古文

西鶴諸国ばなし『大晦日は合はぬ算用』(3)解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

③武士道とは、腹切りを救うために差し出された小判を元の持ち主が誰なのか判明しないように工夫して返還すること

西鶴諸国ばなし『大晦日は合はぬ算用』まとめ

 

 

亭主申すは、「九両の小判、十両の(せん)()するに、十一両になること、座中金子を持ち合はせられ

 

申す=サ行四段動詞「申す」の連体形、「言ふ」の謙譲語

 

られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。

 

亭主(=原田内助)が申すには、「九両の小判が、十両(あったはずだと)の詮議をしているうちに、十一両になったということは、この場の誰かが金子を持ち合わせておられて、

 

 

最前の難儀を救はために、御()だしありは疑ひなし。

 

ん=意志の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

先ほどの難儀を救うために、お出しになったということで疑いない。

 

 

この一両わがかたに、(おさ)べき用なし。御(ぬし)へ返したし。」と聞くに、

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

たし=願望の助動詞「たし」の終止形、接続は連用形

 

この一両を私の手元に納めるべき理由がない。持ち主へ返したい。」と(客の皆に)聞くが、

 

 

だれ返事のしてもなく、一座異なものになりて、()(ふけ)(どり)も鳴く時なれ ども、おのおの立ちかね られ に、

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

立ちかね=ナ行下二段動詞「立ち兼ぬ」の連用形、立ち(連用形)に接尾語「かぬ」が付いたもの。「かぬ」が付くと「~できない・~するのが難しい」の意味が加わる。現代で「~しかねます。」と言ったりするのと同じものである。

 

られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

誰も返事をする人もなく、一座の雰囲気が変なものになって、夜更鳥も鳴く時刻であるけれども、おのおの帰りづらくなられて、

 

「このうへは、亭主が所存(しょぞん)の通りにあそばさ 給はれ。」と願ひに、

 

あそばさ=サ行四段動詞「遊ばす」の未然形、サ変動詞「す」の尊敬語、なさる、なさいます。(詩歌や管弦などを)なさる。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。

 

給はれ=補助動詞ラ行四段「給はる(たまはる)」の命令形、尊敬語。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

(内助が、)「この上は、亭主(=私)の考えのとおりになさってください。」と願ったところ、

 

 

「とかくあるじの心まかせに。」と申さ  けれ かの小判を(いっ)(しょう)(ます)に入れて、庭の(ちょう)()(ばち)の上に置きて、

 

申さ=サ行四段動詞「申す」の未然形、「言ふ」の謙譲語

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

彼の(かの)=あの、例の。「か(代名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する

 

(客人が、)「とにかく亭主の思うがままに。」と申されたので、(内助は)あの小判を一生枡に入れて、庭の手水鉢の上に置いて、

 

 

「どなたても、この金子の主、取ら られて、御帰り給はれ。」と、

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「られ」と合わせて二重敬語となっている。

 

られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。

 

給はれ=補助動詞ラ行四段「給はる(たまはる)」の命令形、尊敬語。

 

「どなたであっても、この金子の持ち主が、お取りになって、お帰りください。」と(言って)、

 

御客一人づつ立た まして、一度一度に戸をさしこめて、七人を七度に出だして、

 

し=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。使役・尊敬の助動詞「す」は基本的には下二段活用だが、このようにごくまれにサ変のときもある。でも、使役・尊敬の助動詞「す」は下二段だと思っといた方がいいよ。

 

まし=謙譲or丁寧の助動詞「ます」の連用形、接続は連用形

 

お客を一人ずつ立たせまして、一回ごとに戸を閉めて、七人を七回に分けて送り出して、

 

 

そののち内助は、()(しょく)ともして見るに、誰とも知れ、取つて帰り

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

その後内助は、手燭をともして(一生枡を)見ると、誰とも知れず、(小判を)取って帰っていた。

 

 

あるじ即座の分別、座なれたる客のしこなし、かれこれ武士のつき合ひ、格別 かし

 

分別(ふんべつ)=名詞、機知、その場に応じて正しく判断すること

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

ぞ=強調の係助詞

 

かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。

 

亭主の即座の機知、座なれた客の振る舞い、あれもこれも武士の付き合い(というものは)、格別なものであるよ。

 

 

西鶴諸国ばなし『大晦日は合はぬ算用』まとめ

 

 

 

-古文