「青=現代語訳」
京=名詞
に=格助詞
入り立ち=タ行四段「入り立つ」の連用形、深く入る、「入る」を強調した言葉
て=接続助詞、現代と同じ用法。
うれし=シク活用の形容詞「うれし」の終止形、うれしい。
家=名詞
に=格助詞
至り=ラ行四段動詞「至る」の連用形、着く。
て=接続助詞
門=名詞
に=格助詞
入る=ラ行四段動詞「入る」の連体形、直後に接続助詞「に」があるため連体形。
に=接続助詞、接続(直前の用言の活用形)は連体形、「~したところ・~すると」
京に入り立ちてうれし。家に至りて、門に入るに、
京に入ってうれしい。家に着いて、門に入ると、
月=名詞
明かけれ=ク活用の形容詞「明かし」の已然形、明るい。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
いと=副詞
よく=ク活用の形容詞「良し」の連用形、対義語は「悪し(あし)」。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。
ありさま=名詞
見ゆ=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の終止形、見える、分かる、思われる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
月明かければ、いとよくありさま見ゆ。
月が明るいので、たいそうよく辺りの様子が見える。
聞き=カ行四段動詞「聞く」の連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。連体形であるのは直後に「話・噂・事など」が省略されていると考えられる、「聞いていたこと」
より=格助詞
も=係助詞
まし=サ行四段動詞「増す」の連用形
て=接続助詞
言ふかひなく=ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形、言っても何にもならない、言いようもない。
ぞ=強調の係助詞、結び(文末)は連体形となる。係り結び。強調の意味は訳す際にあまり考慮しなくてよい。
こぼれ破れ=ラ行下二段動詞「こぼれ破る(やる)」の連用形、壊れていたんでいる。
毀る(こぼる)=ラ行下二段動詞、壊れる、破れる、くずれる。
破れ=ラ行下二段動詞、壊れる、破れる。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
聞きしよりもまして、言ふかひなくぞこぼれ破れたる。
聞いていた話よりもずっと、言いようもなく壊れいたんでいる。
家=名詞
に=格助詞、家に預けるというと変ですが、家を預けるという意味だと思ってください。
預け=カ行下二段動詞「預く」の連用形
たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
人=名詞
の=格助詞
心=名詞
も=係助詞
荒れ=ラ行下二段動詞「荒る」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
家に預けたりつる人の心も、荒れたるなりけり。
(この様子だと家だけではなく)家を預けていた人の心も、荒れているのだなあ。
中垣=隣家との境に設けた垣根
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。ここでは逆接強調法。
逆接強調法「こそ ~ 已然形、」→「~だけれど、(しかし)」
普通の係り結びは結び(文末)が已然形となるため、「こそ ~ 已然形。」となるが、
逆接強調法のときは「こそ ~ 已然形、」となり、「、(読点)」があるので特徴的で分かりやすい。
あれ=ラ変動詞「あり」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
一つ家=名詞
の=格助詞
様(やう・よう)=名詞
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
望み=マ行四段動詞「望む」の連用形
て=接続助詞
預かれ=ラ行四段動詞「預かる」の已然形
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
中垣こそあれ、一つ家のやうなれば、望みて預かれるなり。
(家の管理を頼んだ相手の家との間に)隔ての垣根はあるが、一つの屋敷のようなものだから、(相手の方から預かりましょうと)望んで預かったのである。
さるは=接続詞、それにしても、それなのに、そうではあるが、そうであるのは
便りごと=名詞、機会のあるたび。 便り=機会
に=格助詞
物=名詞
も=係助詞
絶えず=副詞、絶えることなく
得(え)=ア行下二段動詞「得(う)」の未然形。ア行下二段活用の動詞は「得(う)」・「心得(こころう)」・「所得(ところう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
させ=使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形
さるは、便りごとに物も絶えず得させたり。
それなのに、機会のあるたびに贈り物を(管理のお礼として)絶えずあげてきたのだ。
今宵(こよい)=名詞
かかる=連体詞、このような、こういう
こと=名詞、①事柄、②(文の末尾に「こと」を置いて感動の意を表す)…であることよ、・・・だなあ
と=格助詞
声高に=ナリ活用の形容動詞「声高なり」の連用形、大声で。
もの=名詞
も=係助詞
言は=ハ行四段動詞「言ふ」の未然形
せ=使役の助動詞「す」の未然形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
今宵、「かかること。」と、声高にものも言はせず。
(しかし、)今夜は、「このような有様は(どういうことだ。ひどい)。」と、(従者たちに対して)大声で言わせない。
いと=副詞、たいそう、とても、非常に
つらく=ク活用の形容詞「つらし」の連用形、薄情だ。耐え難い、心苦しい。
見ゆれ=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の已然形、見える、分かる、思われる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
ど=逆接の接続助詞、接続は已然形
