「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
今=副詞
は=係助詞
渡ら=ラ行四段動詞「渡る」の未然形
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮(=明石の姫君)を敬っている。紫の上からの敬意。
給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
ね=強意の助動詞「ぬ」の命令形、接続は連用形。
乱り心地=名詞
いと=副詞
苦しく=シク活用の形容詞「苦し」の連用形
なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形
侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である中宮(=明石の姫君)を敬っている。紫の上からの敬意。
※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
「今は渡らせ給ひね。乱り心地いと苦しくなり侍りぬ。
(紫の上は、)「もうお帰りください。(病気のせいで)気分がたいそう苦しくなってきました。
言ふかひなく=ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形、(幼く)わきまえがない、聞き分けがない。言っても仕方がない、言っても何にもならない、どうしようもない。
なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
ほど=名詞
と=格助詞
言ひ=ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。
①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで
②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」
③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中
言ふかひなくなりにけるほどと言ひながら、
どうしようもなくなってしまったほどの状態とは言うものの、
いと=副詞
なめげに=ナリ活用の形容動詞「無礼げなり(なめげなり)」の連用形、無礼だ、失礼だ。
侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手である中宮(=明石の姫君)を敬っている。紫の上からの敬意。
や=間投助詞
と=格助詞
て=接続助詞
いとなめげに侍りや。」とて、
(皆の前で横になるのは、)大変失礼でございますよ。」と言って、
御几帳(みきちょう)=名詞
引き寄せ=サ行下二段動詞「引き寄す」の連用形
て=接続助詞
臥し=サ行四段動詞「臥す(ふす)」の連用形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
さま=名詞
の=格助詞
常=名詞
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
も=係助詞
いと=副詞
頼もしげなく=ク活用の形容詞「頼もしげなし」の連用形
見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
御几帳引き寄せて臥し給へるさまの、常よりもいと頼もしげなく見え給へば、
御几帳を引き寄せて横になられている様子が、いつもよりとても頼りなさそうにお見えなので、
いかに=副詞、どんなに、どう。「いかに」の中には係助詞「か」が含まれていて係り結びが起こる。
思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。中宮(=明石の姫君)からの敬意。
るる=尊敬の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。ここでは文脈判断。動作の主体である紫の上を敬っている。中宮(=明石の姫君)からの敬意。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
か=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「侍る(ラ変・連体形)」などが省略されていると考えられる。係り結びの省略。
※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。
「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など
「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など
「にや(侍る)。」→「~でございますか。」
と=格助詞
て=接続助詞
「いかに思さるるにか。」とて、
「お体の具合はどうでございますか。」とおっしゃって、
宮=名詞
は=係助詞
御手=名詞
を=格助詞
とらへ=ハ行下二段動詞「捉らふ・捕らふ(とらふ)」の連用形
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
て=接続助詞
泣く泣く=副詞
見=マ行上一段動詞「見る」の連用形
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である中宮(=明石の姫君)を敬っている。作者からの敬意。
に=接続助詞
宮は、御手をとらへ奉りて、泣く泣く見奉り給ふに、
中宮は、(紫の上の)お手をお取りして、泣きながら拝見なさると、
まことに=副詞
消えゆく=カ行四段動詞「消えゆく」の連体形
露(つゆ)=名詞
の=格助詞
心地し=サ変動詞「心地す」の連用形。 「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
て=接続助詞
限り=名詞
に=格助詞
見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
御誦経(みずきょう)=名詞
の=格助詞
使ひども=名詞
数=名詞
も=係助詞
知ら=ラ行四段動詞「知る」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。
立ち騒ぎ=ガ行四段動詞「立ち騒ぐ」の連用形
たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形
まことに消えゆく露の心地して、限りに見え給へば、御誦経の使ひども、数も知らず立ち騷ぎたり。
本当に消えゆく露のような感じがして、命の終わりのように見えなさるので、御誦経の使者たちが、大勢立ち騷いでいる。
※御誦経=当時は病気などになった際には加持祈祷が行われた。そのための誦経
先ざき=名詞
も=係助詞
かくて=副詞、このようにして、こうして
生き出で=ダ行下二段動詞「生き出づ」の連用形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節
に=格助詞
ならひ=ハ行四段動詞「習ふ(ならふ)」の連用形
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。
て=接続助詞
先ざきも、かくて生き出で給ふ折にならひ給ひて、
以前も(物の怪のしわざで死ぬ間際に)、このようにして生き返りなさった時に(光源氏は)ならいなさって、
御物の怪(おんもののけ)=名詞
と=格助詞
疑ひ=ハ行四段動詞「疑ふ」の連用形
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。
て=接続助詞
夜一夜(よひとよ)=名詞、一晩中。対義語「日一日(ひひとひ)」。副詞ではあるが「夜(よ)もすがら」=「一晩中」というのもある。「夜もすがら」⇔「日もすがら」
さまざま=名詞
の=格助詞
こと=名詞
を=格助詞
し尽くさ=サ行四段動詞「し尽くす(しつくす)」の未然形
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
御物の怪と疑ひ給ひて、夜一夜さまざまのことをし尽くさせ給へど、
御物の怪のしわざかと疑いなさって、一晩中さまざまなこと(=加持祈祷など)をさせ尽くしなさったけれど、
かひ(甲斐・効)=名詞、効果、効き目。
も=係助詞
なく=ク活用の形容詞「無し」の連用形
明け果つる=タ行下二段動詞「明け果つ(あけはつ)」の連体形
ほど=名詞
に=格助詞
消え果て=タ行下二段動詞「消え果つ(きえはつ)」の連用形
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
かひもなく、明け果つるほどに消え果て給ひぬ。
そのかいもなく、夜が明けきる頃にお亡くなりになった。