古文

徒然草『世に語り伝ふること』解説・品詞分解

作品詳細

成立:鎌倉時代後期

ジャンル:随筆(ずいひつ)

作者:兼好(けんこう)法師(ほうし)吉田(よしだ)兼好(けんこう)卜部(うらべ)兼好(けんこう)

本文と解説

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」という色分けをしています。

 

原文・解説・現代語訳

世に語り伝ふること、まことはあいなき  、多くは皆虚言(そらごと)なり

 

あいなき=ク活用の形容詞「あいなし」の連体形、わけもなく。つまらない。気に食わない。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あら(ラ変・未然形)む(推量の助動詞・連体形)」などが省略されていると考えられる。係り結びの省略。

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」などが省略されている。訳は「~であろうか/~だったのであろうか」など。

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」などが省略されている。訳は「~であろう/~でしょう(丁寧語)/~だったのであろう」など。

 

そらごと(嘘言/空言)=名詞、うそ、事実ではないこと、虚言。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形。

 

世に語り伝えることは、本当のことはつまらないのであろうか、多くは皆ウソである。

 

 

あるにも過ぎて人は物を言ひなす 、まして、年月過ぎ、境も隔たりぬれ 

 

ある=ラ変動詞「あり」の連体形。直後に「こと」などといった体言が省略されているため連体形となっている。(実際に)あること。

 

言ひなす=サ行四段動詞「いひなす(言ひ倣す/言ひ成す)」の連体形、ことさらに強調して言う。言い紛らわす、言いつくろう。

 

に=接続助詞、活用語の連体形につく。

 

ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形。

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

実際以上に人は物事をことさらに言う上に、まして、年月が過ぎ、場所も離れてしまうと、

 

 

言ひたきままに語りなして、筆にも書きとどめぬれ やがてまた定まり

 

ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

やがて=副詞、すぐに。そのまま。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

言いたいままに作り語って、筆にも書きとどめてしまので、そのままやはり(本当の話として)定まってしまう。

 

 

道々の物の上手のいみじきことなど、かたくななる、その道知らは、そぞろに神のごとくに言へども

 

いみじき=シク活用の形容詞「いみじ」の連体形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

かたくななる=ナリ活用の形容動詞「かたくななり」の連体形、頑固だ、物の情趣を理解しない。教養がない、愚かである。

 

の=格助詞、用法は同格。「で」に置き換えて訳すと良い。「かたくななる人、その道知らぬは、」→「教養がない人、その道を知らないは、」

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。

 

そぞろに=ナリ活用の形容動詞「そぞろなり」の連用形、むやみだ、やたらだ。なんということがない。無関係だ、筋違いだ。

 

ごとくに=比況の助動詞「ごとくなり」の連用形。

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

それぞれの専門の道(=学問や芸能など)の名人のすばらしいことなどを、教養がない人で、その道を知らない人は、むやみやたらに神のように言うけれども、

 

 

道知れ人はさらに信もおこさ

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。

 

さらに=副詞、新たに、改めて。その上、さらに。下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形。

 

その道を知っている人はまったく信じる気も起こさない。

 

 

に聞くと見る時とは、何ごとも変はるものなり

 

音=名詞、物音。声。訪問、たより。うわさ、評判

音に聞く=うわさに聞く。有名である。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形。

 

うわさに聞く時と(実際に)見る時とでは、何事も違うものである。

 

 

かつ顕るるをも顧み、口にまかせて言ひ散らすは、やがて浮きたることと聞こゆ

 

かつ=副詞、すぐに。一方では、次から次へと。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

言ひ散らす=サ行四段、言いふらす

散らす=補助動詞サ行四段、荒々しく…する、むやみに…する、荒々しく…する

 

やがて=副詞、すぐに。そのまま。

 

浮きたる=連語、根拠のない

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。

 

聞こゆ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の終止形、「言ふ」の謙譲語。申し上げる。分かる、理解できる。聞こえる。

 

すぐに(ウソだと)人に知られるのも気にせず、口から出まかせに言い散らすのは、すぐに根拠のないことだと分かる。

 

 

また、我もまことしから は思ひながら、人の言ひままに、鼻のほどおごめきて言ふは、その人の虚言にはあら

 

まことしから=シク活用の形容詞「まことし(誠し・真し)」の未然形、誠実だ、真面目だ。本当だ。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

おごめき=カ行四段動詞「おごめく(蠢く)」の連用形、うごめく、ぴくぴくと動く。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形。

 

また、自分も本当らしくないとは思いながら、人が言った通りに、鼻のあたりがピクピク動いて言うのは、その人の(作った)ウソではない。

 

 

げにげにしく、ところどころうちおぼめき、よく知ら よしして、

 

げにげにしく=シク活用の形容詞「げにげにし(実に実にし)」の連用形、もっともだ、納得がいく。もっともらしい、まことしやかだ。実直だ、まじめだ。

 

うちおぼめき=カ行四段動詞「うちおぼめく」の連用形。「うち」は接頭語、「ちょっと・すこし」などの意味があるが、あまり気にしなくてもよい。

おぼめく=カ行四段動詞、ぼかす、よく分からないふりをする、とぼける。まごつく、よく分からなくなる。不審に思う。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