志(こころざし)=名詞、誠意、物を送ること、贈り物
は=係助詞
せ=サ変動詞「す」の未然形、直後に推量(ここでは意志)の助動詞「む」の直前に来ているので未然形になっている
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。終止形なのは直後に句点が省略されているから。(「志はせむ。」とす。)。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と=格助詞
す=サ変動詞「す」の終止形
いとはつらく見ゆれど、志はせむとす。
とても薄情だと思われるけれど、お礼はしようと思う。
さて=接続詞、(話題を変えるときに、文頭において)さて、そして、ところで、それで、そこで。
池めい=カ行四段動詞「池めく」の連用形が音便化したもの、池のようになる。連用形は「池めき」だが音便化して「池めい」となっている
て=接続助詞
くぼまり=ラ行四段動詞「くぼまる」の連用形、周囲より低くなる、へこむ
水つけ=カ行四段動詞「水漬く」の已然形、水に浸る、水けを含む。直後に完了・存続の助動詞があるため已然形となっている。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。連体形であるのは直後に体言が来ているから。体言に連なる形=連体形
所=名詞
あり=ラ変動詞「あり」の終止形
さて、池めいてくぼまり、水つける所あり。
さて、池のようになってくぼまり、水がたまっているところがある。
ほとり=名詞
に=格助詞
松=名詞
も=係助詞
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
き=過去の助動詞「き」の終止形、接続は連用形
五年(いつとせ)=名詞
六年(むとせ)=名詞
の=格助詞
うち=名詞
に=格助詞
千年(ちとせ)=名詞
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
過ぎ=ガ行上二段動詞「過ぐ」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。
かたへ=名詞、片側、片方、一部分
は=係助詞
なくなり=ラ行四段動詞「なくなる」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
ほとりに松もありき。五年六年のうちに、千年や過ぎにけむ、かたへはなくなりにけり。
(池の)ほとりに松もあった。五年、六年の間に、千年もたってしまったのだろうか、片側はなくなってしまっていた。
今=名詞
生ひ=ハ行上二段動詞「生ふ(おふ)」の連用形、生える、生ずる
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。完了か存続の意味かは文脈判断。直後に物・枝が省略されているため連体形となっている。「生えた枝」
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形。係り結び。
交じれ=ラ行四段動詞「交じる」の已然形、ここでは直後に存続の助動詞「り」があるため已然形となっている
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
今生ひたるぞ交じれる。
最近生えた枝が交じっている。
大方(おほかた)=副詞、だいたい、一般に、およそ、
の=格助詞
みな=副詞
荒れ=ラ行下二段動詞「荒る」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
たれ=存続の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
あはれ=感嘆詞、「ああ」
と=格助詞
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。ここでは「言ふ(連体形)」が結びとなっている。係り結び。
人々=名詞
言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
大方のみな荒れにたれば、「あはれ。」とぞ人々言ふ。
およそ全体が荒れてしまっているので、「ああ(、なんてひどいこと)。」と人々が言う。
思ひ出で=ダ行下二段動詞「思ひ出づ」の未然形、思い出す。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
こと=名詞
なく=ク活用の形容詞「無し」の連用形
思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
恋しき=シク活用の形容詞「恋し」の連体形。直後に事が省略されている。「恋しき(事)がうち」
が=格助詞
うち=名詞
に=格助詞 「恋しきがうち」=恋しく思うことの中に。
思ひ出でぬことなく、思ひ恋しきがうちに、
(そういったものなど見て)思い出さないことはなく、恋しく思うことの中に、
こ=代名詞
の=格助詞
家=名詞
にて=格助詞
生まれ=ラ行下二段動詞「生まる」の連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
女子=名詞
の=格助詞
もろともに=副詞、いっしょに
帰ら=ラ行四段動詞「帰り」の未然形
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
いかが=副詞、どんなに…か。「いかが」には係助詞「か」が含まれており、係り結びがおこっている。結びは連体形で「かなしき(シク活用の形容詞・連体形)」の部分である。
は=係助詞
悲しき=シク活用の形容詞「悲し」の連体形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。
この家にて生まれし女子の、もろともに帰らねば、いかがは悲しき。
この家で生まれた女の子(=土佐へ赴任する時に連れて行った作者の娘)が一緒に帰らないので、どんなに悲しいことか。
船人(ふなびと)=名詞
も=係助詞
みな=副詞
子=名詞
たかり=ラ行四段動詞「たかる」の連用形、寄り集まる。
て=接続助詞
ののしる=ラ行四段動詞「ののしる」の終止形、大声で騒ぐ、やかましく音を立てる。現代語では「罵倒する」だが、そうではないので注意
船人もみな、子たかりてののしる。
舟に乗っていた他の人もみんな、子供が寄り集まって大声で騒いでる。
