古文

雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解(2)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(2)

 

勝四郎も心くらみて、しばし物をも聞こえざり が、

 

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形

 

勝四郎も気が動転して、しばらく何も言えなかったが、

 

 

ややして言ふは、「今までかく おはすと思ひ など年月を過ごすべき

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

おはす=サ変動詞「おはす」の終止形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。

 

な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」である。ちなみに、直前が已然形ならば①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかである。

 

など=副詞、どうして、なぜ。

 

べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

少しして言うことには、「今までこのように(無事で)いると思ったならば、どうして(他国で)長い年月を過ごしただろうか。

 

 

往ぬる年京にありつる日、(かま)(くら)(ひょう)(らん)を聞き、御所の(いくさ)(つい)しか 、総州に避けて防ぎ給ふ

 

往ぬる=ナ変動詞「往ぬ(いぬ)」の連体形。ナ行変格活用の動詞は「死ぬ・往ぬ(いぬ)・去ぬ(いぬ)」

往ぬる年=去った年、先年

 

ありつる=以前の、先程の

あり=ラ変動詞「あり」の連用形

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

 

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。

 

先年、京にいた時、鎌倉の戦乱のことを聞き、御所方の軍が敗れたので、(御所方の軍は)下総に逃げて防戦なさる、

 

 

管領(かんれい)これを攻むる事急なりといふ。

 

管領(かんれい)=名詞、室町幕府の職名。ここでは上杉憲忠(うえすぎのりただ)の事を指している。

 

急なり=ナリ活用の形容動詞「急なり」の終止形、激しい

 

管領方はこれを攻めるのが激しかったということだ。



 

その明日(ささ)()に別れて、()(づき)の初め京を立ちて、木曽路を来るに、山賊あまたに取りこめられ

 

八月(はづき)=名詞、陰暦の八月。「葉月」と書くこともある。

 

あまた(数多)=副詞、たくさん、大勢

 

られ=受身の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

その翌日、雀部と別れて、八月の初めに京を出発して、木曽路に来たところ、大勢の山賊に取り囲まれ、

 

 

衣服金銀残りなく(かす)られ、命ばかりをからうじて助かり

 

られ=受身の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

からうじて=副詞、やっとのことで

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

衣服金銀残らず奪われ、命だけはやっとのことで助かった。

 

 

かつ里人の語るを聞け、東海・東山の道はすべて新関を据ゑて人をとどむるよし

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

据ゑ=ワ行下二段動詞「据う(すう)」の連用形、ワ行下二段活用の動詞は「植う(うう)」・「飢う(うう)」・「据う(すう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。

 

由(よし)=名詞、旨、趣旨、事情

 

さらに里人の話を聞くと、東海道・東山道はすべて新しい関所を設けて、人(の往来)をとどめているということだ。

 

 

また昨日京より(せつ)()使()も下り給ひて、上杉に(くみ)し、総州の(いくさ)に向かは 給ふ

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は「使役」と「尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ているため文脈判断する。二重敬語。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。

 

また昨日は京から節刀使もお下りになって、上杉に加勢し、総州の戦いに向かいなさった。

 

 

本国の辺りはとくに焼き払は、馬の(ひづめ)(せき)()ひまなしと語るによりて、今は灰塵(かいじん) なり 給ひ けん

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

ひま=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。

 

けん=過去推量の助動詞「けむ」の連体形が音便化したもの、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形になっている。係り結び。文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」だが、文中に来ると「過去の伝聞・婉曲」となることをもとに識別する。

 

故郷の辺りはとっくに焼き払われ、軍馬のひずめに踏み荒らさされない所は少しもないと話すのを聞いたので、もはや(あなたは)灰と化しただろうか、

 

 

海に沈み給ひ けんとひたすらに思ひとどめて、また京に上りぬる より、人に口もらひて七年は過ごしけり

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。

 

けん=過去推量の助動詞「けむ」の連体形が音便化したもの、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形になっている。係り結び。文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」だが、文中に来ると「過去の伝聞・婉曲」となることをもとに識別する。

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

海に沈んでしまっただろうかとひたすら思いとどめて、再び京に上ってから、他人に生活の面倒を見てもらって七年を過ごした。



 

このごろすずろにもののなつかしくありしか 

 

すずろに=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形、なんとなく、わけもなく。むやみやたらである。意に反して、意に関係なく。何の関係もないさま。

 

なつかしく=シク活用の形容詞「懐かし(なつかし)」の連用形、親しみが感じられる、親しみやすい。心惹かれる様子だ、慕わしい。

 

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

近ごろ、むやみに故郷がなつかしくなったので、

 

 

せめてその跡をも見たき ままに帰りぬれ 

 

たき=希望の助動詞「たし」の連体形、接続は連用形

 

ままに=~にまかせて、思うままに。~するとすぐに。(原因・理由)…なので。「まま(名詞/に(格助詞)」

 

ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

せめてその亡き跡を見たいと思うままに帰ってきたが、

 

 

かくて世におはせ とはゆめゆめ思はざり  なり

 

かくて=副詞、このようにして、こうして

 

おはせ=サ変動詞「おはす」の未然形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。

 

ん=推量の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

ゆめゆめ=副詞「ゆめゆめ」の後に打消語(否定語)を伴って、「決して~ない・少しも~ない」となる重要語。「ゆめ」だけの時もある。ここでは「ざり」が打消語

 

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

こうして生きているとは少しも思わなかったのだ。

 

 

()(ざん)の雲、(かん)(きゅう)の幻もあらざる 。」と繰り言果て  なき

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ざる=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

や=疑問の係助詞

 

し=強意の副助詞。訳す際には気にしなくて良い。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

なき=ク活用の形容詞「無し」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

巫山の雲、漢宮の幻ではないだろうか。」と何度も繰り返して言うのだった。

 

 

続きはこちら雨月物語『浅茅が宿』解説・品詞分解(3)

 

 雨月物語『浅茅が宿』現代語訳(2)

 

 雨月物語『浅茅が宿』まとめ

 

 

-古文