくかいやりたる額つき、髪(かん)ざし、いみじううつくし。
⑦ねびゆか⑧むさま⑨ゆかしき人かなと、目とまり⑩たまふ。
⑪さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似⑫たてまつれるが、⑬まもらるるなりけりと思ふにも、⑭涙ぞ落つる。
問題1.④聞こゆ、⑤らうたげなり⑥いはけなし、⑦ねびゆく、⑨ゆかし、⑪さるは、のここでの意味を答えよ。
④申し上げる
聞こゆる=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連体形、「言ふ」の謙譲語。申し上げる、差し上げる。動作の対象である若紫を敬っている。尼君からの敬意。
⑤かわいらしい様子である
らうたげに=ナリ活用の形容動詞「らうたげなり」の連用形、かわいらしい様子である
⑥子供っぽい・あどけない
いはけなく=ク活用の形容詞「幼けなし(いはけなし)」の連用形、子供っぽい、あどけない
⑦成長していく・大人になっていく
ねびゆか=カ行四段動詞「ねびゆく」の未然形、成長していく、大人になっていく
ねぶ=バ行上二段動詞、年を取る、ふける、大人びる
⑨見たい・心が惹かれる
ゆかしき=シク活用の形容詞「ゆかし」の連体形、心がひきつけられる、見たい、聞きたい、知りたい
⑪そうであるのは・それというのは・というのは
さるは=接続詞、そうであるのは、それというのは
問題2.⑧む、の助動詞の文法的意味として、「ア~ス」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.過去 イ.詠嘆 ウ.完了 エ.受身 オ.尊敬 カ.自発 キ.可能 ク.推量 ケ.意志 コ.婉曲 サ.推定 シ.伝聞 ス.存続
⑧コ.婉曲
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があり、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後にあるのが体言であれば婉曲になりがち。訳:「成長していく(ような)様子」
問題3.「③たまふ」、「④聞こゆる」、「⑩たまふ」、「⑫たてまつれ」の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のどれか)と誰から誰に対する敬意かを例にならって答えなさい。
【解答例;㊿参る:謙譲語・ア→オ】(謙譲語であり、清少納言に対する敬意が払われているということ)
ア.光源氏 イ.尼君 ウ.藤壺 エ.若紫 オ.惟光朝臣 カ.作者
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
③尊敬語・イ→エ
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である若紫を敬っている。尼君からの敬意。
④謙譲語・イ→エ
聞こゆる=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連体形、「言ふ」の謙譲語。申し上げる、差し上げる。動作の対象である若紫を敬っている。尼君からの敬意。
⑩尊敬語・カ→ア
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止系、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意
⑫謙譲語・カ→ウ
奉れ=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の已然形、謙譲語。動作の対象(似られている人)である藤壺を敬っている。作者からの敬意。
問題4.「①あな幼や」、「②言ふかひなうものしたまふかな」、の現代語訳を答えよ。
①なんとまあ幼いことよ・ああ幼いことだわ。
※あな+形容詞の語幹=感動文「ああ、~」
や=感動・感嘆の間投助詞
②聞き分けもなくていらっしゃるなぁ
言ふかひなう=ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形が音便化したもの、(幼く)わきまえがない、聞き分けがない。言っても仕方がない、言っても何にもならない。
ものし=サ変動詞「ものす」の連用形、ある、いる、行く、来る、生まれる、などいろいろな意味がある。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である若紫を敬っている。尼君からの敬意
かな=詠嘆の終助詞
問題5.「⑬まもらるるなりけり」を例にならって品詞分解し、説明せよ。また、現代語訳せよ。
例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形
品詞分解:「ま も ら/る る/な り/け り」
まもら=動詞・四段・未然形
るる=助動詞・自発・連体形
なり=助動詞・断定・連用形
けり=助動詞・詠嘆・終止形
まもら=ラ行四段動詞「守る(まもる)」の未然形、目を離さずに見る、じっと見つめる
るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。自発:「~せずにはいられない、自然と~される」
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
現代語訳:自然と見つめてしまうだなぁ
問題6.「⑭涙ぞ落つる」の理由を答えよ。
理由:最愛の人であり、かつ、かなわぬ恋の相手である藤壺の女御を、出会ったばかりの少女に無意識に重ね合わせてしまったから。