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
うち=名詞
に=格助詞
なほ=副詞、やはり、それでもやはり
悲しき=シク活用の形容詞「悲し」の連体形
に=格助詞
耐へ=ハ行下二段動詞「耐ふ」の未然形、我慢する、こらえる。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
して=接続助詞
ひそかに=ナリ活用の形容動詞「ひそかなり」の連用形、こっそり。作者(=紀貫之)はここで、喜んでいる周りの人たちに遠慮しているということが分かる。
心知れる人=気心の知れている人、ここでは紀貫之の妻を意味している。
「心知れる人」の「る」は存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
と=格助詞
言へ=ハ行四段動詞「言ふ」の已然形
り=完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
歌=名詞
かかるうちに、なほ悲しきに耐へずして、ひそかに心知れる人と言へりける歌、
こうしているうちに、やはり(娘を失った)悲しい思いに耐えられないで、ひそかに気心の知れた人(=作者の妻)と詠んだ歌、
生まれ=ラ行下二段動詞「生まる」の連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。直後に「子」が省略されていて「生まれた子」となる
も=係助詞
帰ら=ラ行四段動詞「帰る」の未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ものを=逆接の接続助詞、「~のに」。「もの」がつく接続助詞はほぼ逆接の意味となり、たまに順接・詠嘆の時がある
わ=代名詞
が=格助詞
宿=名詞
に=格助詞
小松=こまつの「こ」は「子」と「小」をかけている。掛詞。自分の子は亡くなっていないのに、小松はあるので、見ると思い出して悲しいということを意味している。
※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。
の=格助詞
ある=ラ変動詞「あり」の連体形
を=格助詞
見る=マ行上一段動詞「見る」の連体形
が=格助詞
悲しさ=名詞
生まれしも 帰らぬものを わが宿に 小松のあるを 見るが悲しさ
(この家で)生まれた子も帰ってこないのに、我が家に(新しく生えている)小松があるのを見るのは悲しいことだ。
と=格助詞
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
言へ=ハ行四段動詞「言ふ」の已然形
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
なほ=副詞、やはり、それでもやはり
飽か=カ行四段「飽く」の未然形、満足する、あきあきする
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
また=副詞
斯く(かく)=副詞、こう、このように。
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となるが、直後に「言へる・詠める」が省略されていると考えられる。係り結びの省略。下線部の「る」が結びの部分であり、完了の助動詞「り」の連体形である
とぞ言へる。なほ飽かずやあらむ、また、かくなむ。
と詠んだ。それでもやはり満足しないのであろうか、また、このように詠んだ。
見し人=亡くなった人、生き別れした人、ここではなくなった娘を意味している。
「見し人」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
の=格助詞
松=名詞
の=格助詞
千年(ちとせ)=名詞
に=格助詞
見=マ行上一段動詞「見る」の未然形
ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。事実とは反する仮定(仮想)を表す。「ましかば~まし。」あるいは「せば~まし。(「せ」は過去の助動詞「き」の未然形)」、「未然形+ば~まし」という形で反実仮想として使われる。
ば=接続助詞、直前に未然形がくると④仮定条件の意味であるが、ここは反実仮想
遠く=ク活用の形容詞「遠し」の連用形
悲しき=シク活用の形容詞「悲し」の連体形
別れ=名詞
せ=サ変動詞「す」の未然形、する。「することがあっただろうか。」
まし=反実仮想の助動詞「まし」の終止形、接続は未然形
や=反語の助動詞。結びは連体形となるが、直後に「ありけむ」が省略されている。「あっただろうか。(いや、なかっただろう。)」。「あり(ラ変動詞・連用形)/けむ(過去推量の助動詞・連体形)」
見し人の 松の千年に 見ましかば 遠く悲しき 別れせましや
亡くなった娘を、千年もの寿命がある松のように(生きながらえて)見ることができたなら、どうして遠い土佐での悲しい別れをすることがあっただろうか。(いや、なかっただろう。)
忘れ難く=ク活用の形容詞「忘れ難し」の連用形
口惜しき=シク活用の形容詞「口惜し」の連体形、残念だ、悔しい。
こと=名詞
多かれ=ク活用の形容詞「多し」の已然形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない。」
尽くさ=サ行四段動詞「尽くす」の未然形、全部を出す、ある限り出しきる。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
忘れ難く、口惜しきこと多かれど、え尽くさず。
忘れられず、残念なことが多いけれど、書き尽くすことができない。
とまれかうまれ=ともかく。何はともあれ。一応「とまれ(副詞)・かう(副詞「かく」の音便化)・あれ(動詞)」と品詞分解される。
とく=ク活用の形容詞「疾し(とし)」の連用形、早い、速い。
破り=ラ行四段動詞「破る(やる)」の連用形、破る、こわす。
て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
とまれかうまれ、とく破りてむ。
ともかく、(この日記は)早く破ってしまおう。
※最後の「早く破ってしまおう」というのは、謙遜であって、作者(=紀貫之)は初めから他人に見せるつもりで書いているので、本気で日記を破ろうとは思っていない。