「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら大鏡『花山院の出家』現代語訳(2)(3)
さて、土御門より東ざまに率て出だし参らせ 給ふに、
さて=接続詞、(話題を変えるときに、文頭において)さて、そして、ところで、それで、そこで。
より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
率(ゐ)=ワ行上一段動詞「率る(ゐる)」の連用形。率(ひき)いる、引き連れていく。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。
参らせ=補助動詞サ行下二「参らす」の連用形、謙譲語。動作の対象である花山院を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である粟田殿(=藤原道兼)を敬っている。作者からの敬意。
さて、(粟田殿は花山院を)土御門から東の方にお連れ出し申し上げなさるが、
晴明が家の前を渡らせ 給へ ば、みづからの声にて、手をおびただしく、はたはたと打ちて、
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である花山院を敬っている。作者からの敬意。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
おびたたしく=シク活用の形容詞「おびたたし」の連用形、ひどく、激しく
(陰陽師の安倍)晴明の家の前をお通りになると、(清明)自身の声で、手を激しく、ぱちぱちとたたいて、
「帝王おり させ 給ふと見ゆる天変あり つるが、
おり=ラ行上二段動詞「下る(おる)」の連用形
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である花山院を敬っている。晴明からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。
見ゆる=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連体形、見える、分かる、思われる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
「帝(=花山院)がご退位なさると思われる天の異変があったが、
すでになり に けりと見ゆる かな。
なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
見ゆる=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連体形、見える、分かる、思われる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
かな=詠嘆の終助詞
すでに成ってしまったと思われることだよ。
参りて奏せ む。車に装束 とう せよ。」
参り=ラ行四段動詞「参る(まいる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である花山院を敬っている。晴明からの敬意。
奏せ=サ変動詞「奏す(そうす)」の未然形、「言ふ」の謙譲語。絶対敬語と呼ばれるもので、「天皇・上皇」に対してしか用いない。よって、花山院を敬っている。晴明からの敬意。
訳:「天皇(あるいは上皇)に申し上げる」・「奏上する」
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
装束(しょうぞく)=名詞、衣服、服装、恰好。支度、用意。飾り。
とう(疾う)=副詞、早く。 「疾く(とく)」が音便化したもの。
せよ=サ変動詞「す」の命令形、する。
(宮中に)参上して奏上しよう。車に支度を早くしなさい。」
と言ふ声聞かせ 給ひ けむ、さりとも あはれに 思し召し けむ かし。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である花山院を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。
けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。
さりとも=接続詞、そうであっても。いくらなんでも。「今は~だとしてもこれからは~だろうと」といった意味。
あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと感じられる、しみじみと思う、しみじみとした情趣がある
思し召し=サ行四段動詞「思し召す(おぼしめす)」の連用形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である花山院を敬っている。作者からの敬意。
けむ=過去推量の助動詞「けむ」の終止形、接続は連用形。
かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。
と言う声をお聞きになっただろう(その時の花山院のお気持ちは)、そう(=覚悟の上での出家)であってもしみじみと感慨深くお思いになったことでしょうよ。
「且、式神一人内裏に参れ。」
且(かつがつ)=名詞、とりあえず。ともかく、何はともあれ。さっそく、早くも
内裏(うち・だいり)=名詞、宮中、内裏(だいり)。天皇。 宮中の主要な場所としては紫宸殿(ししんでん:重要な儀式を行う場所)や清涼殿(せいりょうでん:天皇が普段の生活を行う場所)などがある。
参れ=ラ行四段動詞「参る(まいる)」の命令形、謙譲語。動作の対象である花山院を敬っている。晴明からの敬意。
(清明が、)「とりあえず、式神一人が宮中に参上せよ。」
と申し けれ ば、目には見えぬものの戸をおしあけて、御後をや見参らせ けむ、
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象を敬っている。作者からの敬意。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
参らせ=補助動詞サ行下二「参らす」の連用形、謙譲語。動作の対象である花山院を敬っている。作者からの敬意。
けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。
と申し上げると、人の目には見えないものが戸を押し開けて、(花山院の)御後ろ姿を見申し上げたのでしょうか、
「ただ今これより過ぎさせ おはします めり。」といらへ けりとか や。
より=格助詞、(経過点)~を通って。(起点)~から。(手段・用法)~で。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「おはします」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である花山院を敬っている。式神からの敬意。
おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の終止形、尊敬語。「おはす」より敬意が高い言い方。動作の主体である花山院を敬っている。式神からの敬意。
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
いらへ=ハ行下二段動詞「答ふ/応ふ(いらふ)」の連用形、答える、返事をする
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
「とかや」= ~とかいうことだ。 ~とかいうことです。
か=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「言ふ・聞く(連体形)」などが省略されている。
や=間投助詞
「ただ今、ここを通り過ぎなさっているようです。」と答えたとかいうことです。
その家、土御門町口なれ ば、御道なり けり。
なれ=存在の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形。「なり」は直前が名詞である時、断定の意味になることが多いが、その名詞が場所を表すものであれば今回のように「存在」の意味となることがある。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
その家(=清明の家)は、土御門通りと町口通りの交わる所にあるので、(花山院が通る)お道であった。
続きはこちら大鏡『花山院の出家』解説・品詞分解(3)