よし(由)=名詞、旨、趣旨、事情

 

もっともらしく、ところどころを少しぼかして、よく知らないふりをして、

 

 

さりながら、つまづまあはせて語る虚言は、おそろしきことなり

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形。

 

そうではあるが、話のはしばしを合わせて語るウソは、(本当っぽくて騙されてしまいそうなので)恐ろしいことである。

 

 

わがため面目あるやうに言は ぬるそらごとは、人いたくあらがは

 

やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形。接続は連体形・格助詞の「の」。ようである

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形。

 

いたく=ク活用の形容詞「いたし」の連用形、良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形。

 

自分のために名誉があるように言われたウソは、人はたいして抵抗しない。

 

 

皆人の興ずる虚言は、ひとり「もなかり ものを。」と言は詮なくて、

 

興ずる=サ変動詞「興ず」の連体形、面白がる、興じる。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「心す」、「御覧ず」

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。

 

ものを=詠嘆の終助詞、接続は連体形。~のになあ、~のだがなあ

 

ん=仮定の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。あとは文脈判断であるが、直後に体言が来ると婉曲になりがちであり、そうでないなら仮定の可能性が高い。婉曲とは遠回しな表現。

訳:「と言ったとしても(そのようなことは)仕方がないので、」

 

栓なく=ク活用の形容詞「栓無し(せんなし)」連用形、仕方がない、無益だ。

 

全ての人が面白がるウソは、一人「そうでもなかったのになあ。」と言ったとしても仕方がなくて、

 

 

聞きゐたるほどに、証人にさへなさて、いとど定まり べし

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。

 

さへ=副助詞、~までも。 「だに」「すら」は「さえ」、「さへ」は「までも」と訳すと覚えてしまおう。

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに。

 

ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる

 

べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

聞いているうちに、(その話がウソではないという)証人にまでもされて、いよいよ(本当の話として)定まってしまうだろう。

 

 

とにもかくにも、虚言多き なり

 

世の中=名詞、世の中、世間、社会。現世、この世。時代。男女の仲。 ここでは世の中という意味でよいが、「男女の中」という意味があることは受験のために覚えておきましょう。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形。

 

いずれにしても、ウソが多い世の中である。

 

 

ただ、常にある、めづらしから事のままに心得 たら よろづ違ふべから 

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。

 

心得(こころえ)=ア行下二段動詞「心得(こころう)」の連用形。心得る、(事情などを)理解する。ア行下二段動詞は「得・心得・所得」だけのはずなので覚えておいた方がよい。

 

たら=存続の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形

 

ん(む)=仮定の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。訳:「(もしも)理解しているようなら、」

 

よろづ(万)=名詞、すべてのこと、あらゆること。

 

べから=当然の助動詞「べし」の未然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

ただ、普通にある、珍しくもないことの通りに理解しているようなら、万事間違えるはずはない。

 

 

下ざまの人の物語は、耳驚くことのみあり。よき人はあやしきことを語ら

 

驚く=カ行四段動詞「驚く(おどろく)」の連体形、目を覚ます、起きる。はっと気づく。驚く。

 

あやしき=シク活用の形容詞「怪し・奇し/賤し(あやし)」の連体形、不思議だ、変だ。/身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい。  「身分が低い」という意味があることに気を付けましょう。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

下々の人(=身分の低い教養のない人)の話は、聞いておどろくことばかりがある。身分の高く教養のある人は不思議なことを語らない。

 

 

かくは言へ、仏神の奇特、権者の伝記、のみ信ぜ ざる べきにもあら

 

かく(斯く)=副詞、こう、このように

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形に付く。

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

信ぜ=サ変動詞「信ず」の未然形、信じる。

 

ざる=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

こうは言うけれども、仏や神の霊験や、仏や神が人間の姿で現れたものの伝記は、そうむやみに信じないのがよいというものでもない。

 

 

これは、世俗の虚言をねんごろに 信じ たるをこがましく、「よもあら。」など言ふも詮なけれ 

 

ねんごろに=ナリ活用の形容動詞「懇ろなり(ねんごろなり)」の連用形、親切なさま、熱心なさま

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

をこがましく=シク活用の形容詞「痴がまし(をこがまし)」の連用形、ばからしい、あほらしい、みっともない。さしでがましい、出過ぎた様子だ。

 

よも=副詞、下に打消推量の助動詞「じ」を伴って、「まさか~、よもや~、いくらなんでも~」。

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

栓なけれ=ク活用の形容詞「栓無し(せんなし)」の已然形、仕方がない、無益だ。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

これは世間のウソを心の底から信じているのもばからしく、「まさかないだろう。」などと言うのも仕方がないので、

 

 

おほかたはまことしくあひしらひて、ひとへに 信ぜ 、また疑ひあざけるべから 

 

おほかた=副詞、だいたい、およそ。一般に

 

あひしらひ=ハ行四段動詞「あひしらふ」の連用形、ほどよく受け答えをする、対応する。

 

ひとへに=副詞、ひたすら、一途に

 

信ぜ=サ変動詞「信ず」の未然形、信じる。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

べから=適当の助動詞「べし」の未然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形。

 

だいたいは本当らしく応対して、一途に信じず、また疑ってばかにしてはならない。

 

 

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